第27話 宿の食事は肝試し

 色々と並んでいる道を歩いて屋台が並んでいるところが見えた。

 肝心のシオミセイラの居場所は、黒髪の人間2人がいる場所を見れば一目瞭然だ。

 ホットドッグのような物をかじるシオミセイラの黄金の瞳と目が合った。


「あっ、マリーヴィア先輩! 謎の肉のサンドイッチ食べますか!? これ、しょっぱいケチャップみたいなのがかかってておいしいですよ!」

「いえ、私はラーメンを食べてきたので大丈夫です」


 麺屋聖の特製ラーメンをスープまで飲み干すほど食べてきたので遠慮しておこう。

 無理して食べても食べ物はおいしく食べられないもの。


「えっ、こんな早い時間に麺屋聖のラーメンを食べられたんですか!?」

「あぁ、食えたぞ。マリーヴィア様のおかげでな! 半熟煮卵に分厚いチャーシュー、さらには……」

「マイロス、止めてくださいよ! おなかが空いてくるじゃないですか!」

「ヨルペルサスは昼食を食べていないのですか?」

「中々座って食べられる店がなくて……。オズワルド殿下とヘイヴルさん、僕とエドガーはまだお昼ごはんは食べていないです」


 これは悪いことをしてしまったわね。

 ちょうど良い食事場所を探すべきかしら?


「ここは屋台を抜けて食事処を探しませんか? 聖女様もお食事は十分でしょうか?」

「はい、サンドイッチで最後にします! ちょっと待っててください!」


 シオミセイラは魔物の加工肉が挟まれたコッペパンに思いっきり齧り付く。

 豪快ね……。


 3分も経たないうちに、シオミセイラはコッペパンを食べ終えた。

 口周りがだいぶ汚れているわね。

 聖女がこの口周りのまま歩いているのは問題なので私が水の魔力で洗い流しましょう。


「……あっ! ありがとうございます! もしかして口周り汚れていました?」

「だいぶ汚れていましたね……。聖女様、パンは満足に食べられましたか?」

「おなかはいっぱいですけど、まだまだ食べ足りません! ありったけのバターを塗りたくって焼いたトーストを食べられれば良いんですけど、ありますかね?」

「それは難しいかと思います。エスタコアトル伯爵領に行けばもしかすると存在するかもしれないですね」


 パンを積極的に食べに行った事がないのでトーストの元となる食パンが存在するかどうかを確認していない。

 もしかするとエスタコアトル伯爵領に食パンのようなものがあるのかもしれないけれど、詳しいことはわからない。

 バターに関しては水の魔力で再現すれば良いだろう。

 バターは油だけど、どういうわけか水の魔力で油が生成可能なので問題ないのだ。

 きっとバター風味のなにかも作れるでしょう。


「ラーメンがあってうどんがあるなら……、きっとパンの種類もたくさんあるはず! 絶対食べるぞバタートースト!」

「その前に、まずは食事処を探しましょうか。ラーメンやパンを食べた私達はともかく他の方々も食事を摂るべきですからね」

「はぁい。食事処の方においしそうなものがあったらどうしましょう? ……まだ食べられるかな?」

「聖女様、食べ過ぎは良くないですよ。私達は飲み物でも頼んでゆっくり休みましょう」

「飲み物……、この世界、水以外に飲み物あるんですか?」

「お茶はありますよ?」


 実はジュースもあるけれど、下手に栄養のありそうなものを飲ませてしまうと消化不良を起こさせてしまいそうなので内緒にしておく。


「お茶か~……。異世界のお茶って何色なんだろう? 怖い色してそうだな~……」


 実際はどんな色もお茶になりうるのだけれど、そんなことを言ったらシオミセイラを卒倒させてしまいそうなので黙っておく。


「それでは行きましょうか」

「はぁい」


 シオミセイラは歩く気になったので私は後ろに下がる。

 ヘイヴルが前に行ったのなら大丈夫そうね。









 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇









 しばらく歩いてヘイヴルがある店の前で止まったのでそれに合わせて私達も止まる。

 気になる物でもあるのかしら?


「今日の宿はここにしましょうか。聖女様、どう思います?」

「も、もう宿? お昼ごはんを食べるんじゃなくて?」

「ここは食事処もついている宿屋です。大部屋の宿泊予約を取って昼食を摂りましょう」

「じゃあ、あたしはマリーヴィア先輩の隣のベッドで寝れるんですね!」

「それはどうでしょうか? ひとまずはこの宿に入ってみましょう」


 ヘイヴルが宿の扉を開けて中に入ったのに合わせて私達も中に入る。

 今更だけど8人は大所帯よね……。

 2人増えただけでもだいぶ違うわね。


 宿の中は薄白色の壁と木造の柱の質素な造りだ。

 味噌汁のような匂いがすることや食器が動いたり何かを啜るような音が聞こえていていたりすることから、ここは食事も提供されている場所だということもわかる。


「へい、……こ、これは聖女様にオズワルド殿下ではないですか!? じゅ、巡礼の旅の途中でしょうか!? どうしてこの場所に!?」

「僕がここで食事を摂ろうと思ってね。ここの宿は8人が泊まれるような大部屋は空いているかな?」

「空いていますとも! お食事でしたらお先にどうぞ! 部屋の方の準備をしてまいりますので!」


 この宿の主らしき紺色の短髪の男性は慌ただしく階段を上っていった。


「さて、僕らも食事と行こうか。騒がしくなるとは思うけれど」


 ヘイヴルはひとりごとを呟きながら味噌汁の匂いが漂って来る方のドアを開けた。

 全員が入ったことを確認して私も入る。


 ……案の定、食堂がざわつき始めた。


「えっ、黒髪の男女がいる!? 本物か!?」

「男性の方はオズワルド殿下だよな!? 女性の方はもしかして召喚された聖女様!?」


 などと様々な声が聞こえてくる。

 私の巡礼の旅の時はこのようなことはなかったから完全個室の食事処を探す必要がありそうだけれど、インターネットがないこの世界では難しそうよね。

 私は心の中でため息を吐きながら、食堂の席を取るヘイヴル達を見た。

 これは昼食になる物を食べていない人と食べた人で分けているのかしら?


「やっっっとマリーヴィア先輩と隣の席になれました!」

「……マイロス、クロード。ここのお品書きのメニューの文字って」

「聖女様にも、マリーヴィア様にも読めない庶民の文字だな。安心しろ! 俺達がちょうど良さそうなものを見繕っといてやる」


 それは心配なのだけれど……。

 変な物、飲まされないわよね?

 普通のお茶で良いのだけれど……。

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