第2話 天才は自分の血統を調べたい!
あれから私はなんとか理由をつけてグラキエース本家に伺った。無論かつてあったとされる国の手掛かりとなりそうなものを探すためである。1番は家系図で青メガネから私は先祖返りしている可能性があると言われたので直系を調べるのが手っ取り早い。
「さて、お前は勘当したはずだがなぜ本家に戻ってきたんだ?」
現当主 ー ヒエムス・グラキエース と対面するのは数年ぶりで私に久しく感じていなかった緊張感がふりかかってくる。
「私はこの度国立アルカヌム魔法学園に入学致しました」
「聞いている。異例児だそうじゃないか」
「私は魔法を使うために入学し、様々な知見を得ました」
「それで?」
「個人の力では限界を感じたためお家の力をお借りしたく思います」
「先ほど言った通り当家はお前を家族と見なしていない。その状態で何を望む?」
勘当とは家族ではなくなる事。私はグラキエースと名乗ってはいるがグラキエース家のコネは使う事ができない。権力もまた然り。
「私はただ"情報"を望みます。私は魔法が使えるようになりたいだけなのです。そして希望は見えたのです。ただそれが私では到底届きようのない場所にあるのです」
「そうか。"情報"といったな?良いだろう。禁書庫の1次権限を渡す。その代わり2度と正門から入ってくるな。わかったか?」
「承知しました。ありがとうございます」
禁書庫の1次権限。それは禁書庫への入室及び禁書閲覧の権利を指す。つまりこの家の書物は全て読んで良いと言われたのと同義だ。
「それと、魔法が使えるようになったら連絡しろ。レポートの手続きはグラキエースとして行うほうが都合がいい。全てが終わった後にまだこの家と関わりを持ちたいならその時は正門から入ってこい」
感無量だ。この家に帰ってきて欲しいと父は遠巻きながら伝えてきたのだ。なんと光栄な事だろうか。普通、魔法の使えない子供など家の恥でしかない。秘密裏に処理されていてもおかしくない。いや貴族なら一般的であろう。それもグラキエースは魔法によって地位を上げたと言っても過言ではない家なのに私は生かされた上に戻る場所は用意していると言ってもらえたのだ。
「いつか必ず戻って参ります」
私はこの家だけは裏切らない。裏切りたくないと思った。
折角いただいた1次権限は使わず、一般書庫に来ていた。そりゃあ普通に考えれば家系図など禁書庫にないだろう。
グラキエース家の書庫は学園にある図書室とはまるで違う。ここは面倒なことに作品が書かれた年代や作品の舞台・時間軸等で分けられている。ただシリーズ物は1巻に準拠しているらしく、時間軸の変更で別の場所に置かれてたりはしない。だが、この整理の仕方は今回に限っては有り難かった。家系図の分類は普段だと悩むところだが過去の項目を総当たりするだけでいい。問題は外見で本の内容を知ることができないため1冊ずつ中身を確認する手間が発生することくらいだ。
探し始めてから数刻してようやくグラキエース家家系図を発見した。ただ分厚いこの本は何冊もあり、どうやら婚姻した相手の家系のことも纏めているらしい。実に面倒くさいが単純作業は勉学と同じ。全てのページを見て覚えるだけのこれからの事を考えれば実に簡単といえる。
だが、ここにある家系図は完全ではないらしいことがわかった。どうやらここにあるのは16代グラキエース当主からの情報でそれ以前の物が一切なかった。司書に聞いても知らないという。これは1次権限で禁書庫を閲覧するしか術はないだろう。
日を改めて禁書庫に向かうとグラキエース家一般書庫とはまるで雰囲気が違うことに驚いた。そこは分野ごとに徹底して分類されており、まるで別の人が整理したみたいだった。
目的の家系図はすぐに見つかったが殆どが黒塗りされていてとても読めた物ではなかった。ただ分かるのは初代当主の名前だけ。
「ハラ・グラキエース」初代当主は別の国の貴族の生まれだったが追放されてグラキエース家を名乗ったらしい。この国で貴族として認められたのは16代のディコース・グラキエースが大業を成したのが理由とされている。
何を成したかは別の書物を読まなければいけないが、今はハラの出自を調べるのが優先だろう。ただ先に自分の知的好奇心を満たしたい。ここには魔法科学の書物が特に豊富にあるのだ。こんな量は今までに見たことない。心が読めと言っているのだ、読まない訳にはいかないだろう。
アモルディアが本の虫となるのはこれで人生5回目くらいになった。
私は再び驚き慄いていた。魔法科学の出所の大体の場所がわかった。青メガネが言っていたことが本当だとしたら魔法科学が生まれた国が昔魔法が栄えていた国で私の先祖がその国の出自だということ。そしてそこが"龍の眠りし森"と言われる鬱蒼とした木々によって昼でも暗く、夜は来た道もわからなくなるという森とほぼ一致している。ただこの森を1人で調査するとなるといくつか問題が発生する。
1つは魔法生物。魔物と略されることが多いが普通の生物とは異なり、体内に核となる魔石が存在する。学生によく勘違いされやすいが魔石と魔道具に使う魔法石は別物である。魔法石は天然資源で鉱物のため採掘することで獲れるが、魔石は魔物の体内にあり、魔物が生きてく中で他の生物から得た魔力を魔石が吸収しているらしい。あくまでも魔石に関しては有力説というだけで本質は解明されていないのだが。そして魔法生物は魔石を介して魔法を放ってくる。名前の通りだ。だが訓練された人でないと対処が難しく、普通に人を襲うため被害数は減少していない。使う魔法の種類も様々で飛ばしてくるような魔法なら私にも対処可能だが空間干渉系だと知らない間に殺される可能性があるため1人では向かいたくない。
2つ目に国が基本的に管理しているため勝手に入ることが難しい点が挙げられる。不法侵入は厳罰のため出来れば回避したい。
3つ目に国が管理しているにも関わらず国が内情を知らせないために危険な場所がわからないということ。流石に自分でマッピングしながらの調査だと誰かに見つかってしまうだろうし、危険な魔物の住処にうっかり入ってしまう可能性もあり危険極まりない。
よって1人で調査するのは無謀なため生徒会に打診してみようと思う。
この先の方針は決まったため今はディコースの大業とやらを調べてみよう。後学に活かせるかもしれないし...うん。決してハラの出自を調べるのが面倒とかそんなんじゃない。ハラはもしかしたら龍の眠りし森にあった国かもしれないから一旦別のこと調べても問題ないよね...ないはず、ないってことにしよう。
※※※
私は自分が不甲斐ない。私は自分が天才だと愚かにも自負していたが、そんなものは16代目当主ディコース・グラキエースによって粉々に打ち砕かれた。どうやらディコースは群を抜いて天才だったらしい。もはや天才という表現では生ぬるいくらいには人の枠を超えている。
書物によると、彼は魔物を手懐け天文学をこよなく愛し、数学の未解決問題をいくつも証明して年に論文を20余数個書いたらしい。
普通、学者は生涯に1つ良い論文が書ければ満足して悔いなく余生を過ごす。天才と言われるような人も生涯に2桁仕上げられるかどうかのレベルなのだ。ディコースは人外といっても差し支えないだろう。
彼の偉業を挙げればキリがない。惑星の動き方を計算で示し、ついでにこの大地が球形ではなく回転楕円体であることも示した。歯車を使って光の速さのおおよその値を求めて全ての生物が細胞から出来ている細胞論を提唱した。自分では思いつかないだろうものばかりで嫌になってくる。だが教科書などでは詳しく書かれなかった経緯がはっきりした。この事は素直に喜ぶべきだろう。
彼は魔法分野ではあまり論文を出していなく純理学 ー 魔法の介在しない状態での学問で功績を残している。彼は魔法が得意ではなかったのか、それともその時代には競争相手が多すぎて純理学の分野を専攻したのかはわからないがどちらであっても私が魔法を使うためのヒントにはなってくれると信じたい。
そして彼は魔物を手懐けたという話。禁書庫にその事に関する論文はあった。ありはしたのだがその内容が荒唐無稽でとても信じられるものではないのが問題である。論文では常に対魔法結界 ー 魔法の効力を弱めるもので差が大きいと完全に無効化するに至る を発動して近づき、干渉魔法で自分の魔力を相手の魔石に送り込めば勝手に懐くと書いてある。現代ではまず無理な方法と言えるだろう。まず対魔法結界を1分も持続出来る人が少なすぎる。そして干渉魔法は相手に対してではなく空間に対して発動するのが常識で、相手に対して発動するという視点が現代人になくなっているためわざわざやる人は現れないだろう。そもそも魔物は倒した方が早いし、逃げるのが安全だ。しかし、青メガネならこのくらいの事なら出来るのではないだろうか。青メガネはどうやら龍の眠りし森の調査を支援しているらしいため自分をねじ込む際の交渉の材料として持っておけばあいつなら承諾してくれるだろう。
後日、私は生徒会室横の空き部屋に青メガネを呼び出した。
「それで、僕を呼び出したってことは何か手掛かりでも見つけたのかな?」
「ああ。君のおかげでヒントを得られたよ」
「それなら良かった。僕も生徒会役員として役目は果たせたかな」
「まぁそこで相談というか1つ取引をしたいのだがどうだろう?」
「内容によるとしか言えないね」
当たり前だ。取引を持ちかけられてすぐに返事をするバカはこの世にいない。
「じゃあこちらの要求から。龍の眠りし森の調査隊に関する一部権限を貰いたい。具体的には指揮権とかが欲しいな」
「だいぶ大きなふっかけだけどそんなに自分の手札に自信があるのかな?」
「私から出せるのは魔物が手懐けられるかもしれないという情報だ」
「そんなのがあるんだね。でもあくまで可能性の段階だと弱いかな」
「そうか。グラキエース家では過去に魔物を手懐けてその論文を発表した人がいる。まぁその論文は一部が掠れていて条件の一部しかわからないんだがな」
「ふーん。まぁそれくらいなら調査隊にねじ込むくらいがぎりぎりだね」
「まぁそれくらいが関の山か。それでお願いしよう」
元より指揮権など手に入るとは思っていない。まぁ最初に大きくふっかけるのが交渉の基本ということだな。
「じゃあ取引成立だね。今その条件を話すか調査隊として参加するときに話すかどっちがいいかな?」
「じゃあ全てではないが今わかっている情報の一部を教えよう。今伝えられるのは魔物を手懐けるには魔物に近づく必要があることくらいだろうか。触れられる距離まで近づく必要があるらしいぞ」
「ありがとう。じゃあねじ込めるように打診しておくよ」
あらかじめ一部を教える事で相手に精一杯を尽くさせる。教科書では習わない少し黒めのやり方だ。
とりあえず調査隊という名目で森に入ることは出来そう、というかできるだろう。とりあえず今できる精一杯はできた。あとは天命を待つだけだ。
***
「ヒエムス様、急用です!よろしいでしょうか!」
自室で書類仕事をしているとうるさく呼ぶ声が聞こえた
「入れ」
入室を促すとグラキエースの屋敷の使用人が慌てた様子で入ってきた。
「何があった?」
「それが、アモルディア様が龍の眠りし森の調査隊に加わり、行方不明になったと」
「それは真か」
「はい。調査隊の責任者より報告があり、途中で姿を消したと」
「担当していたのはどこの家だ?」
「フロース家でございます」
「欲が強くて面倒くさい家だな」
「いかがいたしましょう?」
「あいつは対魔法戦闘もできるし、基礎生活能力も十分にある。故にまだ生きている可能性は限りなく高い。すぐにグラキエースの息がかかった者を派遣するぞ」
「承知しました。すぐにご準備を」
「待て。フロース家といえばアルカヌム魔法学園に子息が通っていたはずだ」
「はい。フラッマルス様が生徒会会計の役に就いていたはずでございます」
「あいつは危険だ。ケレブレム家と私は会ってくる。そっちの手筈も並行して頼む」
「承知しました。可及的速やかに」
使用人は一礼して退室する。
アモルディアは魔法は使えないが魔力探知は潜在的に人よりできている。勘当したことで基礎生活力も鍛えられたはずだ。元より頭の回るような子だからこそあの環境下でも生きているはずだ。いや、そう信じたいだけなのかもしれない。私が体裁を保とうとせずにアモルディアと全面的に協力していたら現状は変わっていたのだろうか。あの子の無事を聞かない限り書類には手をつけられそうにない。
ともあれ、今回はフロース家子息がやらかしたに違いない。ケレブレム家はフロース家と相性が悪いため今回は力を貸してくれるだろう。痛い貸しにはなってしまうのはこの際目を瞑るしかない。
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