第44話 新たな旅の始まり

 ヘイヴルの寝床建築が終わった。

 いつもの豆腐建築だろうけれど、どういうわけか狭い。

 2人だからこのくらいの大きさで良いとは思うけれど、なんだか釈然としない。


「マリーヴィア、終わったよ」

「……ヘイヴル、この豆腐建築はいつもの物と比べてだいぶ小さいようですが」

「これからは2人でやっていくからね。このくらいの狭さで問題ないだろう?」

「それは、そうですね」

「まあ、入ってみなよ。中は大して変わっていないからさ」


 ヘイヴルに言われるまま、中に入ってみることにした。









 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇









 照明はいつもの物だけれど、なにかおかしいものが奥にあるような。

 これって……。


「なぜベッドがこのような場所にあるのでしょうか?」


 寝袋があるのにベッドで寝なければならない理由はないはず。

 大きいけれど1つしかないし……。


「しばらく人里が見つからない可能性も十分あるからね。その間はゆっくり休める場所が必要だろう?」

「寝袋でも十分休めるかと思いますが……」

「まあまあ、ここはベッドで眠ろうよ」

「ヘイヴルが寝てください。私は寝袋で十分です」

「いやいやいやいや、マリーヴィアと僕のために用意したベッドだからね」

「……ヘイヴルの求婚は断ったはずですが」


 さすがに交際をしていない男女が同衾というのはよろしくない。

 ヘイヴルの求婚は断ったはずだから私とヘイヴルが一緒に寝る必要もないのだ。


「わかってるよマリーヴィア。でもキミのために用意したんだ。キミには休息が必要だと思ったから作ったんだけど、余計なお世話だったかな?」

「ですが、一緒に眠るわけには……」

「僕の事を意識してくれてるの?」

「いえ、違います」

「即答……。マリーヴィアの小ささなら僕との間隔を開けて眠れると思うから寝ても大丈夫だと思うよ」


 ……体格差は確かにあるわけだけれど、まあ私は小学生みたいな物だから問題ないのかもしれない。

 私が妙に意識しているのもありそうだから気にしないでいよう。


「そうですか。ですが寝る前に食事を摂った方が良さそうですね。魔物は狩れていませんが……」

「ここは缶詰を開けるかい? それとも……」

「魔物の乾燥肉を食べましょう。今贅沢をする訳には行きません」

「実際は?」

「贅沢は良くないです!」

「声が震えているけれど……」


 今残っている魔物の乾燥肉はおいしくない物しか残っていない。

 それはわかっている。

 だけど今、麺屋聖のラーメン缶詰やひじりうどんのうどん缶詰やパスタ・ヒジリのパスタに手を出すわけにはいかない。

 それに早々と手を出して缶詰が尽きた時にあの味が恋しくなった時にどうしたら良いのだ。

 どちらにしろ全部無くなるのはわかっているけれど、苦しむのなら後の方が良い。


「本当に魔物の乾燥肉で良いんだね?」

「はい、覚悟はできています!」

「それじゃあ、出そうか。……後悔はしないでね」

「それはもちろんです」


 私は意を決して残り物の乾燥肉に手を付けることにした。

 果たしてどんな味が待ち受けているのかしら?

 少し恐ろしいけれど、食べるしかないのよね。









 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇









 こ、これは……。


「に、臭います。どうして、草原の悪いところを煮詰めたような臭いが……」

「あっ、これは食べられる味だね。マリーヴィア、僕の肉に変えるかい?」

「いえ、一気に食べてしまったので……」


 吐き出したがる口を抑え、なんとかえぐみのある臭いがある肉を咀嚼する。

 さすがにこの肉の塊を吐き出してヘイヴルに食べさせるのは気が引ける、というよりもそれを食べようとするヘイヴルはおかしい。

 それにヘイヴルの食べられる味というのも信用できないのよね。

 彼は激辛パスタを平然として食べる人間だ。

 もし、彼が食べている乾燥肉が激辛の物だったら私は吐き出してしまうでしょう。

 それはなんとしてでも避けなければ……。


「それは残念。まあ、マリーヴィアの苦手そうな味だから仕方ないか」


 やっぱり……。









 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇









 魔物の乾燥肉でおなかを誤魔化し、体を水の魔力で洗って寝る準備をする。

 ……どういうわけかベッドにヘイヴルが陣取っているわけだけれど。


「どうしたんだい?」

「ヘイヴル、どうしてベッドの中央を陣取っているのでしょうか?」

「気になるならすぐに退くよ?」


 そう言いながらヘイヴルは左にズレる。このくらいなら私も枕に頭を置けるでしょう。

 靴を脱いでベッドの上に移動する。

 ……どういうわけかマットレスもしっかりしているのね。

 どういう仕組みで持ち運びを……?

 圧縮鞄に入れるにしてはとても大きすぎるけれど、さすがに作るのは不可能でしょう。

 じゃあ、このベッドの製作者は一体誰なのかしら?


「マリーヴィア? 難しい事を考えるような顔をしてどうしたんだい?」

「いえ、どうしてベッドがここにあるかと思いまして……」

「持っていただけだよ? 昔買ったベッドがあった事を思い出したから出してみた、というわけだけれど納得できたかな?」

「……そういうわけですか」


 昔のベッドを持っていた、と。

 その割には大きすぎるような気がしなくもないのだけれど……。

 そんな事は気にしないで休みましょう。

 私はベッドに体を倒して目を閉じる。


 どういうわけか、ヘイヴルが近づいてくるけれど、気にせずに休みましょう。









 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇









 体に何かが巻き付いているような感覚で目が覚める。

 目を開けて体に巻き付いている物を確認するとおなかにヘイヴルの腕が巻き付いていた。

 抱き枕にされていたということかしら?

 とりあえず、離れましょうか。


「マリーヴィア、僕から離れるつもりかい?」

「朝ですよ。起きなくてどうするのですか?」

「そうだけどさぁ……」


 ヘイヴルはいつも朝こんな感じなのかしら?

 いつにも増してしっかりしていないような……。


「今日は聖結界の外の世界をしっかり見て回りますよ。準備をしてください」

「え〜……」


 嫌だとでも言わんばかりにヘイヴルの腕の拘束が強くなる。

 そんなに抑えられると内臓が出てきてしまいそうなのだけれど……。

 埒が明かないので身体強化の魔術をかけてヘイヴルの腕を外す事にした。


「酷いじゃないか〜。なんでそんな事をするんだい?」

「早く朝の支度をするためですよ。ヘイヴルもしっかりしてください」

「……そうだけどさ〜」


 ヘイヴルはなんとか身を起こしてくれたようだ。

 これで朝の準備ができる。









 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇









 朝の支度を済ませ、外に出る。


「マリーヴィア、空が綺麗だね」

「そうですね。聖結界の中だと朝の空は少し白っぽい青ですが、ここだと鮮やかな色ですね」


 空の色の違いは聖結界による物だと思う。

 聖結界は光の魔力によってできているものだから中にいると少し空が白っぽく見えている、というのが私の仮説だ。


 ──それはさておき。


「さて、ヘイヴル。行きましょうか」

「そうだね。危なかったらすぐに聖結界の中に戻るよ」

「そこまで危ない場所ではないでしょう。まずは空を飛んで人里を探しますか?」

「そうだね。それで良いと思うけれど、僕がマリーヴィアに捕まって移動する事になるけれど大丈夫かい?」

「はい、大丈夫です。身体強化の魔術があるので」

「そうか。それじゃあ大丈夫かい?」


 ヘイヴルが正面から私に抱きつく形になる。

 背中の部分は塞がれていないから問題はない。


「それでは行きますよ! セイクリッド・ウイング!」


 私は背中から翼を生やし、空を飛んだ。


 ──これで、私のやりたいことができる。


 行こう!

 新天地へ!

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私をハブで良くないですか!?〜JK聖女がいれば私は不要ですよねっ!?〜 アルカロイ・ドーフ @alkaloy_dofu

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