第3話 説明役の胡散臭さはこいつで十分わかった

 夢を見た。

 三年前くらいの、未だ心にこびりつく記憶の再現のゆ夢だ。

 城の奥の奥のさらに奥にある、固く施錠された部屋で、私は監禁されていた。その中で、儀式と称し、さまざまな道具で擬似的に純血を奪われるという辱め。そして、力の増幅と騙られた蠢く触手による凌辱。

 自らの身体を他人により別の物に変えられ、自分の体が意識とは別に達していく恐怖。

 最初こそ、「助けて」「出して」と何度も思い、救世主が現れるものだと思っていたが、そんなものすぐに喪失し、何も考えられない虚ろな状態ですべてを受け入れるしか無かった。


 それからしばらくして、私の成果を公表すると言う名目で趣味の悪い鑑賞会が始まろうとしていた。

 部屋からだされ、拘束された状態で廊下に運ばえていく。気持ち悪いほどに白く、こんな気色の悪い奴らが住む場所とは思えないほどのその廊下を進み続け、ついに大広間の扉が開け放たれる。

 

 私の裸体が屑どもにさらけ出される、その時だった。

 声が響いたのは。

「婚約により救い出せ〈ライトオブブライド〉」

 

 そこで夢は途切れ、目が覚めた。

 今でもその声は覚えているし、その後のこの世界に来て生活し始めた経緯も忘れられる筈がない。

 

 とても気分が悪い。あの人の顔を見よう。

 私が愛している、愛しいあの本屋の店員。


 過去を振り切り、私、サクモト・サキは今日も本屋へ通う。



 「ふぁぁ.....」

 なんだかんだ久方ぶりにまともに寝た気がする進太郎は、自室のベッドからのそのそと這い出る。

 窓の外の景色はすっかり眩しくなり、なんの根拠もなく良い日になりそうだと感じさせる。

 昨日の事件から1夜明け、世間はすっかり元通りとなっていた。

 燃え盛っていた道路も、亀裂の入った電柱も、全てが元通りだった。

 何かしらの不思議パワーが働いたのだろう進太郎は納得するが、やはりどこかに違和感が残る。

 それは街の住民も同じようで、皆、昨日の惨状が無かったかのようになっていたその状態に首を傾げていた。

 しかし、意外に図太い住民達は、日常が送れるならそれでいいかという思考で受けいれていた。

 それは進太郎も例外ではなかった。


「さて、今日も行きますかね」

 いつも通り、私服に着替え、勤務先の本屋へ行こうとする。今日は身体中がバキバキのため、いつも使っている自転車ではなく歩きで行くことになるだろう。

 そう思いながら身支度をしていると、唐突にチャイムがなった。

 あまり宅配などをせず、尋ねてくるような友達もヒナタくらいしかいない進太郎にとって、来客というのは不思議に思う事象の1つだった。

 なんの躊躇いもなく扉を開け、来客を迎える。

 そこに現れたのは、銀髪の美少女作家。サキだった。

「朝早くにすいません。一緒にブッコフまで行きませんか?」

 こちらの反応を待つまでもなく尋ねてきたサキに、進太郎は驚きながらも

「え?あ、うん。いいよ」

 こう答えるしかなかった。


 澄んだ青い空の下、心地よい暖かい風が、並んで歩く2人を包み込む。

「急にどうしたんだ?サキさん」

「私にさんはいりません。というかサキと呼んでください」

「わかった。で、どうしたんだ?」

 変な要求を承諾しつつ、なぜ急に訪ねてきたのかを聞く。

 いつも通りの表情を一切崩さず、彼女は答える。

「あなたと少しでもいいのでデートしたかっただけです」

「そっか」

 ド直球な返答に、進太郎は何も思うことなく、納得の返事をする。

 察しの言い方は気づいてるだろうが、彼は鈍感である。 

 人の心の機微に敏いが、自分に向けられるものに対してはとことん疎い。理由は義務教育時代の思い出や、彼に両親がいないことも由来するのだが、それらを除いて残る半分は天然ものである。


「それにしても、平和ですね」

「そうだな。俺の体はバッキバキだが」

「私が癒しましょうか?」

「マッサージは今度頼むよ」

 今から仕事だしとつぶやく。


 昨日炎上しまくっていた住宅地を二人で歩いていると、近くから子供の泣く声が聞こえる。

「ちょっと行ってくる」

「はい」

 進太郎は声のする方へ歩いてく。ちょっと歩くと、声の主が見えてきた。

 声の主である幼い男の子は、地面に座り込み泣いていた。

「どうしたんだ?」

 進太郎は男の子に近づき、屈んで目線を男の子へ合わせ尋ねる。

 5、6歳と思われるその男児は急に現れた男に少し驚きながらも、包み隠さず泣いている理由を教えてくれた。

「おじいちゃんがくれた......ぐすっ.....キーホルダー....うう.....落としちゃって.....」

「なるほどな。どれ、お兄ちゃんが一緒に探してやろう」

「うう...ぐすっ....いいの?おじちゃん」

「お兄さんだ」

「ありがとう!おじさん!」

 涙を拭い、少年は笑顔を見せる。

 おじさんと呼ばれたことは進太郎に多大な心の傷をもたらしたが、まあ良いやとなんとか持ちこたえる。


「どうしたんですか?負け犬のように這いつくばって」

 探し始めて少しすると、サキが様子を見に来た。

「言い方....。いや、この少年がキーホルダーをなくしたというから探してる最中なんだ。」

 だから仕事に遅れるかも。とは進太郎の言葉。

 しかし、どこを探しても見つからない。少年の談でヒーロー番組の主役ヒーローのアクリルキーホルダーだという。進太郎も視聴していたので、それが何なのかはよく知っているし、少年とも打ち解けることができた。

 だが、肝心のキーホルダーは、なかなか見つからない。割と大きめなものではあるが、この広い道と相対的にみると小さいだろう。

 探すのは困難を極める。


 シャン。

 不意に鈴がなった。日本のようなチリンという音ではなく、西洋のシャンシャンといった鈴の音。

 それのすぐ後に声がした

「君たちが探してるのは、これかな?」

 探しものだったキーホルダーをもった金髪の好青年がそこには立っていた。


「あなたは....!」

「しーっ」

 サキが反応するのを、ウインクしながら口に人差し指をたて静止する。

「おお。それだ。ありがとうございます。しかしそれはどこで?」

 進太郎もいきなり現れた青年に驚きつつも感謝を伝える。

「なに。君たちが何かを探していから僕もめぼしいものを少し探ってみただけさ」

「ありがとう!お兄ちゃん!。手伝ってくれたおじさんも!」

「どういたしまして」

「もう落とすんじゃないぞ」

 素直に青年に対してお兄ちゃんと呼んだことに進太郎はかすかな哀しみを少年を見送る。

 そして、そこにいるのがあたり前のように立っている青年に話しかける。

「どうしたんですか?」

 どうして帰らないのか。という問いを含めた投げかけに対して、彼はニコニコしながら答える

「どうしたもなにも、僕は君に用があるからここにいるんだ」

「そ、そうですか」

「おっと、自己紹介がまだだったね。僕の名前はシャル。シャル・レグラット。色々あって異世界から来たんだ。」

「......え?」

 大事なことに気がついたというような表情をして、自己紹介をはじめる青年、改シャディ。当然のようにスラスラと語られる紹介の中に、看過できないものがあった。

「異世界?」

「ああ。そうだとも、異世界。君たちが想像するような世界だよ。魔法や精霊がいて、その世界特有の物理法則によって平和を謳歌している異世界さ」

「な、なるほど?」

 非現実的な説明を前にして、何とか理解しようと脳をフル回転させる。

 とりあえずは、そういうものだとして理解しておいた。

「まあ、君たちが昨日遭遇した特殊なことの一環だと思ってもらえればいい」

「……!お前まさか……!」

 その一言に臨戦状態となり、担いでいた黒い布に包まれた棒に手を伸ばす。

 もし、ラノベを消し、人の好みを奪い押し付ける奴らなんだとするならば絶対に許さないという確固たる意思を滲ませ、睨む。

「ああ、すまない。そういう意味じゃない。それに僕はあいつらじゃないしなんなら君たちの味方側だ」 

「そう、か。けど、味方って……」

 彼は微笑みながら答える

「どんな物語にも、「説明訳」は必要だろう?」


「さて、ここから先は歩きながら話そう。君のそのブレスと、刀についての話だ」

 シャディと進太郎、そしてサキはまた歩き出す。

「サキ。さっきから浮かない顔だけど、どうしたんだ?」

 暗い顔をして俯いているサキ。

「い、いえ。なんでもありません」

 いつものようになんの臆面もなく口に出す、進太郎へのアピールも、今は一切顔を見せない。

 それについては進太郎の鈍感さが幸いしたか、気づくことはなかった。

「それで話というのは、君のその力のことさ」

「これ?」

「そう」

 カバートーターの装着されていた腕を見上げる。今も非現実的な体験だとは思うが、記憶には現実の記録して焼きついている。

 何度も死にかけたあの日の経験は、これからきっと役に立つだろう。それこそ就職とかで。

 そう思いながら進太郎は苦笑する。

「まあ、その前にあいつらについて説明をしておこう」

 あいつら。堂々とラノベを潰すと宣言した許されざる敵。

(あいつら……?)

「奴らの名はアーク出版。色々な要因が混ざり合い出来た怪人。そして、彼らの推し進める文学を押し付け侵略し、最終的には破壊する奴らだ」

「要するに、ラノベの代わりにその文学を流行らせて地球を支配しようとしているってこと?」

「そうだね。だいたいあってるよ。文化の侵攻というのは支配をする際にはもってこいだ。なにせ、象徴や感覚が重要になる異能力において文化という形のない成果というのは格好の餌だ」

 家の合間の道を歩く。歩いているうちに景色は所々に店が見え始める。

「異能力?魔法じゃないのか?」

「ああ。そうだとも。彼の力は異能力。魔法とは根本から違う。」

 魔法は物理現象を違う物理現象で塗り替えるような代物だが、異能力は現象、法則そのものを無視する。新たな現象を作り出すようなもの。シャルはそう語る。

「ついでに言えば、君が戦った昨日の怪人は、生物じゃない」

「どういうことだ?」

「概念、象徴、感覚。簡単に言えばシュチュエーションってやつだろうかな。それを異能力を使い、現実へと投射し、動かしているだけ。要するに、概念の皮を被った空っぽの虚像。「ブックレイ」」

「ブックレイ……。、ということは、アーク出版?ってやつの社長が作り出してるのか?」

「理解が早いね。その通りだ。アーク出版の社長がシュチュエーションを実体化するためのキューブをばら撒いてる。」

 そう言って掌に小さな立方体を乗せて見せるシャル。半透明の灰色でそれ以外の要素を一切感じさせない。

「このキューブ「レダキューブ」は勝手にシュチュエーションを読み取り、虚無それをもとに実体化するのさ。君が昨日戦った敵もそうだ。」

「なるほど」


 そう話してるうちに、ブッコフへと到着する一行。

「それじゃ。俺は仕事だから」

「ああ。多分近いうちに会うだろう。それじゃあ」

 踵を交わし、店の中へ入っていく進太郎。

 それを残された二人は見届ける。

「シャル。あなたに話したいことが」

「.......ああ。もちろんだ」



 店の近くの路地裏。暗くなにか陰湿な事件や素敵なハプニングが起きそうな雰囲気を同時に孕んだそこで、一見兄妹のようにも思える男女が話していた

 言うまでもなく、サキとシャルである

「どうしてあなたがここに.....。まさか私を連れ戻そうと」

 彼女がそう言いかけると、青年は大きく頭を下げた。

「すまなかった。君の身に起きた一連の出来事はすべて暴走を止められなかった僕の責任だ」

 貴族たちの独断だけで行われた、趣味の悪い「儀式」という名を使っただけの見世物だったもの。現在はいろいろあってそのようなことは行われていないが、被害者となったサキの心には未だ影を落とし続ける要因の一つだった。


「.......じゃあ、罪滅ぼしということですか?ここに来たのは」

 シャルは苦虫を噛み潰したかのような表情で質問に答える。

「それもある。だが、一番はここ、君がいるこの世界を滅亡へと導かせないためだ。」

 深刻で、苦悩と後悔が心に深く染み付いた顔で彼はそう告げる。

「そう、でしたか。その答えが聞けて安心しました」

 相変わらずの無表情だが、少し柔和になった声で、サキは話す。

「なので、顔を上げてください」

「.....ありがとう」


「いや、一切悪意はないんだけど、もし、絶対に身の安全が保証されてひっそりと誰にも邪魔されず生きていけるとしたら、君は帰るかい?」

 その発言は、少し前、そう、彼女の想い人と出会う前だったらまた彼女の表情は曇ったかも知れない。

 だが、今は

「いえ。私はここで共に過ごしたい人がいるのです」

 少しの微笑みを顔に浮かべ、即答するのだった。



 所変わって進太郎サイド。

 彼は今、絶賛困惑していた。

 店の裏で、男に名刺を差し出されていたのだ。その男は金髪の左右の目が違う、いわゆるオッドアイというやつで、顔もかなり整っている。悔しいが、自分じゃ太刀打ちできそうもない。進太郎はそう思った。

「すいません。急な登場となりまして。私の名はキゲスト・カイヌス。マジシャンであり」

 深く低く、しかしどこかに少年のような青年のようなあどけなさを残すその声は、軽々しくも華麗に自己紹介を行う

「怪盗でございます」


「怪盗?」

 今日は色んな人に出会うなあと、少し線を引いたところから何故か自分を客観視している自分と、今ここで頭を悩ませている自分が同時にいることに不思議な感覚を覚えつつ、進太郎は問い返す。

「ええ。怪盗。もしくは泥棒でしょうか。アルセーヌ・ルパンなどのそれと同義ですね」

 快晴の空のもと、影のある部分にいるおかげか、春にしては涼しい風が通り抜ける。

「その怪盗が、なんの用なんだ?」

「ただのあいさつですよ。客として、ではなく友達としてのね。」

「友達?」

「ええ。私は君と友達になりたい。だからこそ、ファーストコンタクトは大事だと思いましてね。まあ、あれですよ。以後お見知りおきをってやつです」

 華麗に、スマートに帽子を取りお辞儀をする。

 そうして、コインを取り出しこう言った。


「では、一つ手品を」

 彼はそう言ってコインを指で弾き、宙へ羽ばたかせる。最高高度に到達し、有頂天のまま太陽に照らされ光る金色のコイン。

 どの国の硬貨でもないそれは、なんの抵抗もなく吸い込まれるようにギゲストの手のひらへ落ちていく。

「どうやら成功したようです。ポケットのそれはささやかなる私からの贈り物です」

 進太郎がポケットを探ってみると、そこから一枚のカードが出てきた。一台のバイクとハードボイルドな青年のイラストが描かれたそれは、なにかの本であると予見させる。

 そしてそれは、さっきまでそこには絶対になかったもの。

「え?さっきまではなかったはず......」

「言ったでしょう。私はマジシャンだと。それでは、また会いましょう」

 そう言って、ギゲストは消えていった。

「一体何だったんだ.....?あれは」

 そう言いながらも、進太郎の心にはあまり、不快感は残っていなかった。


_____________________________________

皆さん如何お過ごしでしょうか。

作者です。

クソ熱くなってきてだんだん皆さんの夏はクソメーターが限界値を迎えてくる頃でしょう。かく言う私もそうです。

話は変わりますが、今回の話は戦闘なしのほのぼの回でしたね。というか説明回ですね。個人的には胡散臭い説明役好きです。なんかおもろい。何しても様になる。


というわけでみなさんも夏はクソメーターに勇気をともしてがんばってください。

作者はもう無理です。

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