第11話

 

 納屋の中で硬質な金属音が鳴る。家畜用の飼料も、冬を越すための食料も何も残されていないガランとした空間で、バートラムとカタリーナ、二人が装備を整える音が響いていた。


 「対勇者用の炸裂弾。殺せはしませんでしたが、まとわりついていた影を剝がしたり、一定のダメージは通っているように見えました」


 カタリーナはそう言いながら負傷したディミトリウスの装備から、赤いテープの巻かれた弾倉を抜き取り、自分のマグポーチへと収める。さっきまでの窪地での戦闘で、確かに盾のように体へとまとわりついていた影を剥がし、その身をのけぞらせる程度にはこの炸裂弾は効果があったようにも見えた。


 「足止め、最悪気休め程度にしかならんが、それでも無いよりはマシだな」


 バートラムも、マグポーチから一番取りやすい位置に炸裂弾の詰められている弾倉を差しなおしながら答えた。


 「お互いに残っている炸裂弾の弾倉は一つずつ。使うタイミングは慎重に選ばないとな」

 

 それまではカルシウム弾頭を装填しておけとバートラムが言う。乗り込むのは魔王の城という、知らぬ者はいない迷宮ダンジョンだ。勇者が魔王を倒したときに殺し損ねた配下の魔物が飛び出ポップして来ないとも限らない。


幸いにして、勇者しか攻撃が通らない魔王に対して、通常の魔物は一般人の攻撃でも、何ならば消え去ったこの村の住人が振るっていたひのきの棒でさえ倒せる。仮に遭遇したとしたら、ひき肉になるまで銃弾を叩き込めばいい。


 先ほどまで背負っていたバックパックはこの納屋に置いていく事にしている。魔王の城に乗り込むにも身軽な方が良いとの判断だ。どちらにしろディミトリウスをこの納屋に迎えに帰ってこなければならない。


 「魔王の城、その中からタブレット一枚探してとなると時間がかかりそうですね」


 「そればかりは仕方ない。さっき君が影を撃った時に、それらしき物を身に付けているようではなかった」


 そんな二人に割り込んで、もう一つの声が聞こえた。


 「方法ならありますよ」


 いつの間にか目を覚ましていたディミトリウスの声だった。未だ覚醒しきれていない目をしたまま、頭だけを二人の方に向いていた。


 「よう、調子は?」


 バートラムが近づいて様子をうかがう。


 「悪くないかな。ところで煙草とか持ってません? 完璧に頭を醒ましたい」


 残された右腕を掲げ、指先で煙草を挟むジェスチャーをする。今の彼なりの精いっぱいの強がりだった。


 「悪いが、この世界に来る前に残してきた。帰ったらカートンで買ってきてやるから、気合で頭を醒ましてくれ。それで、方法ってのは?」


 苦笑いで残念がる様子を見せながら、説明を始める。


 「我々が使っているタブレットに欺瞞用だったりの電子戦装備なんて洒落たアプリなんかインストールされていませんからね。だとしたら我々が使っている周波数よりも強い周波数を使ってノイズを流してるって単純な方法だと思います」


 「その方法だったら、この地域か出れば出力が弱まって脱出できるんじゃないのか?」


 「通常ならば、そうです。ですが元々このタブレットにそこまで出力を出せる機能なんてありませんから、どんな方法かは知りませんが改造してるのは確かです。それに……」


 「それに?」


 「ここは“異世界”でしょう? 物理法則だったりこの世界にない素材だったり、何が干渉してくるかわかりません。大元を潰すのが確実ですね」


 話を戻しますね、とディミトリウスは続ける。


 「大まかに言っちまえば、つまりはクソデカい電波を出してるわけなんで、こっちのタブレットを受信モードだけにして探知機代わりにノイズのデカい方向を探せばいいわけです。詳細な位置までは無理ですけど、大まかな位置なら何とでもなるでしょう」


 そこでディミトリウスは一息つく。痛みを我慢している為だろう、額が汗ばんでいた。


 「……分かった。あとはこちらに任せろ。終わったら必ず迎えに来る、と確約してやりたいところではあるが」


 「分かっていますよ。カタリーナ、チェストリグから手榴弾をとって右手に握らせてくれない?」


 呼びかけられたカタリーナは、鈍く銀色に光る手榴弾をディミトリウスのポーチから取り出し、彼の手に握らせる。バートラムらがこの納屋に帰れなかった場合、カタリーナらが間に合わなかった場合、その時はディミトリウス自身でケリを付けねばならない。


 「荷物もすべて、お前の乗った台の下に置いていく。いざと言う時は頼んだぞ」


 「幸い右手と、口は残ってくれていますからね。ピンを引きそこなうことはないでしょう」


 任せた、とバートラムが肯くと、安心したようにディミトリウスもうなずき返した。

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