第33話 聖結界に魔力を込めて

「聖女様! お待ちしておりました! 聖堂はこちらです!」


 モリスの町に着くとすぐに、私達は歓迎された。

 数日も前から私達、というよりもシオミセイラを迎えるためにエスタコアトル伯爵、ダルシッソ=イエケー=エスタコアトル様が首を長くして待っていたようだ。

 エスタコアトル伯爵には今回も迷惑をかけることになりそうだけれど、今回は1回で済むでしょう。


「あの〜、この人誰ですか?」

「聖女様、失礼しました。わたくしはダルシッソ=イエケー=エスタコアトルと申します。この度の巡礼の旅でこのエスタコアトル伯爵領にて聖女様方が滞在する屋敷を用意させていただいています!」

「……えーと、要は宿泊場所を提供してくれるってこと?」

「そうです! ですがまずは聖結界に魔力をお込めください! 我が領も魔物に荒らされ騎士達はその後始末に追われています。どうか一刻も早く聖結界に魔力をお願いします!」

「わかったけど……」


 シオミセイラが私の方に近づいてくる。


「あの〜、マリーヴィア先輩。聖結界に魔力を込める方法を……」

「そちらに関しては教えます。ですのでご心配なく」

「じゃあ大丈夫ですね!」

「そうですか! でしたら聖堂の方へ!」


 エスタコアトル伯爵は強引に私達を聖堂の方へ案内する。

 私達はそれに従う事にした。









 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇









 聖堂の中には私を含めた歴代の聖女の像が建っている。

 聖女の像は巡礼の旅の時に初めてその地を訪れた時に作られるので、シオミセイラの像も作られる事になりそうね。


「あれ? この像、マリーヴィア先輩のですか!? 他の像と比べて小さくて可愛いですね〜!」

「こちらはマリーヴィア様も含めた歴代の聖女様を祀るために作られた像になります。セイラ様の像も明日、お作りします」

「じゃあ、あたしはマリーヴィア先輩の隣に置いてね! ……ところであたしの像ってすぐできるの?」

「はい、土の魔力を使えばすぐにできます!」

「なら大丈夫だね。じゃあ、早速聖結界に魔力を込めるとしますか〜」


 シオミセイラは乗り気になってくれたようだ。

 後はシオミセイラが聖女としての力を立派に発揮できるとわかったのなら、魔物との戦いで聖女の騎士達に光の加護をかけたり、治療魔術をかけたりする方法を教えれば、彼女1人でも問題なくなるわね。


 ──私がいらなくなる日が近い。


 ……ややこしい人間関係が私を中心にできかけてはいるけれど、今のままでは戦力にならない以上は役立たずは取り除くべきでしょう。


 考え事は程々にして、私はシオミセイラと共に聖結界に魔力を込めるための魔石の方へ近づくことにした。


「……あの、マリーヴィア様はどうしてセイラ様と?」

「シオミセイラ様は初めて聖結界に魔力を込めるのでそれを見守るためです。エスタコアトル伯爵、よろしいでしょうか?」

「でしたら構いません。くれぐれも貴女が魔力を込める事はないように。倒れられたら心配ですので……」

「……マリーヴィア先輩が倒れるんですか?」

「いえ、今は関係ない話です。行きましょう、シオミセイラ様」


 気を散らせるような話は今聞かせるべきではない。

 私はシオミセイラを魔石に導くため、前を歩いた。









 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇









 ……魔石の色がだいぶ暗い。

 これは巡礼の旅を急がなければ。


 聖女召喚の儀のあれそれで私の巡礼の旅が中断されてしまった影響で、聖結界の魔力がだいぶ減っている。

 私が聖結界に魔力を十分込められる聖女だったら無謀な行軍ができたのだけれど……、後悔しても遅いわね。

 今はシオミセイラに魔石への魔力の込め方を教えましょう。


「……あの、マリーヴィア先輩。このデカい灰色の石に魔力を込めれば良いんですよね?」

「そうなります。まずは私が例をお見せしますね」

「はい、お願いします」


 シオミセイラが素直に答えるのに合わせて私は聖結界の魔石に触れる。

 少し頭が痛くなってきたけれど、これは仕方のないことだ。

 聖結界の魔石は光の魔力を吸い取る構造をしており、触れただけでも魔力を思いっきり吸い取ってくる。

 でもそれだと遅いので、私がよくやる魔力の込め方を教えよう。


「あっ、デカい石が少し白くなりましたね!」

「このように、魔石に触れていただくだけでも魔石に魔力が溜まります。ただそれだけではなく、杖に魔力を込めるようにすると……」


 私は意を決して魔石に魔力を込める。

 多分この後が大変な事になるとは思うけれど、いつもの事だ。


「デカい石が輝いています! 凄いですね!」

「……では、シオミセイラ様、やってみてください」

「光が収まっちゃいましたね……」


 ……頭が鈍器で殴られたかのように痛くて、体全体が冷たい汗に塗れて寒い。

 正直立っているだけでもやっとだけれど、シオミセイラが聖結界の魔石に魔力を込められるかだけは見届けなければ。


「えーっと、魔石に触れる……。うわっ、なんなんですか!? 掃除機みたいですよ!?」

「そのまま魔力を込めてみてください、色々と変わるかと思います」

「わかりました! 負けて、たまるか〜〜!!!」


 シオミセイラは思いっきり魔力を込めたのか、辺りが白い光で満たされる。

 目を開けるのでもやっとなくらい目に痛い光だ。


「……! マリーヴィア!」


 ……体が限界で座り込んでしまった。

 でも大丈夫、まだ意識は保てているから今回は問題ないはず。


 光が収まったので視界が正常になる。

 大丈夫、視界はぐにゃぐにゃしていない。


「……マリーヴィア先輩? どうしたんですか?」

「シオミ、セイラ様……。これで、聖結界に魔力を、込める事が……、できましたね。……後は」

「マリーヴィア先輩!? 無理しないでください! 何が起こって……?」

「これは、いつもの……、ことなので気にせず……」

「セイラ様! ここは僕が運びます!」


 壇上を駆け上がってきたヘイヴルに体を乱暴に抱えられる。

 ……この揺れは厳しいかもしれないわね。


「エスタコアトル伯爵! 僕達の滞在先はどこでしょうか!?」

「……マリーヴィア様も無茶を、それでは案内いたします」


 ……あっ、これは意識が落ちるやつ。


 視界がぼやけて私の意識は途切れた。

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