第1話「串カツ」2

 アズサとアヤミはほとんどアルコールが飲めないので、いつもノンアルビールで乾杯する。この日も、ノンアルビールを飲みながら、串カツをほおばり、毎日のこと、仕事のこと、いろいろとりとめのないことを話していると、本当に心が温かくなるように感じた。そして、そのうち、話はなぜかSF小説のタイムマシンの話題になった。アヤミが持ち前の知識で説明する。


「なんかな、タイムマシン好きな人たちは、ほとんど同じやけどどっかがちょっとずつ違う『平行世界』いうのが無数にあるて言うて、タイムマシンで過去や未来に行って、現在に戻ると、たいてい、そのちょっと違う別の世界に入ってしまうんやて」


 アズサが串カツをほおばりながら聞き返す。


「へぇ、元の世界に戻れへんの?」


「うん、なんかな、ホンマ、全く同じように見えて、ちょっとだけ違うねんて。例えば、アズサが未来に行って、また現在に帰ってきて、で大津に戻ってくると、ぱっと見なにも変わらんけど、どっか違う、とか」


「どこが違うねん?」


「ウチがおらん、とか。ハハハ」


「いやや、そんなん言わんといて! アヤミがおらんかったら、ウチ、戻ってくる意味あらへんやんか!」


 アズサは、ちょっと顔を赤くして抗議した。アヤミが続ける。


「でな、そういう平行世界のことを『世界線』いうんやて。なんや、世界全体のことなのに、線て、変やんな」


「なんで線なんやろな。そんなに細長いんかな?」


「なんや、線は時間軸のことや、とかいうらしけどな」


「じゃあウチら今ここで串カツ食べてるのも世界線の途中なんやな」


 アズサが、また一切れ串カツを串から外して食べた。それを見てアヤミが応える。


「そやね。世界線って、そんなかで、ウチら、暮らしていくんやろね」


「ホンマに、そんな線みたいな世界になっとるの?」


「さぁな。ウチらには、世界が広くても線みたいでも、どっちでもええけどな。だいたい、そんなん、実在の証明のしかたも分からんようなこと、よう知らんよ。ウチはアズサと串カツ食べてたほうがええ。串カツの串が、世界線みたいに細長いやんか。アハハ」


 すると、アズサは真面目な顔で、


「そしたらウチらの串カツも、世界線に刺さってるってことやんな…」


と言い出す。アズサがそう言うと、アヤミは、


「そやね、この串のお肉が串から外れると、別の世界線に移るんや。アズサのお腹の中とかな」


と言った。アズサは、


「ほなら、そのあと、お肉はウチの胃袋で消化されてしまうから、世界、無くなってしまうやん」


と、二人で大笑いした。

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