第43話 謎の解明
まず、第一の条件として光の魔力があれば通れるのはわかりきっている事だ。
「私なら聖結界の中に戻れますね。このままヘイヴルを聖結界の外に置いていくということも……」
「させないからね!?」
ヘイヴルが私を聖結界から引き剥がした。
……もしかして。
「ヘイヴル、手を貸してくれませんか?」
「手を? まあ良いけれど、聖結界の中に戻らないでね?」
「戻りませんよ。少し試すだけです」
ヘイヴルの左手を握ってそのまま聖結界に向かう。
なんならヘイヴルも引きずる。
「マリーヴィア! 待って! どうして聖結界の中に行こうとするんだい!? 戻る必要はないだろう!?」
「少し試すだけです。……なるほど」
「……僕も聖結界の中に戻れた?」
「ではこのまま外に出ましょう」
「わかったけど……」
ヘイヴルは引きずらなくとも私に従ってくれたようで一緒に聖結界の外に出る事ができた。
「……聖女との接触か、光の魔力を持つ者と接触していれば聖結界の中に問題なく入れるというわけですか。だからヘイヴルは聖結界に弾かれることなく私と共に聖結界に入れたのですね」
「マリーヴィアにしがみついていて良かったよ……。これで僕達は一緒にいられるというわけだね! 聖結界の中での事なら他の聖女の騎士に後を託したから安心して欲しいな!」
「……ヘイヴル、あなたは聖女の筆頭騎士でしょう。食料の管理や金銭の管理はどうしたのですか?」
まずそこが疑問だ。
まさか全部こっちに持ってきたなんて事は……。
「半分にしたよ? 魔物貨幣がこっちで使えるかはわからないけれど、とりあえず食料も金銭も半分にしてヨルペルサスに預けたよ」
「……半分は取りすぎなのではないでしょうか?」
「これから色々な物が食べられなくなる可能性もあるからね。麺屋聖のラーメン、ひじりうどんのうどん、パスタ・ヒジリのパスタ……」
「考えなかった事を考えさせるのは止めてください!」
ホームシックになるような事を考えさせないで欲しい。
自分はあれや米があったから普通にヘンデルヴァニア王国で生きていられたわけで、これからの食事はそれらの物は確実に食べられないからパスタ・ヒジリで食料をたくさん買ったというのに!
……最悪の場合、こっそり聖結界の中に戻ってそれだけ食べて聖結界の外に戻る事はできるけれども。
ヘイヴルがついてきてしまったことによりこの予定も無くなってしまった。
「やっぱりキミも食べたいじゃないか。早速麺屋聖のラーメン缶を食べるかい?」
「そんな事をしたらもったいないですよ! おなかが空いているのは事実ですが……」
さっきまでヒジリ・パスタで普通盛りのパスタを4皿も食べた身で言うべき事ではないけれど、魔力が不足しているのかなんとなく飢餓感がある。
……ここは米を、とは思うけれどしばらく食べれないとなると我慢しかないでしょう。
新天地に慣れるため、魔物の肉を……。
食べるしか、ない。
辛くても、苦くても、渋くても、酸っぱくても魔物の肉を食べるしかないのだ。
「……そういう物はどうしても食べたくなった時に取っておいて、魔物の肉を食べましょうか」
「おっと、良いのかい? 結構クセが有ると思うけれど」
「仕方ないですが、そうするしかないのです。新天地での生活に慣れないといけません」
「そうだね。魔物の肉を狩れる場所を見つければキミと暮らせそうだね?」
「……ここで暮らすわけではないですよ? 悪しき魔族を殺し、ヘンデルヴァニア王国の聖結界が無くなってしまったとしても人々が魔族に脅かされない、そのような世界を作らなければならないのです」
……どうしてヘイヴルはここで暮らそうとしているのかしら?
私は悪しき魔族を狩るために聖結界の外に出るのだ。
その邪魔をされる訳にはいかない。
「……あれ、本気で言っていたのかい?」
「そうですよ?」
「……もし、聖結界の外の魔族が倒せないものだったらどうするんだい?」
「その時は潔く死ぬだけです」
戦いというものは弱ければ死ぬだけだ。
現に私は聖結界の外の魔族の強さというものを知らない。
もしかすると強すぎる魔族ばかりが存在しているのかもしれないし、そうでもないのかもしれない。
……それに、あの輸血を無理やりしてきた丈夫な魔族が言っていたお母様という存在も気になる。
聖結界の外の世界は案外厄介な事になっているのではないのだろうか?
「……それは良くないよ。マリーヴィア」
「ですが戦いというものは弱ければ死ぬ。当たり前の事ですよ」
「マリーヴィアにはもっと平和な暮らしをするべきなんだ。何も聖女としての役割にこだわる必要はないだろう?」
「聖女としての役割ではありません。私自身で決めました」
悪しき魔族を殺しに旅に出る事はシオミセイラが召喚された時点で決めていた事だし、計画自体はもっと前から考えていた事だ。
ヘイヴルであってもそれを邪魔される訳にはいかない。
「それに私は無理やり蘇らされた命ですから。私の命の使い道は私が決めます」
「……蘇らされたって、キミが戦っていた魔族が言っていた事かい? あれは適当な嘘ではない、と」
「そうです。確かに私には鈴木真理亜という日本人として生きた記憶があります。この話は、死んでも話すつもりはなかったのですが」
「つまりセイラ様と同じ世界から来たということかい? でもキミはマリーヴィア、だよね?」
「今回の私自身はマリーヴィア=フォン=アストヴァルテとして生まれました。その事に関しては代わりはありませんが、あの魔族が言っていた事が全て真実とするのなら、だいぶ複雑なんですよね」
第一にメイドの子である事はわかっているけれど、父親は一体誰なのだろうか?
もし、アストヴァルテ伯爵家とは一切血の繋がりのない人間だった場合、アストヴァルテ伯爵家がよろしくない事をしているわけで。
いえ、この辺りの事を考えるのは止めましょう。
もう私はただのマリーヴィアでしかないのだから。
「確かにそうだけれど、君が全てを信じる必要はないだろう。あの魔族が言っていた事を確かめるにはアストヴァルテ伯爵家に行く必要があるけれど……」
「ヘイヴル、その必要はありません。私はアストヴァルテ伯爵家に行って真実を確かめに行くつもりはありません。私は私です」
「それなら良いんだ。それにしても、本当に魔族を倒す旅をするのかい?」
「そのつもりです。魔族の中には聖結界の中に入り、ヘンデルヴァニア王国で悪さをしている者がいました。そのような事態を避けるためです」
魔族はきっと厄介な技術を持っているのでしょう。
でもこちらはこちらで光の魔力がある。
これを活かさない手はない。
魔族に有効だという事はわかっているのだから。
「……キミは昔の事を気にしすぎているよ。何も命を懸けてでもそのような事をする必要はないじゃないか」
「いいえ、命を懸ける訳ではありません。やりたいからやるのです」
「キミの意思は固いみたいだね。今日はもう遅いから休もうか」
「……そうですね。辺りも暗くなってきました。その点は聖結界と同じみたいですね」
「? 同じだろう?」
「違う事もありえるかと考えていたので気にしないでください。寝床の建築はどうしますか?」
「僕がやるよ。マリーヴィアはここから離れないでくれよ?」
「わかっています。さすがに全く知らない土地を無理して飛ぶ程の魔力はありませんから」
ヘイヴルに寝床となる場所の建築は任せ、私は魔物が来ないかの見張りをする事にした。
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