第15話 風雲児たちの活躍

この頃のバブル経済はとても恐ろしい。銀行が際限なくお金を貸してくれる。1億円の元手がある。これは不動産でもお金でも株でもよい。これを担保にすると銀行やノンバンクは1.1億円貸してくれる。1.1億円借り入れてまた株や不動産を買う。買った株や不動産を担保にするとまた、1.2億円借りられる。資産はすぐに3.3倍になる。これを際限なく繰り返すと無限大にお金が借りられることになる。今から思えば異常な錬金術だ。全て右上がりの時代だからこのようなことになる。これを知っている風雲児たちがこの手を使わないはずがない。実際の担保価値以上に貸してくれる金融機関が多い。土地も不動産も明日にはまた上がっているからだ。特に信託、ノンバンクなどは競って貸してくれる。こうして証券市場に反社が進出し、仕手戦が繰り返された。当時の日本では証券ルールもまだまだ未熟なのだ。

当時の風雲児たちが起こした著名な事件を少し紹介しよう。まずは、小谷光浩を代表とする仕手筋集団「光進」だ。蛇の目ミシン工業、国際航業、藤田観光などの株を買い占めた。小谷は買い占めと同時に、中江滋樹が運営する投資ジャーナル社が起こした投資ジャーナル事件という詐欺事件でも活躍した。投資ジャーナルが推薦した銘柄を紹介し、保証金を積めば、預かり金の10倍もの融資を受けられると謳い、利用者の大半に「預り証」を発行しただけで、実際には株式そのものの引渡しを行わなかった。この事件で中江は8,000人から数百億円の現金を詐取したと言われている。

次は“若手投資家”として名を馳せ、若くして闇に消えたのが、仕手集団「コスモポリタン」を率いた池田保次だ。本木一也と同じように反社出身で大阪を中心に地上げを始め、土地を担保に資金を調達し、その後、株投資に注力し、やがて企業の乗っ取りを企てていく。日本ドリーム観光、雅叙園観光ホテル、東海興業、タクマなどが被害にあった。しかし、JR新大阪駅で「今から東京へ行く」と秘書に言い残し、忽然と消えてしまった。「闇社会の人間に奄美大島まで拉致され、クルーザーに引っ張られてサメのエサにされた」という噂もある。

また、東京の地下鉄麻布十番駅に麻布自動車という会社がある。この会社の代表は、渡辺喜太郎といい、米フォーブス誌長者番付で世界6位に認定された男だ。麻布自動車、麻布建物の社長で、麻布を中心に160以上の土地とビルを所有し、ハワイで6つのリゾートホテルを買収した。中古車販売会社から身を起こし、「クルマを置くために買った土地が高騰したから、あっという間にカネ持ちになっちゃった。」と本人が言っている。渡辺は三田信託銀行を利用した。やはり、仕手グループには不動産と銀行がつきものなのだ。

一獲千金を夢見た仕手筋。しかし、風雲児たちはいずれも刑務所行きか、姿を消すか、自ら命を絶つかという結末でバブルの露となって消えて行った。

コスモリサーチの見学和雄は京都府山林にコンクリート詰めにされて埋められているところを発見された。借りたお金を返せなくなった結末か。犯人はつかまり死刑判決をうけている。

悪いのは、社会的責任を果たさず、ただ競争して利益の追求に走った金融機関なのだ。銀行のモラルハザードははなはだしい。大きすぎる銀行はつぶせない。預金者の他、社会に与える影響が大き過ぎるから。だから当局は潰せず、合併や経営統合で生き残らせた。そのために莫大な国民のお金、公的資金投入された。最近のクレディスイスと同じ理屈で、いつの時代でもどこの国でも同じなのだ。それだけに銀行経営には責任が伴う。国有化されたり、消えてなくなった銀行・証券は拓銀、日債銀、長銀、山一など。合併や経営統合は第一勧業、富士、興銀、三菱、東海、三和、三井、住友、埼玉、りそな、大和などすべての都市銀行にわたる。今はどこにも当時のままの名はない。風雲児も消えたが大銀行も消えた。無責任な金融機関が作った不良債権問題の解決に20年以上が費やされた。戦後復興から、昭和の資本主義経済の成長を支えてきたメインバンクの姿は、もうない。

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