第二章 猫

 彼が死ぬのを見ることになるとは思っていなかった。猫の方が寿命が短いから、自分が先に死ぬものだと勝手に思っていた。しかし、人間の世界ではよくあることだ。

 彼は詐欺師であった。金に困っていたわけではない。常習的なものである。

 彼は無駄に金を欲しがった。とても強欲であった。しかし、それを何かに使いはしなかった。私はそれが不思議だった。もしも私が人間だったのなら使ってやるのに、と思っていた。


 彼は銃で撃たれて死んだ。詐欺師なのがバレたことに焦って、持っていたナイフを振り回して暴れたところ、危険とみなされて撃たれた。

 彼は家の窓の鍵を掛け忘れていた。私は家に居てもすることはない。珍しく外に出られるのだから、彼に着いていこうと思った。

 しかし、彼が死ぬとは。

 私は家に戻るべきだろうか。戻れば、暫くは人間に生かしてもらえるだろう。だが、人間は時にひどく残虐になる。彼を殺したように。それだけは不安だ。私は人間には殺されたくない。

 私は家には帰らないことにした。となると、飯を得なければいけない。恐らく、美味い飯は無い。それは仕方のないことだ。

 私は取り敢えずゴミ捨て場を探すことにした。食えるものがある場所はそこしか思いつかなかった。

 ようやく見つけたそこには大したものは無かったが、死なないだけはあった。ここで生きていこうかと思っていたところに、一匹、猫が現れた。

 そこで「縄張り」という言葉を思い出した。なにやらニャーニャー言っているが、あまり他の猫と話してこなかった私はそれが何か分からなかった。

 ソイツはいきなり襲いかかって来た。反応が遅れた。

 恐ろしかった。

 パンチを一発食らって、私は逃げた。

 彼が死んだとき私は彼を愚かだと思ったが、私も愚かであるということが分かった。

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詐欺師と猫 うおさとかべきち @swanK1729

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