第31話 笑顔咲かせる
「なぁ、琥珀、聞きたいことがあるんだけどお前って人見知り…とかなんか?」
「…さあ。」
長い沈黙。会話終了に伊吹は頭を抱える。
雨音はそんな伊吹を見て助け舟を出すように琥珀の顔を覗き込む。
「私も人見知りなんだよね。でもみんな優しく話しかけてくれるから自分が人見知りってこと忘れちゃう。琥珀ちゃんもそう思わない?」
「……話しかけてくれるのって伊吹だけじゃない?」
「え?そ…そうかな…でも確かに言われてみれば…それじゃあ伊吹くんのコミュ力がおかしいってこと…?」
「おい、それ貶してるだろ。」
伊吹の鋭いツッコミに雨音は慌てて言葉を止める。
伊吹はしばらく睨みつけていたが何かを思い出したように琥珀に向き直り、髪をいじりながら言う。
「話を蒸し返して悪いけど…叶多となんで仲良かったんだ?なんか変な組み合わせだよな。否定とかじゃなくて不思議でさ。」
「…うちに一番優しく声かけてくれたから。怖くて小屋の隅でうずくまってたら手を差し伸べてくれて…それから話すようになった。」
意外な叶多の行動に目を丸くして驚く反面、弱々しい叶多にそんな男らしい一面があったのかと感心する。そして伊吹は気づく。琥珀に特別な感情を抱いていたからこその行動だったのではないかと。
そう思った途端、なんだか心がギュッと苦しくなる。"切ない" ただただそう感じ、伊吹は琥珀を見つめる。
「そうか。良い奴だな。お前も叶多も。お互い良い所を知ってるから惹かれ合ったんだな。」
「うちは好きだったよ…叶多のこと。叶多はどうか分からないけど…どうせなら伝えたらよかったかな。」
後悔しているかのように拳を握りしめ、視線を落とす琥珀の瞳には生前の叶多が映っている。
琥珀に見せる笑顔、笑い合う二人。そして交わした一つの約束。
"僕が君の笑顔を守っていくよ。だからできるだけ傍にいてほしいな。"
思い出してはまた涙を流す。交わされることなく、儚いまま消えてしまった約束はもう二度と訪れることはない。この約束が果たせるとすればきっと琥珀が死んでしまったときだろう。
「……あの世では…傍にいれるかな…」
琥珀の独り言を聞いた伊吹は歯を食いしばり、琥珀に喝を入れる。
「お前なぁ…叶多がそんなこと望んでると思ってんのか?あいつと一番近くにいたお前ならわかるだろ。お前が死んであの世で会えても叶多は喜ぶと思うか?お前が生きてる、お前が笑ってる。それが一番あいつが望んでることなんじゃねぇの?だからそんな事言うなよ。聞いてる俺まで悲しくなるだろ。」
黙り込む琥珀の目から涙が落ちる。
わかっている。こんなこと言っても何も解決しないと。
「…叶多くんはきっと琥珀ちゃんのこと今も見守ってくれてるよ。姿はなくても心で生きてるから。だから一緒に乗り越えよう。独りじゃないんだから一人で抱え込まないでね。いつでも頼って、わがままも言って。」
「そうだぞ。雨音の言う通りだ。きっと思い出して泣くこともある。その分、泣いてたことを忘れるくらい笑え。心配すんな俺が笑わせてやるよ。」
伊吹と雨音の力強い言葉に心が震える。
少し感激したように琥珀が顔をあげると同時に
"グーっ" っと伊吹のお腹が鳴る。同時に向けられる二人の視線。空気の読めないお腹に恥ずかしそうに目を逸らし、気まずそうに頭をかく。
「…飯食おうぜ。まぁ肉しかねぇけどな。そろそろ顎取れそうだわ。」
悪態を着く伊吹とそれを見て微笑んでいる雨音の背中を見て琥珀はこっそり呟く。
"…辛いのに笑えてるのは前向きなあんた達のおかげね…ありがとう…"
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