第3話 天才は森を調査したい!
私は青メガネに日時を伝えられて調査隊の一員に加わった。ちなみにその間に私は正式に生徒会役員となってしまった。生徒会役員は普通上位貴族のご子息が就くもので、グラキエースの威光がなければ会長から加入の話など伝えられなかっただろう…勘当されているけども。まぁ今回加入したため将来的に貴族とのコネクトができるのは嬉しい。後ろ盾は多いことに越したことはないし人生何が起こるかわからないのだ。もしもの手段はあって損はない。つまりこの調査が終わったあとで私は皆々に自己アピールをしていかなければならない。魔法が使えるようになるとは限らないが優秀でないと覚えてもらいにくいのは世の常…異常なバカが逆に覚えられるのはやはり印象に残るからなのだろうか。
まぁ今は調査に重きを置くとしよう。
調査に必要な基本装備は青メガネが用意してくれるとのことだったので私は保存食と水と何かがあったとき用の魔道具も持ってきている。無論着替えは言わずもがな。魔道具は形や効果が様々あるが、今回持ってきているのは勘当される前にグラキエース当主から頂いた完全防護の効果をもつ指輪。まぁ回数制限があると聞いているので無敵ではない。そして自身で用意したのは湧水の器というもので望めば器に水が湧く代物。まぁ効率が悪いため緊急用にすぎないのだが。
「やぁアモルディアさん。無事にねじ込みましたよ」
「ん、今回の調査は青メガネも一緒なのか?てっきり君は座して待つものとばかり」
青メガネは調査隊の格好をして声をかけてきた。こいつは自分から危険をおかすようなやつではないと思っていた。
「いや、今回は少し気になることがあったから特別に参加しているだけだよ」
「私の監視とかか?」
「それなら部下で済ませればいい問題だよ。僕は貴重な情報源が死んでしまうことがないように付いてきたまでさ」
「そうか。なら道程で話すことにしよう。なるべく遅い方が君が守ってくれそうだしな」
「いやいや、グラキエース家の書庫は前から気になっていたからそのコネクトを外さないためにするんだよ。だから今回だけじゃない」
「ふん、どうだかな」
「なんでそこまで警戒するのかなぁ」
「私は自分の今までを客観的に見ることをお勧めする」
「よくわかんないかもね」
なぜ青メガネと話しているとこんなにも嫌悪感がでるのだろうか。昔になにかあったとは思えないから生理的な問題なんだろう。まぁしょうがない。青メガネだしな。
「今回の調査にフロース家御子息であるフラッマルス様とその学友であるアモルディア様が加わる。そのためお二人からご挨拶願おうと思う。2人は前へ」
やがて準備が終わったのか隊長らしき人が話し始め、前へ呼び出しをくらった。仕方ないが行くしかない。
「まずはアモルディア様からご挨拶いただきます。ではどうぞ」
こういうのは普通上の立場の者から発言すると思うのだがなぜ私なのだろうか。常識が通用しない不思議な文化ということにしておこう。そうすれば深く考えずに済む。
「ご紹介に預かりましたアモルディアです。今回は生徒会としての調査もあるのですが、先輩方である皆さんの姿を見て学んでいこうと思います。私に立場的なものはないので気軽に接して頂ければと」
一礼をして締めると簡易的な拍手が起こる。
こういうのは急に振られても定型文を言えばいいだけだから乗り切るのは簡単だ。そして傍聴側もスピーチが終わった後は拍手をするという典型があるためこの挨拶に中身などなにもない。しかし、こういう典型は物事を円滑に進める上で必要だから存在している。
「ありがとうございました。続いてフラッマルス様にもご挨拶して頂きましょう」
「はい。フラッマルス・フロースです。まぁ調査に入ったら親の目など届かないので好きなように呼んでもらえたらと思います。僕も今回は生徒会役員として来ているので緊張は危険に対するものだけでいきましょう」
一礼をして締めるが傍聴側には笑顔ややる気に満ちた顔が多い。やはりこいつは場慣れしているのだろう。まぁそんなことはどうでもいいのだが。
森に入ってからもう30分程度経った頃合いだろうか。この森は背の高い木が多いため内部に日光が殆ど届いていない。既に支給された照明魔道具を使用している。ちなみに調査隊は複数班に分かれており、それぞれ進行するルートが異なっている。もちろん…とは言いたくないが私は青メガネと同じ班に配属されている。まぁ調査目的が生徒会任務としてあるのが原因だろう。
「皆さん木の上に登るか気配と匂いと魔力を完全に外に出さない方がいいですよ」
「どうしてだ?」
「そりゃあ2メートル級の獣が少し前に通った道なんて通りたくないからでしょうが」
森の土は少しぬかるんでおり、大きめの足跡の角が丸くなっていないことを見ると少し前に獣が道を通ったことがわかる。多分150メートル圏内にはいるだろう。方向的に他の班を標的にしていた可能性はあるが。
「なぜそれがわかるんだ?」
「森を見て森を聞けばわかります。森を嗅いでもわかるでしょう。そのくらいにはこの森の生物は物的証拠を残しています。皆さんならわかると思っていたのですが」
「そういう意味じゃない。なぜこの森に入ったことのないやつが獣の体格まで予測できるのかと聞いている」
「足跡から大まかな予測はできますよ?この森はぬかるんでいるため接地面積を増やして体重による圧力を分散する必要があり、足跡から四足歩行生物だとわかるのであとは概算とイメージですね」
「結構使える新人だな」
「恐縮です」
班長である男は話しやすくて助かっている。たぶんさっきのもこちらを試しただけで、本来は何も言わずに進路変更とかしていたのだろう。あとは青メガネの魔法を当てにしていた可能性もある。
「再度確認しておくと、私たちの班は最深部にある湖を目指している。この先は魔物と遭遇する可能性が極めて高くなる。その時は自己判断で行動するように。わかっているな」
班員全員が頷く。やはり班長の声はよく通るし聞いてて心地いい。どっかの青メガネとはまるで違う。
やがて私たちの班は目的地に着いた。その湖はドームの天井を円形にくり抜いたような特殊な地形をしていた。目測だと湖までは40メートルはある。生身で落ちると最悪死に至るだろう。
「そういえばここまで来ることができたしそろそろ例の条件を教えてくれてもいいんじゃないかな?」
「それもそうだな。青メガネ達のおかげでここまで来れた。私は残念ながらここから別行動となるため君達に伝えておこう。魔物を手懐けるには対魔法結界の常時発動が絶対条件となる。私は知っての通り魔法が使えないためこの後のことは君達が考えて実行に移してくれ」
「ありがとう。それが聞きたかった。エア・バースト」
「なに!?」
私の身体が湖の上まで飛ばされる。青メガネの裏切りは想定内だったから絶対防護の魔道具を持って来ていたのになぜ発動しなかったんだ?
それより先にバックを落とさなければ。水面を揺らして衝撃力を軽減させないと死んでしまう。
約3秒後衝撃音。しばらくしても水面に人影は浮かんでこない。
「流石にあの女も死んだよな?」
「ここは高さ約50メートルですよ?落下までの3.2秒ほどではどうにもできませんよ」
「まぁ生きていたとしても奴の食糧は水浸しで食えんだろう。流石に生きて森は出られないだろうな」
「私たちはこれからどうします?」
「安全に下山してアモルディアが行方不明になったと届けようじゃないか」
「そうですね。では行きましょうか」
そんな会話はアモルディア・グラキエースに届くはずなかった。
※※※
目を覚ますと看病の跡だろうか。簡易的な風除けと焚き火があった。濡れた服はいつの間にか脱がされて焚き火近くで乾かされており知らない間に麻布を羽織っていた。辺りを見回すと私と同じくらいの年齢だろうか。金髪で見目麗しい少女が寝ていた。私は自分の服が十分乾いていることを確認して着替えた。
「*** *** ***?」
どうやら少女は起きたらしく、私に何か問いかけている感じはするがわからない。
「貴女が私を助けてくれたの?」
「**** ** *** ***?」
本格的に言語が違うっぽい。書いてくれたらある程度理解できるんだけども。そう思い、近くにあった棒で「あなたはだれ?」と書いてみる。すると目の前の少女は私の棒を奪って長々と文章を書き始めた。
やがて書き終えると「お前は読めるか?」とでも言いたがな眼差しでこちらを見てきた。
少し時間はかかったが解読はできた。内容自体は割と簡単なもので
『お前は誰だ。どこから来た。なぜそのような見た目をしている。あの子が目を覚していない間に帰れ』
だいたいこんな感じの内容が書かれている。私は棒を受け取り王国の簡易的な地図を書き学園の場所に点を打って出自を示す。
「** ****! この言葉であっておるか」
突然少女は王国の公用語を話した。
「すごい。よくわかったね。貴女はなんていうの?どうしてここにいるの?」
「私はお前より遥かに年上だ。子供扱いはやめろ。気色悪いからの。そして私を知る必要もないしここに留まられると迷惑だ。今すぐ立ち去れ小娘」
「じゃあ帰る前に質問いいですか?」
「まぁそれで帰ってくれるのなら構わん」
「私は魔法が使えるようになりたいんですけど魔法を使う感覚?がわからないから使えないんですよ。どうしたら使えるようになりますかね」
「なんでお前はこうもあの子と似ておるのだ。じゃがお前は"
「精霊?ってなんですか?」
あの子って誰だよ。稀人ってなんだよ。知らん単語を前提に持ってくるのは本当にやめてもらいたい。
「魔法の基礎中の基礎だろうが。なぜ知らないのに魔法を使おうとしておるのじゃ」
「では私の知見が足らないのでご教授いただきたいのですが」
「いや、駄目だ。お前がこのまま国へ持ち帰るとかえって危険になりかねん。これは私との契約とする。お前は今日のこの場での出来事を忘れる代わりに命の危険がある時この場での記憶を一時的に思い出し、魔法を扱えるようにしてやろう」
「それはありがたいですがなぜ記憶を消す必要があるんですか?」
「私の愛した王国の二の舞になってほしくないからじゃ」
私の記憶では近年に無くなった王国などなかったはず。そしてこの近辺だとまさか前に魔法が栄えていた魔道具発祥の国出身なのだろうか。いや、流石に何年も前だしありえない…よね?
「そういえばさっき言っていたあの子って誰なんですか?あと稀人についても」
「私の子孫じゃな。あの子の愛した人も私と同じになってしまったから同じような運命を辿ることになってしまったがの」
何を言っているのかよくわからない。
「そして稀人とは簡単に言ってしまえば性質的に魔法が使えない。精霊との繋がりがない人のことじゃ。あの子は稀人じゃったな」
「じゃあ貴女が最初に話していた言語について教えてもらっても?」
「別に構わんが質問したら帰るんじゃなかったのか?」
「じゃあその言葉を直接私にインストールすることとかってできないの?そしたらすぐに帰れるし」
「それは少し難しいだろうな」
「じゃあ講義を受けてから帰るってことで。あと荷物を先に落として衝撃を抑えたから荷物が湖に沈んでると思うんだけど」
「それくらいならすぐにとってこれる。今開くから探してくるといい」
そう少女が言うと湖の水が動き始め、私が足を踏み入れると私を避けるように水が動くようになっている。これも魔法なんだろうな。私もいつか使えるようになるのだろうか。
それからしばらくは少女の言語の講義を受けて帰宅した。ちなみにバックは特に壊れているものもなく、食糧も保存食を持ってきていたため何も問題はなかった。
あと、少女にお願いして言語は誰に教えてもらったかは忘れるがなぜか扱える状態にしてもらった。記憶は今通っている通路を抜けると消えるようになっているらしいので完全に抜ける前に少女のいた方向に向かって深くお辞儀しておく。魔法を使う感覚はわからないが命の危険があるときに使えるらしいので一歩前進したとも言えるのではないだろうか。とりあえず今は青メガネに裏切られた事を報告するしかない。
「ここでの記憶に
気がつくと木々が鬱蒼と茂る暗い森に立っていた。
「青メガネに突き落とされたはずだよな?」
白昼夢でも見ていたのだろうか。不思議な感覚ではあるがとりあえず下山しよう。
なぜかわからないが心は高揚していた。
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