第4話 師匠との出会い

 金色のコインが弾かれる。

 青一色の空に、不快感を感じさせない歪みが生まれる。

 放物線の最高潮に金色が達したその時、本来の輝きがそれであるように煌めく。

「ふむ。やはりここも一筋縄では行かないようですね。しかし」

 コインが掌へ吸い込まれ、手中に収まる。

「面白いご友人とは出会えました」

 コインとおなじ、金色の神と金色の瞳を持つ青年は、街を歩く。

 

 その名はキゲスト。

 手品師マジシャンを生業とし、怪盗を趣味とするもの。

 出会った人こそ多くはないが、出会ったものからは必ずこう呼ばれる。

 偽善者と。



 空の模様はいまだ青く、暖かな陽気で出迎える。

「今日の仕事は終わり」

 仕事が終わるにはまだ早い時間。そんな時間にのうのうと呟き、本屋から出てくる男が一人。その名を軽本進太郎という。

 現在の時間は午後3時。

 定時とも言えず、通常なら本屋の閉店時間でもない。だが、今は通常ではないのだ。

 古びた看板を現代風にアレンジし、小綺麗な雰囲気を醸し出す、「中古から新書までないものは多分ない」をキャッチコピーとする本屋ブッコフの扉は固く閉ざされている。

 どうやら今日は通常営業じゃないらしい。

 

 時間は15分ほど前、慎太郎が珍しくラノベコーナー以外の陳列をしているところに、店長から声がかかった。

 どうやら何か用事があったらしく、今日はもう上がっていいということだった。

 そういうわけで、見事合法的に締め出された進太郎。彼は現在同しようかと戸惑っているところである。

「やることないなぁ」

 普段ならば即帰宅してラノベを読むところだが、今日は気分が乗らない。

 ラノベをこよなく愛す彼だが、興が乗らない日もあるのだ。


 シャン。

 西洋の鈴の音がする。軽くも、重厚感のあるその音は、軽薄そうな男の到来を意味する。

「やあ」

「シャル。また会おうってそういう」

「ははは。叙述トリックってやつさ」

 微笑む金髪の美男子の名はシャル。異世界の貴公子ということになっている。

「それで、どんなご用で?」

「何のようもないさ。ただ、歩きながら話そうと思ってね」

 彼らは歩き出す。青い空は彼らと寄り添うように歩く。

「君に言ったとおり、僕は魔術師だ。特に空間魔法、まあそうだね、簡単に言えばサポート専用魔術師ということかな。最近は旅にハマっていてね」

「サポート専用か。ってことはこの街も?」

「ああ。そうだね。僕がやった。人の記憶は無理に弄れないからどうなることかとは思ったけど、まあここの人たちがこういう精神で助かったよ」

 苦笑しながら、功績を語る。

「ところで今何時だい?」

「今?15時くらいじゃないか?」

 多分と付け足す。

 実際のところ、ほぼその時間は正解で、現在は15時27分だ。

 世間一般的には3時のおやつどきというところだが、彼らは止まる気すらなく歩み続ける。


「なるほどね。あ、そうそう。最近近くで馬型の何かが走り去っていくという目撃例があるんだ。」

「馬型の何か?そりゃ馬だろ」

「そうとは限らない」

「確かに、ロバの可能性もあるか」

「大きさが違くないかい?」

「それもそうか」

 確かにロバと馬では大きさが違う。似たような見た目をしていても中身は全く違うのだ。

「それとどうやら上半身が人の体をしているようでね」

「ケンタウロスってわけか」

「そういうことさ」


 ふと、隣の道路に目を向ける。その時、紫電の閃光が走った。

 一本の確かな線を残し、、その場から消え去るそれ。

 ただ事ではないだろう。

 そして、シャルが口を開く。

「そういえば、高速で動くとも言われていたね。紫色の閃光を残して」

 偶然か否か、どうやら先程の紫電と完全一致しているようだ。

 ついでに、少しながら姿を捉えることができた。

 断片的な視界情報を組み上げると、それはケンタウロスのような姿をしていると認識できた。

「一個質問いいか?」

「ああ。構わないとも」

「やっぱそれって馬じゃないか?」

 だが悲しいかな、進太郎の目には馬のように映ったようだ。

「まあ追ってみればわかるんじゃない?」

「いや、あれは馬だって。尻尾も馬っぽかったし」

 いまだ馬だという主張を続ける進太郎を尻目に閃光が消えていった方向へ歩いていく。

 まっすぐ歩いていくと、進太郎宅の近所の公園へと繋がる。

 噂に聞くような異形は見えず、白髪の少女が1人、紙袋を提げ歩いているだけだった。

 進太朗の半分より少し高いくらいの背に流行りの服ながらも少々浮世離れした服装をした少女は、機嫌が良さそうに歩いていた。

「ん?あれは…」

 シャルが反応を示す。

 刹那、紫電が少女の背後に現れる。半馬半人の姿と共に。

「危ないっ!」

 進太朗は背負っている銃剣ページガンソードを迷うことなく投げつける。

 太陽に照らされ銀に輝く刃はブレることなく異形に突き刺さる。

「きゃっ」

「っ!」

 怪物に刺さった刃はトドメへと至ることはなかった。

 だが、怪物を警戒させるには十分だったようで、目にも止まらぬ速さで退去した。


「大丈夫?」

 すぐさま進太郎は駆け寄り少女に話しかける。

 白髪の、巫女のような髪をしたその少女は、差し出された手を掴み立ち上がる。

「ええ。大丈夫です」

 鈴のような可愛らしくも凛々しい声は、進太朗へ無事を伝えることに役立つ。

「先程は、お見事でした。して、貴方の名は……。ああ、納得です」

 彼女の言葉とともに向けられた視線には、シャルがいた。


「その声、そしてその姿。まさか師匠かい?」

「どうやら、師のことを忘れてる訳ではないようですね。安心しました」

 シャルと少女が会話を始める。

 既に知り合いのようなその口調は、進太朗を混乱させる。

「どうした君たちもしかして死別した探偵と助手だったり……?」

「そういうのではないよ。師匠と弟子の関係ではあるけどね」 

「はい。その通りです。申し遅れました、私は新妻にいづまミコ。彼の師匠をやっていました」

 少女、もといミコはぺこりと頭を下げる。

「師匠か…。ということは…」

「そう。魔法の師匠さ。僕の空間魔法もだいたい彼女から習っている」

「あ、魔法か」

「参考までに何を考えていたのか教えくれないかい?」

「猫専用の探偵術かと思ってた」

 割と的外れ、いや、かなり的外れなその意見に苦笑しつつ、シャルは受け流す。

「しかし、師匠は何故ここに?」

「趣味を全うしに来たのですよ」

 そう言って紙袋を掲げる。 

 紙袋から取り出したものは、カバーをつけた本だった。

「ラノベか」

 一瞥でそれがラノベであることを見抜く進太朗。

 それは的中していたようで、彼女は肯定の代わりに説明をする。

「らのべ?というものなのでしょうか?最近、暇をしていたもので、少し千里眼でこっちのこのシリーズに出会いましてね、今ではすっかりファンというわけです」

「師匠にそんな趣味が……。いやはや、僕は弟子として嬉しいよ」

「シャルは私をなんだと思っていたのですか…。それよりも、先程の手腕見事でした。弟子にしたいくらいです。それはやはりそれから学んだものなので?」

 それと、指さされたのはシャル。シャルは一抹の哀しみを覚えたが、心にきゅっとしまい込んだ。

 グッバイ哀しみ。またいつか会おう。

 シャルはそう思いながら、彼女らの会話に耳を傾ける。

「いや、これはこの間のいざこざで身につけた護身術みたいなものだ」

 進太朗は、この間の戦いの後、少々護身術的な技術を身につけていた。

 護身術と言っても、ほぼ殴る、蹴る、投げるの強化版みたいなものだが。

「独覚ということですか?」

「そういうことに、なるのかな?」

 長くなりそうな立ち話を前に、シャルが自分を助ける助け舟を自分で出す。

「まあ、立ち話もなんだし、彼の家に行かないかい?」

 家主の承諾すら受けていないその提案は、もれなく可決された。



「なるほど。ここにブックレイが現れたので、それを何とかするために奔走してると」

「ああ。全くその通りだ」

 ミコに一通りの事情を説明し終える。

 納得してくれたようで、注がれたお茶をすすっている。

「で、彼がなぜか変身できて、ブックレイと対等に戦える人間だよ」

「そんな変質者がいるんだな」

「君のことだよ進太朗」

 そのやり取りに、ミコは微笑み、口を開く。

「変身ですか。私の記憶にもない事例ですね…」

「師匠も知らないとはね…」

 こりゃ正体不明だ。とシャル。

「しかし、原理なら何となく分かりますよ。きっと私の術と近いのでしょう。」

「というと?」

 進太朗はその一言の意味を問う。

「私の術は、想像力を元にこの世に様々なものを具現化させるというもの。状況と、経緯を考えると私のものと似ている、もしくはほぼ同じと考えるのが妥当でしょう。」

 そう言ってミコは、手のひらに小さな火の玉を出してみせる。

 暖かくも情熱的に燃え盛るそれは、彼女が手を握ることで消え去った。

「きっとあなたは魔法が使えのないのでしょうから、その腕のデバイスを通して具現化したのでしょう」

「ふむふむ。急にこれが生まれたのもそういうわけか」

「まあ、憶測にすぎませんが。しかし、可能性は十二分にありますよ」

 シャルが手をぽんと打つ。

「そうだ。進太朗。師匠に色々教えて貰ってはどうかな?。なにか新しいことに目覚めるかもしれない」

「ふむ。それもいいかもしれませんね。私も暇していたところですし」

「俺も仕事がなくなって暇してたところだ。そうさせてもらってもいいか?」

「え?進太朗リストラされたのかい?」

「ただの早上がりだよ」

 漫才とも言えるやり取りをみつつ、ミコはパンと手を打つ。

「それじゃあ、やりましょうか」


 近所の公園にて。

 黒髪の青年と、白髪の少女は並んで立っていた。

 そこに金髪の青年は見当たらない。

 そう、金髪の青年ことシャルは用事があるからと帰ったのだ。

「では、まずデバイスを」

「おう」

 手首に力を込めカバートーターを出現させる。

 赤く煌めくそのブレスは腕に輝いている。


 その瞬間。ミコの紙袋が奪われた。

「はえっ!?」

 素っ頓狂な声を上げるミコ。

「こいつは…」

「わ、私の財布…。お父さんから貰った大事な…」

 ミコはこれまで見た事ないほどに狼狽え、動揺する。

 やがて、絶望したかのように地面にへたり、俯く。

「師匠…。あれには何が入っていたんだ?」

「買った、本と、私の父から貰った大事な財布とお守りが……」

 暗く、先程までの声とは対称的な声で絞り出された説明には、どうしようもない悲壮感が漂っていた。


「取り返しに行くしか…」

「南西の方向に突っ走って行ってますね」

「南西…。ってお前!?」

「突然申し訳ない。ご友人 。姿をお見かけし、お連れの方の所有物が奪われたところをお見かけしましてね。方向を確認し、報告したまでです」

「どこの変質者の仕事だそれ」

手品師マジシャンを生業とし、怪盗を自称するものとして、奪い返せないのは残念ではありますが、あのスピードではさすがの私も難しいでしょう」

 タキシードに大きなアタッシュケースを持ち歩く彼の名はキゲスト。

 そんな彼は、話をさらに続ける。

「ですがご安心を。友人を手ぶらのままにして自分が帰る訳には行きませんから」

「と、いうと?」

「奪っていった張本人ほ南西に時速500km程。ついでに見えないのは速さのせいです。まあ、魔改造したバイクなら追いつけるのではないでしょうか」

「バイクか。師匠、今の俺でも今からバイク出せる?」

 涙目の顔を上げ、ミコは進太朗の問いに答えようとする。

「え、ええ。明確な、イメージさえあれば。けど、それはかなり難しいことで……」

「明確なイメージがあればいいんだろ?キゲスト、カタログでもイラスト集でも何でもバイクが乗ってるやつも持ってない?」

「ありますよ。これはお代を頂きますがね」

「ああ。ありがとう」

「では、胸ポケットをご覧下さい」

 胸ポケットをまさぐると、折りたたまれた紙片が出てくる。

 それを開くと本となった。

 明らかに手品では説明のつかない曲芸。

「やっぱお前ただの変質者だろ」

「俺的には変態的技術と呼んでくれた方が嬉しいのですが」

 

 もう一度、胸ポケットをまさぐり白紙の表紙のようなカードを取り出す。

 考え、浮かべ、込める想いは多重露光。自分のイメージのフィルムと自分の理想のフィルムを重ね合わせ、1つのイラスト、文、物語となる。

 カードに炎が走り、タイトルとパッケージが浮かび上がる。

『エンジン×ギア』というタイトルを持つそれは、エンジンが始動するかのような鼓動を感じさせた。


「カードになったか…。まあ、完成かな?」

「ほう。やはり信じるものはなんとかなると言うやつですね。ところで免許を持っているので?」

「普通車免許なら」

「じゃあ、あとは詭弁でなんとかなるでしょう」

 カバートーターにエンジン×ギアのカードをセットする

[エンジン×ギア! レディ!]

「さあ!行こうか!追いつくぜ!」

 カバーをとっぱらい、カバーに隠れていた部分が現れる。

[タイトルオープン! shake off the engine. leady BOOST!!!!]

 システム音声ともに、バイクが創造され、赤い車体が顕現する。

 流線型の近未来感を漂わせるそのボディは、絶対に追いつくという決意の表れ。


 ノクスへと変身した進太朗は、バイク「エンジンブースター」に乗り、南西へと駆け出す。

 爆速×爆速を体現させたそれは、ただ追いつくために速さのその先を目指すのだった


______________

皆さんどうもご無沙汰しております作者です。

今回の話は新ヒロイン登場会でした。どうでしょうか。

私はすごい好みです。

ちなみに作者の都合と言うの名の怠慢により、今回は2話完結です

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