第10話 父の2回目仕手戦
買い戻しから2年後、日本中がバブル経済に浮かれていた頃、再びトヨタ織機株の買い付けに不審な動きがあった。同社は自ら1回目の買占めの反省から株式市場を監視していたので、ほどなくして気づくことになる。
本木一也は柳川会からの指示により、再度、トヨタ織機の株を買い集めることにした。柳川会はこの頃、大阪伊丹空港周辺の土地を手あたり次第に購入していた。得意の地上げだ。某政治家から事前に空港拡張計画があるとの情報を得て、周辺の土地に群がっていたのだ。事前に地上げして、それを空港公団に売ってまたもや大儲け。莫大な利益を得た。会から情報提供の対価としてこの政治家にお金が流れた。それに加えて、得た資金を更に大きくするため、日本土地にお金を預けて、運用先としてまたもトヨタ織機を狙わせた。本木一也は初めは、あまり乗り気ではなかった。同じ会社を2度はしないという仕手のタブーを破ってまでも仕掛けるべき仕手戦なのか。2度としないと言う約束をしたわけではないが、何となくやる気がしなかった。ただ、会の命令には従わなければならない。やらなければ、裏切者としてこの世界では生きて行けない。最終的に、一也は、任された会の資金に加えて、自己判断で借入れまでして本腰を入れて同社株を買い進めた。世間と同じように、バブルはまだまだ続きそうで、株も土地も上がり続けると彼は信じていたからだ。
また、彼には思惑があった。甘いトヨタグループだから、今度もまた買い戻すにちがいない。借入れの方はバブルのおかげで1回目のときよりも、更に借り入れられる状態になっていた。ダブダブの金融緩和が続いていた。ノンバンクたちもバブルに参加している。立派な都市銀行・信託銀行が手を出せないような危ない融資案件を銀行の代わりとなってノンバンクが埋めた。他の業界からの参入もあった。例えば、スーパーなどの小売り業界。日本一の売り上げを誇り、九州でプロ野球球団を持つダイエイも、その一つだ。なにせ毎日の売り上げが100億に迫る規模だ。毎日現金が入ってくる。持っている現金を寝かせることなく、一日でもいいから株式市場で運用したいと一也に声を掛けてきた。
1回目の買い戻しにより、トヨタ織機の浮動株は更に少なくなっており、誰かが大量に買い付ければすぐに上がる状態だ。本木一也は見破られないように、日本土地でなく、日本現代企業と吉本興産というペーパーカンパニーを作り、その名義で同社の株を買い始めた。毎日の出来高が15万株を越えないように毎日チェックし慎重に進めた。これを越える出来高の翌日には購入を控えるほどだ。地元の光世界証券の豊中営業所の所長は代々、一也のなじみだ。彼にも頼んである。トヨタ織機に絶対にわからないように買い進めよと。
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