第4章 4話 お互いの距離
そういえば、今夜は町で開催される花火大会の日。朝、新聞の折り込み広告で見た。大輪の火花が夜の空に大きく咲くのだろう。去年は、兄の浩紀と見に行った。端から見たら私と兄は恋人同士に見えたかもしれない。でも、今年はどうしよう。落川さんは、今日が花火大会の日だって事を知っているかな。訊いてみた。
「落川さん」
「ん? どうしたの?」
笑みを浮かべ、優しい眼差しで私を見た。
「今夜八時から花火大会あるの知ってる?」
「ああ、そういえば新聞のチラシに入ってたな」
私は勇気を出して誘ってみた。
「落川さん、一緒に花火大会に行きませんか?」
消極的な私が何とか言えた一言。断られるかな。ハラハラしながら答えを待った。「うん、いいよ。行こう」
やった! 断られずに済んだ。それが嬉しかった。まるで、神に祈るような気分で返答を待っていた。
彼の車に乗り、落川さんは先程の指輪を箱から取り出した。箱は大事そうに後部座席に優しく置いた。そして、右の薬指にはめ、
「どう?」
と見せてくれた。まるで、見せ物のようだ。
「うん! とっても似合ってるよ」
私がそう言うと嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
私は気が付いたことがある。
「落川さんの誕生日はいつ?」
「ぼくの? ぼくは六月二十一日だよ」
「そうなんだ。じゃあ、来年だね」
彼は不思議そうに私を見ながら、
「どうしたの?」
私は少し照れたけれど、言った。
「落川さんの誕生日プレゼントを買おうと思って」
そう言うと彼は笑った。
「そんなにいいよ。今、買ってもらったばかりだし」
まるで、私が落川さんに貢いでいるようだ。そんなつもりはないけれど。でも、結果的にそうなっているように感じられた。今度は彼が質問してきた。
「美鈴さんの誕生日はいつ?」
「私ですか? 私は九月五日だよ」
落川さんは、
「あ! 来月だね。何がいいかな」
「今、言ってもいいの?」
「もちろん!」
「シルバーのネックレスがいいな」
「わかった」
「うん、楽しみにしてます」
気になることを彼に話した。
「私のことは、美鈴と呼び捨てでいいよ」
「え、いいの? 馴れ馴れしくない?」
「そんなことないよ。私が言うからいいのさ」
「そう。じゃあ、ぼくの事も呼び捨てでいいよ。良太郎ってね」
「わかったよ、良太郎。でも、何か恥ずかしいね」
私たちは徐々に距離を縮めていき、まるで恋人同士のようだ。
今の時刻は午後七時半頃。
「もうそろそろ花火大会の会場に行かない? 車、停める場所なくなっちゃうよ」「そうだね、じゃあ、いこうか」
「うん」
私は運転をしている彼の横顔を見つめた。イケメンだ。かっこいい。私の視線に気付いた良太郎は私を見た。
「美鈴、どうした? ぼくの顔に何か付いてる?」
私は首を左右に振り、
「いや、何でもないよ」
と答えると、
「何だ、気になるな」
良太郎は言った。
「気にしないで」
私がそう言うと、
「隠さず言ってよ」 彼はそう言うので言った。
「イケメンでかっこいいなと思ったの」
そう言った途端、恥ずかしくなり私は赤面してしまった。顔が熱い。
「マジで? それは嬉しいね」
良太郎はそう言い、私は黙っていた。
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