第8話「ドラゴン少女の来訪」

蛇の魔物討伐の際に突如として現れた謎の少女リューコは蛇の魔物を氷漬けにしいぬこ達の前に立っている。


「助けに…?もしかして商人さんからの増援?ってこと?」


「商人?誰それ?知らないわ。そんな奴…。」


リューコは呆れた様子でため息を吐く。


「ところで…アンタ達こんなところで何してるの?」


キョトンとした顔でいぬこは未だ状況を飲み込めない様子だ。

そこにいぬおが駆けつける。


「誰だか知らないけど、助けてくれてありがとう。助かったぜ。俺の名前は黒上いぬお。そこで座り込んでる人の弟だ。」


「ふーん。さっきも言ったけど、私はリューコよ。色々あって事情はあまり話せないけど…とある人物から頼まれてあなた達を救いに来たの。」


「とある人物…?」


「ええ…まぁ…。それより…大きい蛇ね。」


リューコは氷漬けにした魔物に近づき物色する。

いぬおがリューコに静止を呼びかけるがリューコはそれを無視する。


「へー…ムカつくわね…こいつ。」


リューコがボソボソと呟くと氷漬けにした魔物に触れ更に冷気を流し込んだ。


「砕け散れ。」


氷漬けとなっていた蛇の魔物はパキパキと音を立て砕け散った。

いぬこといぬおはその光景に絶句する。


「…………。」


「俺達と次元が違いすぎる。」


リューコは砕け散った魔物を後にこちらへ戻って来る。


「あれでよかった?」


「ああ…。」


「うん…。すごい強いね…?リューコさん。」


「当たり前よ…私、絶氷龍よ。って言っても…ココの世界では伝わらないのよね…。」


少し寂しそうな顔をしながらそっぽを向くリューコ。

いぬこは少し落ち着いたのかゆっくりと立ち上がりリューコに歩み寄る。


「リューコさん。」


「ん?なによ。」


いぬこはリューコの小さな手を握り感謝を伝える。


「ありがとう。助けてくれて。」


「…………。あの程度の奴ならどうってこと無いわ。まぁ…どういたしまして。」


いぬこたちはこうしてリューコの助太刀により魔物の森から無事に江野町商店街へ帰還を果たす。

いぬこ達の帰還の報告を受けすぐに飛んできた商人さんはいぬこといぬおに飛びつき涙を流しながら喜んだ。


「お二人共!ご無事ですか!!」


「えへへ…なんとかね。」


「商人さんがくれた特殊道具役に立ったぜ!」


「おお!そうでしたか!それは何より!…っておや?」


商人がリューコに気が付く。

ジッと見つめ観察する。

リューコが不機嫌そうな顔で商人を睨めつける。


「なによ。あんまり見ないでくれる?」


リューコの気に触ったのかそっぽを向く態度を取るリューコ。

商人は慌てて謝罪を伝えるとリューコがダルそうに肩を落としながら仕方無しにに話す。


「私はリューコ。その2人に後から加勢してでかい蛇を氷漬けにしてばらばらにしたの。」


「え?!バラバラに!?素材は…無事でしょうか!?」


「知らないわ。」


そっけない態度を取るリューコだったが商人は気にしていない様子。

それよりもリューコが身に付けている衣装や装飾に目が釘付けになっている。


「………商人といったかしら。さっきも言ったけどあまりジロジロ見ないでくれる?」


先程より圧を感じる。

商人は少し身を引き謝罪する。


「ごめんなさい。あまり見ない物ばかりでしたからつい…商人としての血が騒ぎまして…。本当にごめんなさい。」


「………。わかったわ。もういい。」


ほっと胸を撫で下ろすいぬこといぬおは場を元に戻そうと二人をフォローした。

場所は変わり商店街は宿泊施設【憩い】にて1夜を過ごす事となった。

今回、部屋が二人部屋と一人部屋しか空いていなかったため、いぬこはリューコと同じ部屋でいぬおは一人部屋を使用する事になった。

商人はというと自身のお店に今夜は戻ることになった。

時刻は深夜の2時もうすぐしたら朝になる時間帯。

リューコは疲れたのか何も言わずベッド倒れかかりそのまま眠ってしまった。

流石に放ってはおけないのでリューコを起こし渋々ながらもちゃんとベッドに入って寝てもらうことが出来た。

いぬこも限界が来ていたのか電池が切れたかのようにベッドに潜り込んでそのまま眠りにつくのだった。


「おやすみなさい。」


目が覚めて、備付けの時計を見るとお昼時を指していた。

いぬこは周囲を見渡すと、リューコの姿が見当たらなかった。


「あれ?リューコさんは…?」


ゆらゆらと起き上がり窓を開ける。

晴天の光が差し込み眩しい。


「うぅっ!?目がぁ!?」


「もう昼だったのに何してるのよ。」


リューコが部屋のドアを開けて帰ってきた。


「おはよう。リューコさん。どこ行ってたの?トイレ?」


「ええ…そんなところよ。でも今は「こんにちは」よ。いぬこ。」


「あ、そうだね。こんにちはリューコさん!………あれ?リューコさん。私の事呼び捨てだ!」


いぬこの大きな声で一瞬びっくりしかけたリューコ。


「ええ。そのほうが呼びやすいし。いいでしょ?」


「えっ!私は勿論いいよ!嬉しいし!えへへ!じゃあ!私もリューコって呼んでいい?」


リューコは少し考えた後にOKサインを出す。


「やったー!よろしくね!リューコ!」


「…………よろしく。」

(初めて会ったときから呼び捨てだったような気がするのだけれど……ツッコまないでおこう。)


ぎこちなさそうな表情だが内心は少し嬉しいリューコだった。

リューコがハッとした顔でいぬこの方を見る。


「そういえば…いぬこの弟に会ったわよ。」


「いぬおに?」


リューコの話によればリューコは朝方お手洗いに行こうと部屋を出て迷っているとたまたまいぬおも起きていてお手洗いに向かうところだったという。


「お互いに変なタイミングで少し笑ってしまったわよ。」


「それからどうしたの?」


いぬこは楽しく話すリューコの話をワクワクしながら聞いていた。


「お手洗いを済ませた後、私は少し外の空気を吸いたくてそのまま外に出ていったらまたアンタの弟がいたのよ。」


「運命かな?」


「そんなわけないでしょ。」


くすくすと笑うリューコ。

他愛ない話をそのまま淡々と続ける。


「無視するのも…なんか悪いって感じたから。話しかけてあげたの。」


「ほお…」


【宿泊施設前にて】


「また会ったわね。おはよ。」


「ああ。さっきから奇遇だな。おはよう。」


「何してるの?こんな朝早く?」


「見てわからないか?」


いぬおは身体をぐーっと伸ばし息を吐く。


「伸び?」


「体操だよ体操。お前もやるか?」


「お前じゃないわ。リューコよ。後、やらないわ。」


「そっか。ごめん。リューコさん。」


いぬおは少し残念そうな顔をすると身体の運動を再開する。

リューコは何となくその光景を眺めている。


「…………。」


「ふっ…ふっ…」


軽く跳躍や身体をよじるようにして柔軟性を高めたりこれが本当に何のためになるのか理解出来ないリューコ。


「良く疲れないわね。」


呆れた様子で言葉を吐く。

いぬおがニコニコしながらそれに答える。


「疲れるよ。体操でも。でもこういうのはさ…続けてやらないと意味ないと思うから。これが終わった後少し走り込みに行ってくるんだ。」


「………偉いわね。素直に感心するわ。」


クソ真面目で努力家のいぬおに関心を持つリューコ。

いぬおは褒められたのが嬉しかったのか満面の笑みで感謝を伝える。


「ありがとう!」


「っ!?」(ドキッ…!?)


リューコが一瞬、その笑顔を見た瞬間胸がキュッと締め付けられる。

この感覚がリューコには理解できなかった。

顔も少しだけ熱くなる。

リューコが少しうずくまる。

その様子を見ていぬおが駆けつけた。


「おい!大丈夫か?」


蹲っているリューコに目線を合わせるようにいぬおもしゃがみ駆け寄る。

リューコは不意にいぬおが近くにいたことに驚く。


「何ですぐ目の前にいるのよ!」


「いや…お腹痛くなったのかなって…」


「私は腹痛になったことは無いわ!とにかく大丈夫だから!離れなさい!」


「………お、おう。…でも…」


いぬおが再び心配で駆け寄ろうとするがリューコが威嚇のつもりか右手から小さな氷塊を生成している。

よらない方が良さそうと判断したいぬおは一定の距離についた。


「これでいいか?」


「ええ。私はいぬこの様子を見てくるわ。」


「ああ。わかった!」


そう言ってリューコはげっそりとした表情で宿に戻っていく。

さっきのあれは何だったのかとリューコは頭を抱えるが面倒くさいので諦め、いぬこを起こしに戻って来たということだ。


全てを聞き終わるといぬこが満面の笑みでリューコを見つめる。


「あー青春の始まりですなー。」


「なによ。青春って。」


「………そのうちわかるよ…おほほ。」


「なんかうざい…。」


コンコンと、部屋のドアを叩く音が聞こえる。


「いぬおじゃないかな?」


「わかるの?」


「なんとなくね?」


ドア越しにいぬおの声が聞こえる。


「姉貴ーそろそろ。宿でないと宿泊料高くなるって宿主から言われてる。早く帰宅してお昼ご飯食べに行こうぜー。」


「あっ…やっば!」


いぬこは慌てて返事を返した後、3人で宿屋を出る。

宿泊施設の前には昨日の商人が待っていた。


「こんにちは皆さん。ぐっすりと休息は取れましたか?」


リューコがいぬこの後ろにスッと隠れる。

それを見た商人は残念そうだ。


「どうやら嫌われてしまったようですね…」


「大丈夫ですよ。まだ慣れないだけですよ。きっと…。」


リューコは何も言わずジッと商人をみるがすぐにそっぽを向く。


「ところで、商人さんはなんでここに?」


「いやいや…昨日の討伐祝いに決まってるじゃないですか!」


ということで場所は変わり、美味しいごはん屋さんに到着する。


リューコは辺りを見回し警戒している様子。


「リューコさんは初めてでしたね。どうです?驚きましたか?」


「そうね。あんなボロボロの所に連れてきた時は内心引いていたけれど…こんな展開になるなんて思いもしなかったわ。」


リューコは冷静で言葉を返すと商人は満足した様子で鈴を鳴らし料理が音を立てテーブルに並べられていく。

そして意気揚々と商人が各席に飲み物が入ったグラスが行き届いたのを見届け、乾杯の合図をとった。


「では!この度、蛇の魔物討伐とリューコさんに出会えた事を祝しまして!乾杯!」


「「「乾杯ー!」」」


とてもお昼とは思えないほど豪華な料理を堪能し大満足のいぬこ達は一度、我が家に帰ることにする。

商人に感謝を伝えた後、美味しいごはん屋さんを去っていく。


道中3人で何気ない会話をしながら帰る。


「ねぇ…リューコ。」


「なによ。」


不意にいぬこが質問する。


「貴方はどこから来たの?」


「そうね…遠い遠い。すごく遠い場所からよ。」


リューコは寂しそうな表情を浮かべながら話す。


「私の故郷は…そうね。冷たくて寒くて白い場所だったわ。」


「雪がいっぱいだったの?」


「そんなところね。」


「皆で雪合戦したら楽しそう!」


「皆で…ね。」

(そうだったら…どれだけ良かっただろうか…)


苦笑するリューコはそう言うと身に付けている王冠にそっと優しく手を置く。

いぬおは後ろからその様子を見て話しかける。


「リューコさんは…」


「リューコでいいわ。」


「いいのか?」


「いい。いぬこがいいんだからアンタもいいわよ。」


先ほどの寂しそうな表情とは変わり少し照れくさそうにするリューコ。

いぬおは内心ホッとしつつ笑顔で感謝する。


「ありがとな。リューコ!」


「ええ。…で、いぬおアンタさっき何言いかけたの?」


「………あれ?なんだっけ…?」


リューコの不意な優しさに感動していたいぬおは先ほど気になってリューコに聞きたかったことをドわすれしてしまうのだった。


「あれ?あれ…???マジでなんだっけ…?!さっきまで言おうとしてたのにー!?」


いぬこがその様子のいぬおをみてうんうんと首を縦に振る。


「あるよね。わかるよ…いぬお。」


「いぬこはしょっちゅうありそうよね…。」


「そんなことないよ!…………たぶん。」


胸を張るいぬこだが一瞬で不安が立ち上った。


「自信あるなら言い切りなさいよ。」


いぬおはまだ思い出せず悶えていた。









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