第7話「焼け爛れと凍てつく森」
前回、魔物の森にでの戦闘にて、商人の依頼により納品予定の材料を届けるべく江野町商店街へと向かっていた道中で出くわした蛇の魔物。その蛇の魔物はいぬこの能力で倒したかと思われたがそれが生きていたという事実を受け、自身の弱さと死ななかったかもしれない命を守れなかった悔しさもどかしい複雑な気持ちを抱きながらいぬこは自身一人で決着をつけようと美味しいごはん屋さんから飛び出し魔物の森へと駆けていくのだった。
「姉貴!待てよ!一人で行くつもりか!」
後方からいぬおが追ってくるのを見ていぬこは小さく炎弾を生成しいぬおに向けて放つ。
「ごめんね。いぬお。勝手なお姉ちゃんを許して。」
ヒュン!
「ぐああっ!?」
地面に転がるいぬお。
いぬおが再び態勢を立て直し走り出す。
「こんなもんでとまんねぇ!行かせない!!」
いぬこに追いつくだけでも精一杯だったいぬお。
今は違う。
ちゃんと成長している。
あの時の小さないぬおじゃないんだとわからせるためにいぬおは本気になる。
足に力を込め大地をえぐる踏み込みスタートダッシュを決める。
「あの時みたいに守られてばかりの俺じゃ嫌なんだ。追いつかなきゃいけない追い越さなきゃいけないんだ!」
かなり距離を離していたはずのいぬことの距離が急激に縮まる。
いぬこの背後をとる。
「っ!?」
いぬこがいぬおの存在を認識する。
いぬおはいぬこの手を掴んでいた。
「やっとつかまえた!…病室でも言った通りだ。俺は姉貴のために頑張る。姉貴がどうしてもって言うなら…俺たち2人でだ!もう俺も!姉貴が傷つくのは嫌だ。見てるだけなんて嫌なんだ!」
「……いぬお…。」
「2人で決着をつけに行こう。今度こそ。」
いぬおの赤い瞳には覚悟の意思が灯るようだった。
「でしたら…特別に私もお手伝いします。」
2人の背後に音もなくあの商人が立っていた。
ぎょっとする二人にくすくすと笑う商人。
「なんで商人さんがここに…」
「秘密です。私…秘密主義者なので。ところで単刀直入に聞きますが、お二人だけで本当に魔物を討伐するんですか?」
その問いにいぬこといぬおは互いに顔を見合わせ、頷く。
呆れた商人がため息を吐くと商人が荷物から多種多様の特殊道具を無償でいぬこたちに手渡す。
「ありがとう…でもどうしてこんなにも…」
「簡単です。私はあなた達が気に入ったから。それだけですよ。…それに…無事に蛇の魔物を倒した後素材は私にまわしていただければ更にいいですからね!」
優しさと本音が同時に漏れ出している商人を見て少しまで怒りのままに行動していた自分がバカみたく思えてきたいぬこは笑みをこぼす。
「ありがとう…商人さん。おかげで和んだよ。」
「なんか…いいとこ取られた感じがするけど…俺からも感謝するぜ。ありがとう商人さん。」
「いえいえ。」
その後、商人から貰った特殊道具を各種説明を受けたあと準備は完了。
夜に行動を開始する。
夜、いぬこといぬおが仮拠点の宿泊施設を後にする。
それを見送る商人。
「御武運を。」
いぬこたちは魔物の森へと侵攻を開始した。
周囲を警戒し進んでいく。
「やっぱり夜は静かだ。あの蛇の魔物も寝てくれていたらいいのにな。」
「そうね。」
蛇の魔物との戦闘があった場所へと向かう。
すると大きな何かにすり潰されたように雑草や木が倒れている。
恐らく蛇の魔物の目印だ。
その後を辿り行く道中には昨日の山賊の血痕が複数見つかる。
いぬこはそれを見るたびに思い詰めた表情になる。
「……………っ…」
「姉貴。必ず倒そう。」
いぬおがいぬこの肩を叩き笑顔を見せる。
「そうだね。絶対倒す。」
「その意気だ!」
蛇の魔物の手がかりをつかんだ二人は更に魔物の森の最深部に進む。
奥に進むにつれて月の光が差し込みにくくなっており、視界が不安定になる。
しかし、魔物の森で過ごしている2人には関係ない話。
いぬこがいぬおに静止を小さく呼びかける。
「いぬお…待って」
暗がりで蠢くなにか。
ズルズル…ズルズル…
何かが這うような音が聞こえる。
「奴よ。見つけた。」
幸いこちらが先に見つけた為、先行はこちらが取れそうだ。
仕掛けるなら今だが商人から貰った特殊道具が役に立ちそうだ。
「いぬお!これを使うよ!」
「なるほどな!目を潰すか!」
ニッと不敵に笑ういぬこ。
蛇の魔物は目が厄介。
蛇の目を見てしまうと「石化」意思にはならないが全身麻痺状態になり行動不能になる。だからこれを先に潰しにかかる。
合図とともにいぬおが先に飛び出す。
いぬこは後方でラストアタックの為に炎弾を生成する。
勢い良く飛び出したいぬお。
それに気がつく蛇の魔物だがこちらが先行。
魔物は反応が遅かった。
「うおおおおっ!!これでも喰らえっ!」
いぬおは特殊道具【閃光爆】を力一杯蛇の魔物目掛けて投げつけるするといぬおは瞬時に離れる。
暗がりの魔物の森が一瞬で朝のように光が灯ると同時だった。蛇の魔物の目の前で爆発する。
見事に命中し完璧だ。
蛇の魔物は光と爆破で目を失った。
不意を突かれた魔物が悲痛な叫びをあげてその場に倒れる。
「しゃあああああ…っ!?」
間髪入れずに立ち込める砂ぼこりからいぬおの鋭い爪の斬撃が蛇の魔物に襲いかかる。
こちらはダメージはあまり見られない様子だがいぬおは連続で斬撃を飛ばし続ける。
小規模のダメージでも当て続ければ体力は削れていく。
「やっぱり鱗が硬い…。でも当て続けりゃ!」
蛇の魔物がゆらゆら起き上がる。
いぬおは距離を取り斬撃を飛ばし続けるが蛇の魔物はそれを察知し強靭な尻尾で薙ぎ払い相殺する。
「シャアアアアアッ!!!」
怒りの咆哮を上げいぬおがいる場所に突っ込んでくる。
「な、!?こいつ…目を潰してんのに!!なんでわかるんだ!?」
いぬおは紙一重で躱す。
大地を抉るほどの突進。
2撃目3撃目ますます早くなってくる。
「チィッ!こっち来んな!!!」
いぬおも応戦しようと斬撃を飛ばしまくる。
しかし攻撃は通らない。
逃げの一手で手一杯だ。
「「シャアアアアア!!!」」
「くっ…そが!!!」
いぬおも対応が追いつかなくなってきたその時。
「「いぬお!お待たせ!!!」」
茂みから身を潜めラストアタックの為に炎弾を生成していたいぬこが飛び出す。
「姉貴!!」
いぬこは超巨大の炎弾生成に成功。
最深部が焼け野原にならないか心配なくらいだが四の五の言っている場合ではない。
「「クソヘビ野郎!!今度こそ!!死んどけぇ!!!」」
いぬこが渾身の一撃を打ち放つ。
炎弾は魔物目掛けて一直線。
それは蛇の魔物を一気に飲み込む。
ジュウウウッ!
あの強靭な鱗も溶かす勢いで燃えている。
蛇の魔物も悪あがきを見せる。
火だるまになりながらもまだ戦闘の意思は消えていない様子だった。
「嘘でしょ………。」
「シャアアアアア!!!」
恐々たる咆哮をあげ空から強い雨が降り出す。
蛇の魔物を焼き尽くしていた炎は雨で消えそれどころか雨を吸収し焼け爛れた皮膚を再び生成している。
「……おいおい。まじかよ!くそが!!」
蛇の魔物は元通りの姿に復活を遂げてしまった。
そして…赤く光る瞳が二人を捕らえてしまったのだった。
体が全く動かない。
「いぬお……」
「姉貴………」
ゆっくりとズルズルと大きな体を動かしこちらに迫ってくる。
赤い瞳が段々と大きくなる。
大きく口を開けをこちらに襲いかかろうとした時だった。
「「「アブソリュート!!!」」」
強烈な冷気と共に女の子の声が響く。
蛇の魔物が動かない。
いや、動かないのでは無い。
凍っている。
周囲を見渡すとあちこちに冷気が漂い凍てついている。
蛇の魔物が凍ったことにより全身麻痺の状態は消えた。
その場にへたりと座り込む。
「なにこれ…いったい何が…?」
「…アンタね。黒上いぬこってのは。」
背後から呆れた様子でいぬこたちを見つめながら女の子は尋ねる。
青白いキラキラしたドレスに身を纏い角と大きな尻尾が生え王冠を被っている。
「そう…だけど。貴方は…一体……誰???」
「私はリューコよ。アンタを救いに来たわ。」
そう言ったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます