第24話「守る為の拳」
数日が経過。
あの衝撃の事実は頭の中から離れない
恐怖、不安、孤独、そして絶望。
汎ゆる負の感情が伸し掛かる
全身が鉛のように重く感じる。
「姉貴おはよ」
「うん!おはよ!いぬお」
「今日は俺と散歩に行かないか?」
「え?」
ログハウスから外へ太陽の光が眩しい
いぬおに優しく手を引かれ歩く。
「ちょっと…いぬお?私まだ行くなんて…」
「いいからいいから。」
いぬおは笑ってごまかしながら
適当に返事を返す。
「何を考えてるのか分かんないけど…つまんないことだったら私怒るからね!」
「つまらなくないよ。多分な。」
魔物の森の中間辺りの所にたどり着いた。
「結構広い場所だね。」
「そうだろ。この場所この前、リューコと椿がストレス発散に手合わせした場所なんだってさ。」
握っていた手は離れていて
いぬおはいぬこと対峙。
「たしかにここなら安全に…」
僅かな殺気を感じたいぬこは反射的に何かを避ける。
「っ!?!」
避けた先の地面が斬りつけられたような跡が刻まれている。
「いぬお…なんのつもりなの。」
「姉貴。俺と戦ってくれ。」
「は?!何言って…!?」
再び殺気を乗せた爪からの斬撃が飛ばされる。
「俺は本気だ!避けないと本当に当たるぞ。」
空気を切り裂くような勢いでいぬおは斬撃を容赦なく飛ばしてくる。
バックステップを踏みながら距離を取り様子を見るいぬこ。
「なんでこんな事するの!!」
「決まってる。姉貴を守るためだ。」
更に斬撃は勢いを増す。
さっきを乗せて飛ばす斬撃は読み易い。
安易に交わすことが可能。
「殺気を乗せて飛ばす斬撃は避けやすいと思っただろ姉貴。」
「!?」
斬撃にかまけていて
いぬおとの距離感がずれていることに気がつくのが遅れる。
斬撃を飛ばした後斬撃の背後にはもう既にいぬおはいぬこの懐に入っていた。
「姉貴…俺は姉貴より強くなりたいだから。」
拳をぐっと握り
繰り出される右ストレート。
その攻撃はいぬこの腹部をとらえる。
「っ?!!」
手加減が無いその拳は重く感じた。
そのまま後ろに飛ばされる。
佇んでいる木々に叩きつけられ身体が痺れる。
「………っ…」
「姉貴。なんでだ。なんで攻撃を返さない。」
「……決まってるよ…。嫌だから。」
「………俺だって…本当はこんなの間違ってると思う…でも俺は姉貴を超えなきゃならない。姉貴よりもリューコよりも椿よりもツキノやシスティよりも…誰よりも強くなる必要がある。そうじゃないと…守れない…俺じゃ届かないって思ったからだ…。今引けば、きっともっと弱くなる。だから…。姉貴…立ってくれ。そして、本気で来てくれ。」
いぬおがそう告げた後、いぬこと再び距離を取り戦闘態勢をとる。
「勝手なこと言って…守るため?ふざけないでよ…私だってもっと強くなりたいよ!みんなを守れるように…でも…怖いわ。すごく怖い。不安だし、今だって身体が鉛のように重くて仕方ない。どうしていいかわからない…考えたくもない…。」
「だったら…全力でぶつかってこいよ。姉貴…。姉貴は今すっごくイライラしててどうしょうもないんだろ。」
ゆっくりと立ち上がりいぬこはいぬおの前に立つ。
「うん。確かにこれは退屈しないね。そう言えばさ…私達、今の今まで本気で喧嘩したこと無かったよね。」
いぬこの視線は真っ直ぐにいぬおを見つめる。
いぬおの口角がゆっくりと上がる。
「そうだったな。はは…正直。あの姉貴と本気で戦えるなんて考えたら、楽しみで仕方ないぜ…。」
次の刹那、先手を取ったのはいぬこ。
「さっきのお返し…」
右手に収縮した炎の塊を拳に込め腹部めがけて撃ち抜くように殴る。
見事にその一撃は深く入った。
「っ!!!?」
その勢いで更に拳から燃えるような熱がいぬおをさらに苦しめる。
「ぐああああっ!!!」
悲痛な声は魔物の森に響き渡る。
形勢逆転。
次はいぬおが吹き飛ばされる。
そのまま地面にうまく転がり込むように受け身を取る。
いぬおの衣服は腹部が焼けてしまっていた。
「くそ…俺のお気に台無しだぜ…。姉貴。」
「知らないよそんな事自業自得。」
鋭い視線がギロリといぬおを睨んでいる。
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