第3章 2話 紅潮

 いまは夏なので私は赤いTシャツに黒いミニスカートを履いている。玄関から外に出て、落川さんの車の後部座席に乗ろうとしたら、

「助手席に乗っていいですよ」

 と彼は言うので仕方なく助手席に乗った。


 ぶっちゃけ、知り合いにでも会って彼氏と間違われるのが嫌。訂正するのも面倒だし。だから、後部座席に乗ろうとした。でも、そうはいかなかった。車中にいるときはまだ大丈夫だと思うが、車から降りて買い物とかするときに知り合いに見られる可能性がある。


 でも、よくよく見たら落川さんの顔、カッコいいかも。面食いの私にはそう見えた。彼の顔をジロジロ見ていて、落川さんは私の顔を見た。私は焦って目を逸らした。すると彼は笑っている。何で笑うんだろう? と思い訊いてみた。すると、こう言った。

「いや、かわいいなと思ってね」

 そう言われて私は顔が紅潮するのを自覚した。


 その顔を見られて恥ずかしいと思った。私は顔を窓のほうにむけた。恥ずかしいったらありゃしない。


「お昼は済ませましたよね?」

「はい。家で食べてきました」

「どこか行きたいところはありますか?」

 うーん、行きたいところ。特にないなぁ。それを伝えると、

「じゃあ、ネットカフェに行きませんか? 落ち着いて会話がしたいので」

「わかりました。いいですよ」

 そうは言ったものの、ネットカフェの部屋に二人きりでいることになる。緊張しっ放し。だからなのか、ちょっと疲れてきた。


 10分くらい車を走らせただろうか。無事、ネットカフェに到着した。車から降りようとすると、先に落川さんが降りて助手席のドアを開けてくれた。紳士だな、と思った。そのあと、

「ありがとうございます」

 とお礼を言い、車から降りた。


 ネットカフェのなかに入って彼が受付してくれた。なんだか、良い感じに思えてきた。母が言った通りかも。実際、会ってみないとわからないことだらけ。


 一番奥の部屋になったので、自販機でジュースを買って、そこまで移動した。落川さんは入口のドアを開けてくれた。

「ありがとうございます」

 と伝えた。

 落川さんは気遣いもバッチリだし、会話も弾んだ。自宅にいた時は、帰ったらお父さんにお断りの連絡をして欲しい、と言ったけれど、とりあえず、断らなくて良いかも。そう思った。


 こんな意外なことあるんだ、と思い驚いた。彼は終始笑顔で、接してくれた。若干、嬉しい。この思いが徐々に膨らんでいき、好印象と感じた。


 私の当初の思いは、すぐに断るつもりだった。でも、接しているうちにそうじゃなくなってきた。


 まだ、「好き」という感情まではいってない。落川さんは私のことどう思っているんだろう。かわいい、とは言ってくれたけれど。今後の彼の動向に期待できる。

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