1章 理論魔法と魔法科学

第1話 天才は魔法が使いたい!

『理論魔法 ー それは人族が魔法を使えるようになってから研究され、発展してきた学問である。"魔法はなぜ使えるのか"から出発して今では"魔法を使う際の効率を上げる"という観点では以前の3倍程まで進んでいるそうだ。

しかし、今まで研究されてきたとはいえ魔法を使う際はどうしても感覚頼りなところがあり、大抵の人は魔法が使えるため原初の疑問は未だ解明されていないともいえる。』

(国立図書館所蔵図書『歴史と学ぶ理論魔法』著コルボー・P より)


「私は色々な教科書や専門書を読み漁ってきたが大抵の魔法関連の書は書き出しが決まっている。絶対に理論魔法の説明から入り、大体は未だに最初の疑問は解決されていないと結ばれ、各分野の説明に移行する。

私はこれに納得がいかない。根本の疑問が解決されていないのに学問として成長して枝分かれしてその先でも成果はある。それでは前提が崩れたときに多くは一緒に崩壊する。そしてその崩壊を恐れて根本を直そうとしない悪循環が発生してしまう、というか一部では既に起こっていても不思議ではない。

私、アモルディア・グラキエースはこの疑問を解決するとともに幼い頃からの夢である「魔法を使う」を達成したい。そのために魔法学園の最高峰である貴校に志願した。」


魔法学園の試験記録の面接記録を拝見していると面白い記録を見つけた。記録用に簡潔にまとまっている為口調は面接官しかわからないし、他の履歴を見るには志願書の欄から探さないといけない。しかし、魔法が使えない生徒などこの学園には1人しかいない。

「今度直接会ってみようか」

「会長。口に出ていますよ。どうかされたんですか」

「いや、魔法の使えない生徒がいるだろう?あいつの面接記録を見つけてな。少し話を聞いてみようかと思って」

「あの子ならよく実践魔法の講師と言い争っているのでその講師をあたってみてはいかがでしょう」

「ありがとう。そうしてみるよ」

書記に言われたので素直に従っておく。彼女はステラと名乗っており、家名はないらしい。しかし銀髪で容姿端麗、さらに魔法の才能を加味すると直系の先祖に王族や名のある貴族がいたのだろう。よって家名がないのは考え難いため家を知られたくないのか捨て子であるかのどちらかだろう。まあ私は首を突っ込むような無粋な真似はしたくないため本人に確認することはないのだが。


***


埒があかない。入学してからある程度が経ってから色々な教師にあたっているが誰も本以上の事を教えてくれない。いや、理解できていないのかもしれない。そもそも人族が魔法を使えるようになった経緯が解き明かされていないのだ。そこを知るにはもうなくなっている記述やもう生きている訳のない当時の人と会うのが1番で、次に語り継がれている線を追ってその民族にあたるのが確実といえる。

しかしどちらも先行研究がされているもので期待など微塵もできない。

私はただ魔法が好きで使いたいだけなのにどうして私だけ魔法が使えないんだ。本当におかしいと思う。もちろん生理的な問題で使えない人はいる。しかしそういう人は魔法を使うと体調や心に悪影響があるから使うことができないのであって使おうと思ったら使えるのだ。

対して私は魔法のマの字も感覚がわからないから一線を画している。

「なんでお前は魔法が使えないんだろうな」

「今更になって嫌味ですか?侮辱ですか?」

「いやそうじゃなくて。だって普通の人がわかるような感覚をわからないんだろ?それってお前は普通の人とは違う何かがあるはずだからそれを解き明かせば一歩近づけるんじゃないかと思ってな」

「私もそう思って検査したんですが今の技術ではわからないと言われまして」

「じゃあ入試で他満点だった所以は?」

「私の脳の容量?」

「そんな言葉じゃあ表せないほどすごいけどな。だって見たもの忘れないんだろ?羨ましいぜ」

見た事をや聞いた事を忘れずに思い出せるとか知らない言語を理解できるのは他人にない長所ではある。あるんだけど魔法みたいな人間の努力じゃどうにもならないような事を私はしたいんだよなぁ。

「まぁ自分でも便利だとは思ってますよ。特に見たことない言語でも何個か文があると読めるようになるのは重宝してますね」

「やっぱりお前はずるいよ」

「でも魔法に翻訳するやつありませんでしたっけ?」

「あるけどあれって話されてるような言語しかだめで昔のはわからないし結構魔力持ってかれるから使いたくないんだよな」

「そうなんですね」

ちなみに魔法を使う為の元になる魔力については未だに研究が発展しているとはとても言えないくらいには酷い。魔法を使う時に魔力は定数量必要なのか割合量必要なのかすらわかっていない。同じ魔法を使うのに同じ詠唱をしても人によって効果量が変わってくるため検証が十分に行えないのが原因と聞いた事がある。成長によって魔法の効果量も変わるので1人でも検証ができないのは本当に研究者泣かせで笑えてくるくらいだ。

なので魔法の種類等が載った本を読むと必要魔力に「たくさん」とか「1日に○回撃てる人が多い」とかで本当に参考にならない。

ちなみに検査の結果だと私には魔力自体はあるらしい。幼い頃に"魔道具"を使えるのが証拠だと教えてもらった。しかし魔道具は本人の魔力を使うのではなく"魔法石"の含有魔力を使用者の魔力を回路にして使っている仕組みなので魔道具では魔力の有無はわかっても量がわからない為魔力量の検証には使えない。

"魔法"と名のつく学問は軒並み発展していないとも言えなくはない現状であるのだ。

「ひとまず今日は帰ります。色々と考えても魔法が使えるようになりそうな方法は思い浮かびませんね」

「そうだな。あと明日は生徒会室に行ってこい。会長さんがなぜか知らんがお前を呼んでいたぞ?」

「心当たりが微塵もないので怖いですが承知しました」

最近お世話になっている教師 ー アレン・ディスパイアに別れを告げる。彼は様々な魔法に精通しており、魔法について聞くならこの人の名前が候補に上がらないなんて事はないくらいには生徒からの信頼も得ている。この人と仲良くなっておけばこの先もある程度は安心できるはずだ。


翌日、私はアルカヌムの敷地で迷子になってしまっていた。

昨日教師に言われた通りに生徒会室を訪ねようとした。だけど場所がわからない。そりゃあ余程のことがなければ生徒会室など訪れることはない。

冷静になって校舎入り口から右手の法則で総当たりに教室を調べたが一向に見つかる気配がない。このままでは埒が明かないのでアレン先生のところに行くしかない。

個人的にはあまり頼りたくはないけども...


私はようやく生徒会室についた。なんで生徒会室だけ別区画にあるんだ?納得がいかない。

「失礼します。アモルディア・グラキエースと申します。私に用があると伺ったのですが」

3回のノックの後に定型文を言うとドアが開いた。

「来てもらってすまない。生徒会室へようこそ。適当に腰をかけてくれ」

「ありがとうございます」

出てきたのは見覚えのない男性。少々疲れているように感じる。

「他のメンバーは出払っていて申し訳ないが生徒会長のグラーティア・ケレブレムだ。呼びやすいように呼んでくれて構わないが家名はやめてくれると助かる」

ケレブレム家。王の腹心と云われる階級のお高い貴族様だ。私に縁などない。

「ではグラーティアさんと。それでなぜ呼び出されたのでしょうか」

「いや、貴公の面接記録を読んでな。ぜひ生徒会も協力したいと思い声をかけた次第だ」

「なるほど。もちろん有難いですが交換条件のない善意は怖いので受け取れません。もしお考えがあるようなら最初に言っていただけると安心できます」

これを言うことによって後からお前を手伝ったんだからこれをやれよと言われることがなくなる。面倒な心配をしなくてもよくなるので広く使える便利な言葉だ。

「それもそうだな。では率直に生徒会を手伝って貰いたい。無論貴公が嫌なら正式な手続きをせずに善意のボランティアという形でも構わない」

「それほど業務が逼迫しているということでしょうか?」

「それもある。ただ事務作業よりも頭を使うような面倒事を押し付けたい」

「それを引き受けたときに魔法を学ぶ時間など取れるのでしょうか?」

「そんなに心配は要らないはずだ。そういう面倒な事は月に1度来るかどうかでしかない」

「わかりました。他の方がいないので整合性がとれないのが残念ですが受諾しましょう。ちょうど新しい知見を得たかった頃ですし」

「それなら良かった。まず私達が思い浮かばず溜まってきた案件が少しあるので今日はそれを考えてもらいたい」

「わかりました。資料は…」


1週間以上が経過し、私はようやく任された仕事が片付いた。会長には異例の早さだと褒めてもらったが自分はもう少しできると思っていた節があるので自身を見つめ直す良い機会となった。

「本当にありがとうアモルディア。長く待たせてしまったが今日から魔法の研究に移ろう」

「はい。以前はアレン先生に相談していたんですができる気が微塵もしませんでした」

「まぁあの人は魔法の才能があるから使えない経験はした事がないんだろうな」

「では会長はできない経験があったと?」

「私はできない事ばかりだからな。特に合成魔法とか高次展開は苦手だ。その分野は書記のステラに任せてる」

合成魔法。別種の魔法を同時に発動し、新たな効果をもたらす技術。高次魔法展開。1つの魔法を1度に大量に展開することで効果を強める技術。魔法の種類によっては新たな効果もつく事は入試の問題にもでていた。

「私は知識だけならあるんですけどね」

「私も専門書を読み漁ったが全然駄目だったから知識の問題とかではないんだろうな」

「やっぱり感覚なんですかね」

「仕事みたいにマニュアルがあれば簡単にできそうなんだけどな」

「それがあったら苦労しませんね」

「試行錯誤が魔法の楽しみでもあるから思考力が落ちなければいいんだがな」

「その視点も大事ですよね」

「まぁとにかく会計の青メガネのところに行けば何か新しい事がわかるはずだ」

直後にドアの開閉音が耳朶を叩く。

「はーい青メガネでーす。君の身体調べてもいいかな?」

「別に構いませんよ。青メガネさんは研究者のような人ですから」

「よくわかってるねー。じゃあ別室に行くか会長を追い出すかどっちがいい?」

「いやなんで私が追い出されるんだよ」

「じゃあ別室に行こうか」

フラッマルス・フロース。通称青メガネ。青い髪に眼鏡をかけていることから会長が命名したと聞いている。彼の魔法知識には驚かされるほどだ。

「じゃあ両手出して」

断る理由もないので素直に従う。

「今から君の右手から僕の魔力を送るから注意しててね」

「わかりました」

「じゃあ行くよ?」

直後に左手に違和感を覚えた。このままではいけないと体が、脳が警鐘を鳴らしている。

私は思わず手を引っ込めた勢いで蹴り飛ばしてしまった。

「おーいてて。どうやら君の魔力感知は群を抜いて凄いらしい。体に問題ない程度の悪性魔力を送っただけなんだけどね」

「すみません。思わず体が動いてしまったみたいで」

「問題ないよ。君の両親というか知ってる範囲の直系に魔法の使えない人はいる?」

「いないですけど」

「だったら君は先祖返りしている可能性が大きい。今の魔法はかつてあった魔法が栄えた国の残った資料を元に作られた。いわば模造品であり紛い物だ。その前の国の血を君の家系は継いでいたんだろうね。だからこそ君は本物しか扱えない。君が魔法を使うには今はなき王国を調べるしかないと思うよ」

「どんな国だったんですか?」

「さぁね。しかし君に有力な情報がある。その国から魔法科学が生まれたという事を聞いた事がある。あくまで噂だけどね」

「私はそんな話聞いたことないんですけど」

「そりゃあつい最近入ってきたまだ新聞にも載ってない情報だからね」

「詳しく知りたいんですが」

「調査隊が全員行方不明になったっていう記事になると思うからそこから調べたらいいんじゃないかな?僕の家はその調査に関わっていたから僕の家に来てもらってもいいんだけどね」

「行き詰まったらまた相談します」


あの青メガネはなんなんだ?私が長年悩んできた原因にあたりをつけてきた。先祖返り?考えた事がなかった。なんであんなにも情報がある?疑問ばかりが湧くため私は一旦家に帰ることにした。

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