第8話 豊家の墓
工場見学からしばらくして、本木一也が豊雅年社長に電話を入れた。豊(ゆたか)の家の先祖代々のお墓が名古屋市内の有名なお寺にあることを知り、これをネタに揺さぶりをかけようと電話したのだ。
霊園は、緑豊かな静かなたたずまいの寺院の裏手の丘陵一帯にある。名古屋で有数の広大な霊園だ。この一角に豊家の織機発明王と自動車王が眠っている。お墓は今のグループの規模からは想像もできないくらい質素なのものだ。「豊社長、豊家の先祖代々のお墓が覚王山寺にあると知りました。ぜひお墓参りをさせてください。社長と一緒に。」と本木が言う。しかし雅年社長はすぐには返事をしない。本木が更に続ける。「朝鮮半島出身の私は儒教の教えに従って、先祖を大切にしています。あなたも、会社も先祖を大事にされている。だから会社は益々発展する。ぜひ一緒にお参りしましょう。」雅年社長は、こいつは豊の先祖まで口実にして利用しようとしている、工場見学は我慢したが今度は到底我慢できない。何でも利用しようとする本木に反感を抱いた。そして「先祖崇拝は良いことだと思います。ただ、豊家は豊家のもの。ご遠慮いただきたい。」ときっぱり断った。
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