「家畜」 ものの民俗史シリーズ 著:松岡 裕一 法山大学出版会 2012年

 

…家畜の守護神は全国に見られるが、山陽地方では牛荒神が信仰される。牛荒神は家畜を悪霊から守る守護神であるが、その一方で気性が激しく祟りを起こすこともあるという。火や赤色と関連して祀られることが多い。牛頭天王と同一視されることもある。…




日本の神仏 著:川本なつ子 散和社 2023年


牛頭天王

牛頭天王は数多い日本の神の中でもとりわけ異質な存在である。中世になって突如信仰され始めた神で由来は今なお不明であり、インド、中国、朝鮮から来た神と伝えられている神にも関わらずいずれの国にも痕跡がない。「異神」と評されることすらある。しかし、その一方で日本人にとって馴染み深い神であることも確かだ。

巨大な山車で有名なあの祇園祭で祀られる神こそ牛頭天王である。牛頭天王はその名の通り牛の頭に赤い角を持ち、疫病神を始めとする悪神や怨霊を従える恐ろしい神である。しかしその一方で怨霊の主であることから祀ることで病などの悪霊による災いから逃れられるとされ破邪の神として盛んに信仰された。皮肉にもコロナ禍で中止されてしまったが、祇園祭もそもそも疫病が収まるよう祈願する祭りである。

このようにかつては広く信仰されており、祇園祭の開催元である八坂神社の祭神でもあったが八坂神社は19世紀に牛頭天王を祀るのを止め、それに伴ってか今では以前ほどの知名度はない。

(中略)

ヤマタノオロチと同一視される「蛇毒気神」が化身の一つとされる他、妻が「八大龍王」の娘である、八坂神社の下に青龍の住む底なしの池があるとされているなど牛以外に蛇や竜とも関連があると考えられているがその詳細は不明である。…




魔除けの歴史 著:大橋梨花 長月出版 2004年


…「角太師の護符」はかなり有名な護符でしょう。護符に描かれたあの少々不気味な姿は印象に残っている人も多いのではないでしょうか。二本の角、ギョロリと丸く突き出た眼、瘦せ細った身体という姿は一見、悪鬼の類にすら見えます。しかし実際にはその恐ろしい姿で悪霊を追い払う、平安時代から伝わる由緒正しい護符なのです。少なくとも江戸時代には日本全国に広まっておりどこにいっても軒先に張られていたという記録が残っています。当時は同じく悪霊を追い払う牛頭天王と同一視されていたようです。実際、頭が牛になっている護符も存在します。

これは余談ですが、角太師は正月に亡くなったそうでそのため元三太師とも呼ばれます。このことと悪い霊を追い払うために正月に行われる儀式、追儺(ついな)には何か関係があるのではないかと個人的に考えています。…




神道とシンクレティズム 著:松岡 裕一 國書出版社 1987年


シンクレティズム(習合)とは、ある神が他の神と同一視される、あるいは複数の神々が単一の神とみなされる現象のことを指す。

(中略)

以上のように日本では習合という現象が広く見られるが、その中でも牛頭天王は特に多くの神が習合した神仏である。宗教学者の宮家準氏の言を借りれば、「アジア世界の諸神格が、牛頭天王の信仰に包摂されている」。氏は牛頭天王の前身として鐘馗を挙げている。

鐘馗は中国の信仰、道教の神であり悪霊を追い払う破邪の神として信仰された。しかしそれと同時に鐘馗は鬼の王でもある。なおここでの鬼とは中国の鬼、つまり死んだ人の霊を指すことに注意。つまり鐘馗は死者の王であり、それゆえ信仰することで悪霊を退散させてもらうことができる。中国では年末の魔除けの儀式、追儺(ついな)や端午の節句の時期に盛んに祀られた。

(中略)

鐘馗は牛に乗った姿で知られる他、端午の節句に鐘馗図を飾る風習が存在する、牛頭天王と同じく武具を持つ、角を持った姿で信仰される、毛深いなど獣や牛頭天王との関連が見受けられる。また牛頭天王はその恐ろしい外見から妻を探すのに苦労する、というエピソードがあるのだが鐘馗にも恐ろしい外見から不利益を被るというエピソードが存在する。    

その他にも赤い顔料で突出した眼をもつ鐘馗の姿を描いた護符が魔除けになるなど同じく護符で有名な角太師との関連性も考えられるのではないか。今後の研究が望まれる。…

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