詐欺師と猫

うおさとかべきち

第一章 詐欺師

 ベッドで目を覚ましたとき、喉が痛かった。起きあがろうとすると、全身がひどくだるかった。今日は仕事を休むべきだと思った。俺は電話を手に取った。

「もしもし」

「もしもし。ああ、エイジかい」

俺の名前はエイジではない。俺は彼女の息子のふりをしている。

「今日なんだけど、友達から風邪ひいちゃって行けないって連絡がきて、日にちを変えたいんだけれど」

「え? 今日じゃないといかんよ。私も忙しいんだから」

俺はどうしようかと考えていた。しかし、どうするか決める前に彼女がこう言った。

「あんたが来ればいいじゃない。あんた暇でしょ」

俺は迷った。しかし、起きたときよりも回復しているような気がしたから、行くことにした。

「分かった、俺が行くよ。時間は同じで」


 失敗に気が付いたのは、全てが手遅れになってしまった後だった。息子じゃなくて知らない奴が来たらそりゃあバレる。しかも、朝の電話の時点で分かっていたらしい。声がおかしかったのが理由であるのは、言うまでもない。

 とにかく、警察に囲まれて、警察にそんな話をされて、俺はひどく焦っていた。しかし、風邪のせいで頭が働かない。

 俺は、何かないかと鞄に手を入れた。ナイフが入っていた。そうだ、いつも入れているんだった。でも、どうする。

 警察はもう待ってくれない。

 俺はやけくそになって、そのナイフを振り回した。警察はそれを避けて、俺から離れた。

 俺は逃げることしか考えていなかった。振り回す手は止めないまま、周りを見た。

 銃口がこちらを向いていた。

 嘘だろ。

 引き金が動いた。

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