第9話「森の試練と魂の約束」

自宅へ戻るべくして魔物の森を歩き進めて、もう中間くらいの距離まで来ていた所に中型の魔物がエンカウント。

戦闘が繰り広げられていた。

いぬこが小さい炎弾を生成し魔物に照準を合わせ放つ。

しかし躱されてしまう。


「こいつ…すばしっこい!」


中型は約50センチ程度。

今回の魔物は恐らくイタチ。

この程度の魔物であれば放っておいてもいいがこの系統の魔物には何かと嫌な思い出が多いのだ。

リューコは腕組みしながら様子をうかがっていたが見る身に兼ねたのか地面に足をタンタンと叩くと瞬間広範囲に冷気が漂い地面が凍てつく。

それによりイタチの魔物の動きが止まる。


「キャキャ!」


「ありがとう!リューコ!」


いぬこが炎弾を装填、打ち放つ。

イタチの魔物に命中、イタチの魔物は悲痛の声を上げ力尽きた。


「よし…食材ゲット」


力尽きたイタチの魔物をヒョイッと持ち上げる。

いぬおがその魔物を見て少し残念そうにする。


「今回のは少し小さいかもな。」


「かもね…。」


「アンタ達の食事も苦労してるのね。」


「まぁ…サバイバルだよ。」


「私も良くにたものだったけどね。」


「そうなんだ…意外。」


魔物(食料)を確保し再び帰路に着く。

少し森を抜けた場所にログハウスが見えて来た。

いぬこたちは無事に自宅に帰ってきたのだった。

リューコを迎え入れ一同はウッドソファーに腰を下ろし休憩をとる。


「やっぱり我が家には勝てないよー…」


「だなぁー…久々のマイホーム…安心感がすげぇよ。」


リューコは落ち着いた様子で室内を見回す。


「…………。この家、凄いわね。」


「この家はいぬおが建ててくれたんだよ。」


「えっ…」


リューコがいぬおに視線を送るといぬおはキョトンとした顔で?な表情をしていた。


「いぬおが一人で?」


「うん。一人で。この家がない時はずっと私達野宿生活だったんだよね。ねー?いぬお?」


「そうだな…今思えば懐かしいな。」


「いや…普通に家建てられるとか凄すぎでしょ。」


「直ぐにできたわけじゃないけど少しずつ時間をかけたから実際には結構かかったよ。」


「でしょうね。」


「でも、またいぬおに部屋つくってもらわないとね。」


いぬこがいぬおに視線を送るとそっといぬおが視線を躱すようにそらす。


「いぬおなんで逸らすの?」


「いや…そんなことはないぞ。」


「まさか新しい仲間の為に部屋を建てるのが面倒くさいってわけじゃないよね?」


いぬこがいぬおに対してジリジリと距離を狭めていく。


「………。仲間…と言えるのかな…私は…。」


リューコが申し訳無さそうな表情で下を向いて話している。


「私は今思えば、無理やりいぬこたちの前に現れて、そのまま何ごともなく着いてきてしまったけれど、私はあなた達にとって信用たる存在なのかしら。もしもこれが何かの罠で…」


リューコが話してる最中にいぬこといぬおはその話を聞いて笑う。

真剣に話していたリューコがムッとした表情で怒る。


「何がおかしいのよ!私は…」


「信じるよ。」


いぬこが断言する。


「は?出会って1日、2日程度の知らないやつを信じる…?って言うの?」


「うん。信じるよ。」


「…………。そう。変わってるわね。」


「一緒に寝た仲だし。」


「変な言い方しないでくれる?」


いぬこが切り返すように言葉を返す。


「さっき罠かもしれないって言ってたけど。殺しにでも来たとか?リューコならいつでも私達殺せたと思うよ。でも殺さない、何もしない、むしろ助けてくれてる。……ていうか…助けに来た。ってリューコが自分から言ってたじゃん。」


「そ、そうだけど…。」


「リューコ。諦めろ。姉貴は他のやつに対してもいつもこうなんだ。」


いぬおも呆れた顔でリューコの複雑そうな顔を見る。


「警戒心がないわけじゃないぜ?…ただ姉貴はお人好しというか…なんというか。こんなことは俺たちの日常じゃ慣れっこなんだ。」


リューコはその言葉を聞くと複雑そうにしていた表情が和らぐ。


「………そう。…じゃあ、信頼の証に…っていうと変だけど…私についての質問に答えられる範囲で答えるわ。」


リューコまっすぐと二人を見つめ受けの姿勢を見せる。

それに刺激されたのかいぬこたちも緊張気味に対面する。


「あなた達まで緊張しなくていいわ。楽にして私に質問するといいわ。」


いぬこといぬおは顔を見合わせ安堵の息を吐く。

いぬこが先陣を切り出すようにリューコに質問する。


「じゃあ…リューコのことを知りたいから簡単に自己紹介してほしい!」


「わかったわ。」


淡々とリューコはその後もいぬこ達による質問を受け答えていった。

リューコの目的は自身の大切な友達を救うためだった。とある事情でリューコの親友はリューコの王冠に魂が封印されてしまっている。

リューコの指令はいぬこたちの監視+護衛ということだけで詳しくは語られなかった。

依頼主からの連絡が来ない限りいぬこたちとどうしても同行する必要があった。

いぬこはそれを静かに聞いていた。

リューコが王冠に封印されている親友についても話す。

リューコが途中からボロボロと涙を流しながら不甲斐ない自分を語る。


「…だから。私は…シエルを助けるために…」


いぬこといぬおは2人立ち上がるとリューコが座るソファーの両側を埋め優しく抱きしめる。


「…………。」


何も言わずただいぬこといぬおもぼろぼろ泣いていた。


「あんたたち…。」


いぬこは泣きながら震えた声で言葉をこぼす。


「…大変だったんだね。リューコは…凄く…悔しかったんだね。」


いぬおも泣きながら続けて話す。


「俺達に…何が出来るかわかんねぇけどさ…むしろ助けてもらってばかりになるかもしれないけどさ…俺達も協力させてくれ…。」


いぬこといぬお両側で二人のすすり泣く音や優しい温もりがリューコの肌に伝わる。


「……………。」

(同情なんて…不愉快なだけだと…そう。思っていたのに…どうして…こんなにも…あたたかいんだろう…)


その時、一瞬潤んだ涙の先に。

目の前に死んだはずのシエルが見えた。

シエルは幽霊のようなうっすらとぼんやり白い。

シエルは笑いかけてリューコの頭を優しく撫でる。

撫でられているという感触はない。

でも…微かにいぬこたちと同じ様なあたたかさを感じる。

シエルが再び放れる。


「シエル…」


いぬこといぬおがリューコの異変に気づき一度抱きついていた体を離す。


「リューコ…どうしたの?」


シエルの姿はどうやらリューコにしか見えていない。


「シエルが…そこにいるの」


リューコは誰もいないウッドソファーを指さす。


「私達には見えてない…ね…」


「そうだな…」


シエルはリューコに微笑み消えていく。


「シエル…まって…シエル!」


シエルの姿は無慈悲に消えてしまった。

リューコはその場に立ち尽くし何も言わず、しばらく俯いたままだった。


「シエルさん…居たんだね。」


「ええ。」


「何か言ってた?」


「何も…言ってくれなかったわ…。」


「そっか…」


「でもね…いぬこといぬおが抱きしめてくれた時のぬくもりと同じ様な感覚を味わった。」


「どうゆうこと?」


リューコの表情が緩む。


「シエル…幽霊みたいな姿で、あのソファーの前で私達を見て笑ってたの。それで…近くに来て私の頭を撫でてくれたわ。撫でられている感覚は…残念ながら無かったけれど…でも…シエルに初めて抱きしめられた時のあのあったかい感覚がまた味わえた。…嬉しかった。」


いぬこといぬおがそれを聞いて安心する。


「……そっか。よかったね。」


「二人のおかげかもね。」


リューコがそう言うと今まで見たことがない優しい表情で二人に笑いかける。

その表情を見た二人は思わず互いに目を合わせる。


「姉貴…見たか?リューコの顔…」


「うん…これは…もはや…凶器だよ…胸が…苦しい…」


いぬこといぬおが胸をおさえながら蹲る。

リューコが心配して二人に駆け寄ろうとする。


「ちょっ…二人とも!?どうしたの?!」


「大丈夫!大丈夫!リューコが可愛すぎて!…こう…トキメいちゃっただけだから!!」


いぬこが立ち上がり復帰する。

リューコはその言葉を聞いて?の表情だった。


「何言ってるのよ…アンタは…」


呆れた様子の後それが少し可笑しく感じたリューコに笑顔が咲いた。


「変なやつね。」













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