第1話「串カツ」3
ひとしきり笑いが収まると、またアヤミが言う。
「アズサな、ノンアルビールて、飲んでも酔わへん思うとるやろ。ちゃうんやで。楽しい時間においしい飲みもん飲んどったら、ちゃんと脳みそがええ気持ちになるんやて。脳科学のセンセが言うてはった」
と講釈する。するとアズサも、
「そやね。アルコールは脳みそが止まって、寝てしまうもんな。楽しい。ハハハ」
アズサは本当にノンアルビールで酔っぱらってしまったのか、ちょっと目がトロンとなっている。
「なあ、ウチ、アヤミめっちゃ好きやねん。でもな、ウチら女同士やし、串カツ屋行くぐらいがせいぜいやな。ウチ、ヨウスケみたく男やったらよかった」
アズサは、弟のヨウスケを引き合いに出して、アヤミに恋するようなことを言う。アヤミはそれをきちんと受け止めて、
「女同士でも、しっかり好きになってもええんよ。ウチもアズサ大好きや。ずっとこのまま楽しい二人でおろうな」
と返した。文字通りの仲良し女子であった。
アズサは、座敷の壁にもたれて、笑顔のまま目をつぶってしまう。まるで本当に酔っぱらったように見える。そんなアズサをアヤミはいとおしそうに見てから、トイレに立った。アヤミは、トイレから戻ってきた後、アズサの肩をたたいて、「出よか」と声をかけた。アズサははっと我に返る。そして、「うん、おいしかったな。また来よ」とアヤミに言う。アヤミも、「うん、また来よな」と言い、二人ともなにか暖かい気持ちのまま、会計をして店を出た。
二人はこのまま、集合した駅まで歩いて行く。「今朝の卵焼きが焦げた」とか、「MLBの二刀流の日本人選手はなんであんなにすごいんやろ」とか、「それ言うたらアヤミも理系と文系の十分二刀流やんか」とか、たわいもない話をしながら二人は駅に着いた。しばらく待って、互いに反対側の電車に乗る。片方が見えなくなるまで、お互い手を振っていた。
何も起きない、平和な夜。二人の女性の親愛と串カツの情景。
(第1話「串カツ」了)
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