第4章 3話 再び緊張

 大型スーパーで買い物を終えた私は落川さんにお礼がしたくて質問してみた。

「落川さんは何か欲しいものないの?」

「うーん、そうだなぁ。強いて言えば、シルバーの指輪かな」

「私に買わせて? お礼に」

 彼は笑った。

「そんなに気を遣わなくてもいいよ」

「え、でも悪いじゃない。私ばっかり買ってもらって」

 すると落川さんは、

「気にしない気にしない」

 私は、

「そう言われると余計に買いたくなってきたよ」

 彼は、

「ああ、そうなんだ。言わなければよかったね」

「そんなこと言わずに買わせて」

 私が粘り強く言うと、

「わかった、じゃあ、買ってもらうよ。悪いね」

 私は頭を左右に振り、

「何も悪くないよ」

 と言った。


 私たちはジュエリーコーナーに向かった。あまり来ないスーパーなので、売り場の場所がわからない。私が周りをきょろきょろ見ていると、彼は、

「ぼくに着いて来て」

 誘導してくれた。落川さんは頻繁にこの店に来ているのかな。訊いてみると、

「たまに来ているよ。ぼく、こう見えてもジュエリーが好きでね」

 そう言った。そうなんだ。

「落川さんもお洒落さんだね」

 彼は、ハハハッとまるで子どものように無邪気な表情で笑っている。私はその顔を見て、かわいい、と思った。何だか、胸を締め付けられる思いがした。この気持ちはもしかして……。


 出逢いの少ない私は、これはチャンスかもと思った。彼と出会う前の気持ちとはまるで違うと感じた。

 ジュエリーコーナーに落川さんの後ろを着いて行きついた。シルバーの指輪を探した。店員が話しかけてきた。

「何かお探しですか?」と。

「シルバーの指輪を探していて」

「それならこちらにございます」

 今度は店員に着いて行った。彼は、

「あ、ぼくわかるよ」

「そうなんだ。すみません。大丈夫です」

 と店員の誘導を断った。

 そんなに詳しいなんてまるでここで働いている店員のようだ。

 そして私は落川さんの後を付いて行った。

 その売り場にはゴールドやシルバーの指輪や、宝石が施された指輪もあった。その他にはネックレスなどもあった。私はシルバーの指輪に焦点を絞り見ていた。値段も見ながら探した。安くても五千円くらいはするようだ。予算はだいたい一万円くらい。それで探してみると九千円くらいのを選び、

「指は何号?」

 と訊くと、

「二十一号だよ」

 そう言うので近くにいた店員に声を掛け、

「この指輪の二十一号をください」

 と言うと店員は、

「少しお待ち下さい。在庫を見てみます」

 そう言うので少し待った。

 そして、

「お客様、お待たせ致しました。こちらになります。試しにはめてみますか?」

「はい。お願いします」

 店員はその指輪を彼の指に入れてみた。ぴったりはまったので、

「あ、じゃあ、これください」

 と私は言った。

「ありがとうございます」

 店員は頭を下げていた。接客が行き届いていると思った。

 落川さんは、はめた指輪を外し店員に渡した。

「今、包装致しますので少しお時間もらいますね」

「わかりました」

 そう答え彼は、

「ありがとう!」

 と言ってくれた。私は嬉しくなり、

「これくらいのことは私にもできるよ」

 そう言うと彼は笑みを浮かべ私を見つめた。思わずドキッとした。落川さんに見つめられ、気持ちは上向いている。どうしよう、胸がドキドキする。また、緊張してきた。

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