第12話 東西の弁護団

 吉田孝政副社長がノムラに相談して紹介してもらったのが、東京の西田総合法律事務所の草川耕治弁護士と広田淳弁護士だ。それに大阪の宮田総合法律事務所の宮田乾治弁護士と伴藤幸次弁護士だった。東の西田総合はM&Aに強く、国際的なM&Aにも強い。また、西の宮田総合は大阪だけあって、もともと反社に強く、大阪府警にもコネがある。中の島にあるアメリカ領事館の隣に事務所を構え、いつも警察に警護されていて安心だ。創設者である宮田乾治弁護士は日弁連民事介入暴力対策委員会委員長に就任し、浜松の一力一家組事務所使用差止訴訟で有名になり、漫画「民暴の鷹」のモデルになった人物だ。こうしてトヨタ織機は、東西の一流弁護団を構成して、企業防衛体制に入った。愛知県のトヨタ織機本社に東西弁護団の集まり、1回目の会議が開催された。あの電話以来、本木一也からは何も言ってこない。

4人の弁護士が伝統ある同社本社の会議室に集まった。織機の発明王が大正時代、70年ほど前に事業を開始した場所だ。今は本社工場では創業の繊維機械と自動車部品を製造し、管理部門の本社が置かれている。その他、トヨタ織機は、フォークリフトや自動車組立工場、鋳造工場など、県下に6工場を持っている。

早速、弁護団である4人の弁護士と会社関係者が名刺交換を行った。吉田副社長の指示で、法務室から若手部員が加わった。加藤健介30歳だ。

 会社側から吉田、谷川を中心に現状の本木一也の買い付け状況、これまでのアプローチの状況などが弁護団に説明された。この間、3月末で本木一也の会社が6位と7位に現れた。第10位までの大株主が株主総会招集通知の参考書類に記載され公となる。発行済株式総数で、日本現代企業株式会社が4.1%、吉本興産株式会社が3.4%を保有している。トヨタ織機の大株主の構成は、トヨタ24.7%、トヨタ電装7.1%、東海BK4.9%、三井BK4.9%、三和BK4.9%、日本現代企業4.1%(第6位)、吉本興産3.4%(第7位)、豊不動産 3.0%、愛心2.5%、トヨタ通商2.2%の順だ。

吉田副社長から弁護団へ、大阪の光世界証券豊中支店で不審な若者が毎日当社株を買いに来ているということ。また、日本土地の本木一也から一度、電話があったことが報告された。弁護団から、日本土地による1回目の買い占めの顛末について説明してほしいとの要望があり、副社長の吉田がこれに答えて分かっていることを詳細に説明した。

 会議の結果、東西弁護団からのアドバイスは、まず、前回のように本木一也から接触があっても、絶対に豊雅年社長に取り次がないこと。窓口を吉田副社長に一本化することが指摘された。また、民暴の鷹と言われていた大阪の宮田弁護士からは、日本土地の資金量とバックに誰がいるかを調査すべきとの指摘があり、宮田弁護士のルートで大阪府警OBが運営する調査会社OFリサーチを使うようアドバイスがあった。最後に、月1回は情報交換のため、会議を行うことになった。草川弁護士から、このような事件は情報管理が重要で、このプロジェクトを関係者しかわからないようにMプロとプロジェクト・ネームで呼ぶことが提案された。Mは本木のMだ。

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