第11話 ラーメンと最後の質問

スープをすする音だけが、静かな地下の厨房に響いていた。




 澄んだ鶏ガラスープに、細いちぢれ麺。トッピングは味玉、メンマ、刻みネギ、そして厚切りのチャーシュー。




 「……ちゃんと、ラーメンだな。俺がつくったって信じられないくらい」




 湯気の向こう、AIミレイが淡々と告げる。




 《本日は全記録者の安定状態確認済み。異常なし》




 「……だったらさ」




 アキラはつぶやくように言った。




 「俺がここに一人でいる意味って、なんだったんだろうな」




 かつて、管理者は7人いた。




 食事を作る者、医療を担う者、電力を保つ者。


 だが今や、アキラただ一人。


 他の管理者から投げかけられた質問。


 だがアキラや残っていた者達は明確な答えを与えないまま管理者は一人、また一人と


 眠りについていった。




 そして唯一残された彼も、長い年月を経てなお同じ疑問に直面していた




 「この夢の世界を守ることに、本当に意味があるのか?」




 スープをひとくち。


 熱が舌を刺し、次の瞬間、深い旨味が静かに広がる。




 これは、誰かの命をつないでいる味だ。


 誰かがまた、生きていたいと思える味だ。




 夢の世界では、一人の少女が空を見上げていた。


 小さな屋台のラーメン屋。


 そこで、彼女は何度も一杯のラーメンを食べていた。




 それが現実では食べられなかった、「父が作ってくれるはずだったラーメン」だったことを、彼女は思い出す。




 「いつか……いつか食べようねって言ってたのに。もう、それは叶わないと思ってた」




 けれど夢の中で、その願いは叶った。


 ただ一杯のラーメンが、彼女の時間を、記憶を、救った。




 「――そうか。俺がここにいた意味は、もうずっと……」




 アキラはまた一口すすった。


 熱い。けれど、涙よりもずっと優しい。




 《記録者全体の安定率上昇。精神同期レベル、過去最高値を記録》




 ミレイの声が遠くに聞こえる。




 アキラは、ようやく問いの答えを見つけた。




 「俺が作っていたのは、料理じゃない。……生きる理由だったんだな」




 厨房の照明が少しだけ暗くなる。


 次の準備が始まっている合図だ。




 AIネットワークの奥深くで、ある決定がなされた。




 《管理者アキラの転送プログラム、最終段階へ移行》

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