第5話 SPEED LUCK

 風を切る。速度そのものを体現したかのようなそれは、目の前の怪物を目指しただ走る。

 人の目では捉えきれないほどの回転を誇る二輪は道路を加速しながら駆け抜けていく。

「今の速度は....、本当に500kmでてるのかよ」

 バイクに跨がる赤い装甲と燃え盛るような仮面をつけたヒーロー、ノクスは500を指したメーターを見て苦笑しつつも眼前をまっすぐ見据える。

「けど、まだ追いつけないみたいだな」

 視線の端になんとかケンタウロスのような異形を捉えることはできるが、それだけである。

「振り切るぜ!」

 風からの圧が強くなる。周りの景色はすでに形などは捉えられない。

 爆速を超える加速。


 車体の色だけをその場に強く残すほどの残像を見せる二輪車は、ついに高速移動を続ける異形と並ぶ。

「やっと追いついた,,,,,!」

異形の横へとついに至り、先行せんとさらなる加速をする。異形も同じことを考えたようで、四つ足でさらに強く地面を踏み締め駆ける。

 走行よりも飛翔や滑空といったほうがいいほどの速度で風を切る。双方すでに機械や生物がしていい加速を超えた加速を繰り返し、人の目には追えぬカーチェイスを繰り広げる。皮肉にも、双方車ではないのだが。


 爆速を、音速をトップスピードで叩き出し、つににはコーナーへと差し掛かる。

 だが、彼らはスピードを緩めることなど考えもせずただ走る。

 景色を置いていき、曲がり角に差し掛かるその時。

 

 異形は空を飛び。

 ノクスは壁を駆けた。


「遠心力ってこういうことか!」

 空かける首ありデュラハンと、壁掛ける紅の二輪車。

 滑空と駆動は凌ぎを削り閃光をその場に残し走り去る。

 だが、少し、ほんの僅かに異形が速いか。最大速度で走る抜ける両者には、差がつき始めていた。

「まだ足りないってことか!?」

 雷のような空間の中を縦横無尽に駆け抜ける。上限のなく最高速を更新し続ける首ありデュラハンは、空へと駆け上がった。


 おおよそペガサスとは思えぬ見た目でペガサスのような挙動を見せるそれは、速度を下げずにノクスへと向き直る。

 そして、人の形をした胴体の腕に持っているのは一対の槍。

 雷光迸るそれのきっさきはノクスを寸分の狂いなく捉えていた。

「…!」

 超速の中、絶えず槍が繰り出される。

「無尽蔵かよっ!」

 撃たれれば、一本。もう一度撃ち込めばもう一本。そういうふうに、槍は創造されていく。無尽蔵の槍。それらをかろうじて全て避けてはいたものの、その集中力もそろそろ限界に近い。

「そういえば、誰かが。信じれば何とかなるっていってたよな!」 

 いつ聞いたかさえわからない言葉を思い出し、強く信じる。

 それは虚妄か、はたまた妄想か。

 それとも、切り札となるのか。今は、何もわからない。

 だが、進太郎は、ノクスは、切り札になることを信ずるのみ。


「飛べ!ブースト!」

[OVER BOOST!!!!!]

 紅の煌めきがついに陸を離れる。馬でも、馬車でも、飛行機でもないそれは、大型二輪車として首ありデュラハンに突っ込んでいく。

[ページソード!!!]

 車体の横にマウントされていたページガンソードを引き抜き、カードをセットする。

[《エンジン×ギア》リード!!!]

「振り切りまくるぜ!!!」

 炎を纏った刀身と、火球の如き速さを持つ二輪車が、異形へと激突する。

 

[エンジン!メクルメクスラッシュ!!]

 真っ赤に燃え煌めく刀身が、バイクの加速で上乗せされた膂力と加速によって、その刃で異形の堅い装甲に傷をつける。

 異形が保持していた無数の槍を両断し、紙袋を取り返す。

 ギィィィというタイヤ痕がつきそうなほどの激しい音と共に、タイヤを横向きにして物理的にブレーキをかけるように着地する。

 時間差で、首ありデュラハンは地上へ落下する。

「ラノベは返してもらった!」

 異形へ人差し指を突き刺し、宣言する。

「ヌッフッフ。我がスピードに追いつくとは最初から僥倖。そしてその姿、どうやらあなたがシチュ殺しの仮面…ですか」

「なんだその異名は。俺はシチュエーションをぶち壊す朴念仁じゃないぞ」

「私の名はデュルフン。姫君のピンチに駆けつける騎士というシチュエーションから生まれたものです」

「話を聞け」

 ノクスの話を聞くことなく高らかに自己紹介を始める首ありデュラハンもといデュルフン。 

 半人半馬の異形は話を一切聞くことなく、さらなる宣誓を続ける。

「我が俊足の足の元、我が元にライトノベルを集めるのです」

 見えないはずの目すら見せる眼光で、ノクスを睨め付ける。

「ですので、そのライトノベルを差し出していただきたい」

 だが、それと同じように鉄心の意思を持つ進太郎も、その程度で曲がるほどの意識など持ち合わせていない。

 要するに、彼の返答は一つ。

「断る」

「ふむ…。交渉決裂、ということですか」

「いつから交渉していたのか知らないが、そういうことだ」

 雷光迸り、一対の槍が手に現れる。清純なる青く透明な槍、迸る雷光の一線を見るものに残酷に伝える。

 速度を超えた処刑。その準備が整ったようだ。


「では、取り返しましょう」

 一閃。即座に星となって消えた、そう錯覚するほどの速度。

 塵すらもついて来させることなく。

「どこにっ」

 急激な浮遊感。攻撃された印か。

 そんな逡巡すら許されることなく、光を置いていった世界に引き込まれ、一方的な攻撃に晒され続ける。

 ライトノベルだけは死守しようと、紙袋は手放さない。

「強情なっ!この一撃で!」

 青い雷撃の一閃が、刹那に見える。

 

「見えたっ」

[メクルメクシュート!]

 紅の弾丸が撃ち出される。炎を纏うそれは、雷光の源、青く光る槍へと突き刺さる。

 浮遊を支えていた攻撃の構成が消え去ったおかげか浮遊感から急転直下の落下感へと切り替わる。

「逃しはしないっ」

 デュルフンが、雷の速さで接近する。天からの雷槌にも思える追撃は、自由落下の弊害で身動きの取れないノクスに容赦なく浴びせられる。

 獲物への印か、はたまた先攻攻撃か。つかの間に創造された槍が投げられる。瞬速と評しても何ら問題のない速さそのものは、ノクスを貫く。

「がァっ」

 装甲を容易く貫くそれは、掴み投げ飛ばそうとした瞬間に塵となり消えた。

「うっそだろ.....。ハハ。小粋なトリックじゃねえか」

「そこまで喋れる元気があるのですね。いささか見誤りましたか.....。」

 デュルフンの四肢がより大きく踏み出される。突撃の姿勢。手に持った槍をノクスへ向け、駆け出す。

「ならばこれを食らわせましょう.....。我が神速を受けよ!アンドラス・ブイ!」

 叫びにも似た技名の宣誓とともに、紫電、雷光、青雷が入り交じる靂となる。

 自由落下を続けているノクスへとまっすぐに突き刺さり、収束落下速度が際限なく大きくなる。

 自由落下は急転直下という試練とも言える現象に変わり、ついには地面へと墜落する。


 爆発と見紛うほどの大きなクレーターを作り出す。

 道路のど真ん中に作られたそれは、普段人通りの少ない場所とはいえ、到底看過できないものだった

 墜落し、衝撃とともに、クレーターから放り出されたノクスは、傷つきながらも立ち上がる。

「何がアンドラ・ブイだ。無敵の巨石の丘ってなんだよ....」

 技名にツッコミという悪態をつきながら、歩き出す。

「ほう、まだ立ち上がるとは、しかも博識」

「そりゃどうも」」

「ここでなくすには惜しい存在。どうです?取引をしましょう」

「取引?」

「ええ。その紙袋の中身を差し出せば、ここで私は引きます」

 一切視線をそらすことなく両者は語り合う。

「追加情報として教えてくれ。これを取って何をする気だ?」

「無論。その、ラノベから中核を抜き取ります」

「抜き取ったら?」

「この本だけでなく、この本のジャンルもろとも消滅します。どうやら、これはこういったジャンルをなくすことができるだけの力を持っているらしい」

 見えるはずのないノクスの眼光が鋭くなる。

「いい知らせと悪い知らせがある。どっちから聞きたい?」

「では、いい知らせから」

「いい知らせは伝えるべき情報が悪い知らせを含めて2つあるということだ」

 軽薄に、軽く、内容を伝える。言葉の裏には確かな覚悟があった。

「悪い知らせというのは?」

「その取引は却下だ。そして、2つ目は」

 静かに剣を執る。

「てめえを今からぶっ飛ばすってことだ」

 炎が巻き上がる。

「ほう。では、私の速さについて来られるか!」

 デュルフンが姿をくらます。先ほどの比ではない速さにノクスは。

「目ぇ凝らせばなんとかなる!」

 気力で対応した。

 真っ赤に燃やす銀の刀身を虚空に放ちながら、攻撃を弾き返そうとする。

 だが、神速を捉えることはできない。かのように思われた。

 だが、剣戟は少しづつ、確かに槍を受け止め、攻撃を弾く。


「まさか.....!」

「なんとかなったな、な!」

 ガキン。金属と金属がぶつかり合う音がする。姿など見えぬ刃はたしかにそこにあるように炎の刀身としのぎを削る。

 ノクスの体には、少しづつ雷電が纏われていく。

「反撃が厳しいか.....」

 剣戟が行われるは、ただ一方の防御にすぎない。

「ならば....!」

 だが、それは受け身だから。相手を超えれば。相手を抜けば。速さのその先を見れば。

 理想論は、色濃く脳内にイメージされる。

 纏う雷電は大きくなる。

「さあ、行こうか。スピードのその先に!!」

 カードは炎と雷光に包まれる。脳内の叙事詩ライトノベルがそれを依代とし、現実へ映し出される。

 《SPEED LUCK》と書かれたその表紙タイトルを掴む。


 ページガンソードを蹴り上げ、両手を自由にする。

「カードセット。行くぜ!チェンジタイトル!」

[セット!]

 カードが抜かれ、《SPEED LUCK》が装填される。

 そして、カバーが取られ、タイトルが顕になる。

[リード!《SPEED LUCK》!!FAST!GALE!SPEED!THAT IS OVER!!!]

 

 赤く燃え盛った胸の炉は、雷光灯すコアに。炎の滾る装甲は、霹靂を感じる形状に、青く輝く。

 炎と本を象る仮面は、雷光煌めく形へとなる。

 雷電、雷光、神速、爆速。速度を象徴するようなその姿は、まさに、「速度を超える姿オーバータイトル」だった。

「その文学、俺がぶっ潰す!祈りは済ませたか!」

 大地を蹴る。軽さは感じない。その代わり、確かに加速したという感覚を感じる。

 デュルフンへ追いつく。

「はぁ!」

 景色も、事象も、止まったとも錯覚させる場で、拳を繰り出す。

 拳は狂うことなくデュルフンへ突き刺さる。

 後方へふっとばされたデュルフンは、その速度でストッパーをかけようとするも。

「後ろだ!」

 すでに後方へとたどり着くノクスに切られ、前方へ戻る。

 

 雷光の残像を残し、絶え間なく連撃を食らわせる。

「その姿は....!あの攻防で手に入れたというのか!」

「さあな。だが、師匠から言われてな。イメージすればなんとかなるって!」

 デュルフンは打ち上がる。同時に、ノクスも天空へと駆け上がる。炎の軌跡は、雷光の一閃となり、敵を駆け巡る。

「これで、決める!」

[必読!]

 待機音が鳴り響く。空に残るノクスの足に、青い光が集結する。

[ライトニングゲイルバースト!!!]

 はるか天空から、片足を突き上げ、急転直下で敵へと向かう。

 それは、かかと落とし。青雷纏う右足は、デュルフンに直撃しクレーターへと刻みつけた。

 

 そのまま敵は四方爆散し、立方体が浮き上がる。

 そしてその立方体は砕けた。

[ナイスリード]

 システム音声が流れ、変身が解かれる。

 普通の青年となった進太郎の手には無傷の紙袋が握られていた

「よし!帰るか!」

 エンジンブースターを呼び出し、進太郎は駆けていくのだった。

_____________________________________

どうも、作者です。

煮込みラーメンが食べたいです。

夏とか関係ない。

ところで皆さんは赤い炎と青い炎どっちが好きでしょうか。私は赤が好きなので赤い炎が好きです。赤といえば、戦隊モノのリーダーというか、主人公に近い立ち位置の人は基本レッドですが、好きな色というのはだいたい、戦隊モノでどのカラーが好きだったかに影響されてると思うんです。

隙があれば学会に発表したですね。

それではみなさん。クソ暑い夏の中ぶっ倒れないよう頑張ってください

 

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