第2話

 学校の正門前、救急車を取り囲み人々が蠢ていた。登校中の子供たちが不安げな目をしながら、後ろから押されるように門の中へ入っていく。

 

 警官が大声を出しながら、必死に軽自動車のドアノブを引いている。しかしエンジン音は一向におさまらず、それをみたもう一人の警官がパトカーへ戻り巨大なスパナを手に取り戻ってきた。


 現場を取り囲む、大人たちの罵声が祭りの掛け声かと勘違いするほどにうるさかった。「おい」とか「コラ」とか言いながら、皆、興奮していた。すでに数人の子供が救急車で運ばれ、サイレンの音と共に病院へと向かっていた。


「早く窓を壊せ!」

どこからか、威勢のよい声がした。


 警官は運転席にいる初老の男にガラスが飛び散らないよう、コツコツとスパナを当てていた。しかし男がニタついてアクセルから離れようとしないのをみて、意を決したように振りかぶってスパナを振り下ろした。直後、興奮した一人の男が警官が留めるのを無視して、手を伸ばしエンジンのストップボタンを押した。


「このやろー」


 男は内鍵をあけ、運転手を外へ引きずり出した。

 二人の警官が抱き着くように男を制したが、その男の罵声は収まる様子がなかった。

 麗美のスマホには父兄のグループ連絡網からすでに連絡がいっていた。

 麗美は群集の中を泳ぐようにかきわけ、担任の手をつかんだ。

「先生、朱莉は!うちの朱莉は!」

「大丈夫です、大丈夫ですから、教室にいます」


 麗美はこみあげる動悸を必死で抑えながら、正門から横列に並ぶ三番目の校舎へ向かって走った。

 

 放り出された運転手の白髪頭の男は周りを恐れるどころか、相変わらず、ニタニタしたまま、懲りずに立ち上がって車へ戻ろうとした。どうやら会話が通じないと察した警官は手と肩をおさえ、抱えるようにしてパトカーへ誘導した。ほかにも数台のパトカーが到着し、多数の警官が渋滞を誘導したり、群集の興奮をなだめるように何度も、落ち着いてくださいと声を発していた。

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