第20話 破滅と勝利
こうした情勢の中で、本木一也が仕掛けたトヨタ織機株の仕手戦はどうなったか。結論から言えば、彼の2回の仕手戦の結果は1勝1敗となった。勝率5割。しかし、最後の1敗が命取りになった。それが仕手戦なのだ。勝ち続けないと仕手戦では生きていけない。1つの失敗が命取りになる。
2回目の仕手戦は、会社が持久戦に持ち込んだ結果、仕手側がこけた。本木一也は後悔した。もっと早く店じまいすべきだった。持久戦となってから、手じまいするのに時間がかかり過ぎた。最後まで持っていたのは間違いで、提灯がついたところで売り抜けるべきだったのだ。人間の欲望は際限ない。一也もそうだ。そろそろバブルがハジケる頃かと不安を持っていたのだが、店じまいの決断がつかなかった。他の風雲児たちも同じ運命だ。今やめてしまうのは、もったいない。もっともうかるかもしれないと思ったのか、彼らのバックにいる闇世界が撤退を許さなかったのかわからない。株式市場を分析するプロなのに風雲児たちは、ことごとく敗れ去っていった。
本木の場合、日経平均が2万円を割った大納会の日が運命の日となった。年末を迎えての返済ができなかったのだろう。二郎の母、吉田和子と自宅で刺し違えていた所を発見された。父一也は、ヒトラーと同様、愛人との自殺を選んだ。初代北浜の風雲児の最期を飾る壮絶な死だった。「大阪の資産家・不動産業の本木一也氏が自殺。自宅で夫婦で亡くなっているのが発見された。借金の返済を苦にしての自殺とみられる。」と小さな記事が新聞に出た。
本木が所有するトヨタ織機株はその後、どうなったのか。株価が急落したのは他の株と同様だ。翌年の3月末までに大きな変化があった。担保として株を押さえていたノンバンクが、次々に名義変更をしてきた。3月末までに名義を変更し、せめて配当金を得ようという考えだ。こうして、本木が借りていた金融機関が明らかになった。名義変更により、あちこちのノンバンクやヤミキンと言われる金融機関が一旦姿を現した。しかし、その後は、ちりぢりになっていった。彼らもバブルに躍らされていたのだ。大銀行が融資できない相手の木本に融資し、銀行の穴を埋めていた。勝利したトヨタ織機にとっては、こんなに小さく分散した株主は、もはや怖くも何ともない。配当金さえ払っていれば文句は言われない。そのうち無くなってしまうことだろう。
本木一也はそんな運命を予想していたのか、万一に備えてリスクヘッジしていた。日本土地所有の一部の土地を担保に取られないように、息子の二郎名義に変更していた。隠し不動産だ。反社がよく行うマネーロンダリングならぬ不動産ロンダリングというべきか、父一也から息子二郎へ土地所有権の移転登記がなされていた。それらは、ノンバンクやヤミキンそれに柳川会などの債権者からの返済の追及を免れ二郎のもとに残った。父が命をかけた抵抗だった。この後、この隠し資産が生きることになる。
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