第2話 温泉郷 湯屋 -逢来 おうらい-
「今日はいい魚が入ってるよぉ!」
「ちょいとそこの人、この櫛どうだい?土産にさ!」
「皆々様ー朝飯は食ったかい?まだならうちに寄っといでぇ!」
沢山の商売の声で溢れ、海も近いこの郷は人間の世界でいう温泉街もとい港町のようなものだ。
郷と湯屋の始まりは現当主の祖父の代が妖たちを束ねてヤクザ者のようなことをされていた時代――――大きな抗争で組が壊滅しかけた時に仲間たちとこの土地に流れ着いた。ここで湧く温泉の効果に目をつけ、それから代々ここを拠点として繁栄していった。
また行き場のない者や地方から商売好きな妖たちが集まり、今では立派な温泉郷になった。
「……あ?宵依!寄ってけやぁ。」
「玄さんおはようございます。お使い頼まれてるから少しだけ。」
彼は船を出して漁をしている玄さん
おおらかで面倒見の良い人でこの郷にも長く、皆が彼を知ってる。
「海を見てみろ、今日はいい天気だ。こりゃあいい魚が釣れるぞ!」
「ですね。波も穏やかでいい風。玄さんが釣る魚はとても活きがいいから楽しみ。」
「へへっ!嬉しいこと言ってくれるねぇ。......一部の妖たちじゃ俺たちのこの生活を人間の真似事だとか言って唾吐いてくる奴もいるがな。」
そう――――同胞たちからすればこの郷は少し酔狂だろう。妖の多くは自身の生まれ育った山や森で過ごしたり、旅に出てただひたすら歩くものがほとんど。
それでも――――
「……日々の生活が心から幸せで充実しているならそれでいい。それだけでいいんです。」
「…………違いねぇ。」
それから玄さんと別れたあと、買い物を終え湯屋に戻る。
そこへ小ぶりの耳を立て、ふさふさの尾を振りながら
「どうしたの寅丸?」
「お婆が探してたぞ!買い物が遅せぇって!」
「あー……すぐ行くよ。」
「急げよ!」
「……やっと来たね宵依!」
「遅くなりました!どうかしました?」
「あんたをご指名の客だ。支度しな。」
「え?でも私は接客は……。」
「いいから!当主様には話してある!」
お婆にほとんど引きずられるように手を引かれ、支度が進められた。
この湯屋では女の手による特別なことはしないが、気に入られた湯女たちや男性従業員も含めこうして話し相手になったりする。
お婆の素晴らしい手さばきで着付けられたアヤメの花柄の着物に玉の簪を挿して完了した。
お婆とお客様の待つ客間に向かう
「ゲンノショウコの襖……お婆、今回のお客様はそんなに上客なの?」
襖の絵で部屋のグレードがわかる
ここは
ここに宿泊できるくらいの太客であり、この逢来にとっても重要な御方となる。
お婆が襖を開けるのをお辞儀をしながら待つ
「……緊張してきた。」
「肩の力ぬきな。あんたもよく知ってる御方だ。」
「…………え?」
「ご指名の宵依、到着致しました。」
困惑している間に容赦なく開けられた
「……お待たせして申し訳ございません。
宵依と申します。本日はご指名頂き……」
顔を上げながら、お客様の顔見た
「おぉー!宵依じゃねぇか!ひっさしぶりだな!」
「比良じい!」
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