第22話 真の聖女の魔術訓練 〜初級編Ⅰ〜
ヨルペルサスがシオミセイラに魔術の訓練を行った結果……。
「これっ!? これなの!? 魔術って!?」
シオミセイラは杖から白い極太の光線を出している。
……私より威力がありそうなのが釈然としない。
真の聖女の魔力は物凄いのね。
「これは初歩の初歩ですね。ですが聖女様にも魔力が使えるということがわかりましたね」
「うん、でもこれって攻撃でしょ? 魔力の消費量が凄いって話だけれど、まだあたしやれるよ! うおおおお!!」
「聖女様、無駄撃ちは止めましょうね!?」
シオミセイラはひたすら白い極太光線を空に放つ。
……少し暗くなってきた空だからなおさら飛距離がわかりやすくなっているのだけれど、随分高い場所まで伸びているわね。
私がこの太さの光線を大量に打ったらぶっ倒れるのを通り越して死にそうだ。
力量差、凄いわね。
もし、それが光の加護としてあたえられるのなら相当の力を聖女の騎士やオズワルド殿下は手に入れられそう。
真面目に聖女としての私が戦闘で不要となる日が近づいている。
それは間違いなく良いことではあるけれど……。
そのことを複雑におもっているのなら私はあの双剣を使って彼らと共に戦いに行けば良いだけだ。
あの双剣には様々な仕掛けがある。
魔力の消耗さえ気をつければ間違いなく強敵だろうと多くの雑魚だろうと活躍できるだろう。
あれを使えば確実に何人かには怒られるけれど。
……私自身の旅の準備もこの巡礼の旅で進めましょうか。
「ふぅ、なんか疲れてきた……」
「魔力の使い過ぎ、ですね」
「100発撃ったらそれはそうなるか〜」
……適当に100発も撃つべきではない。
真の聖女の魔力は無尽蔵ね……。
「マリーヴィア、大丈夫かい?」
「……あれが真の聖女ですよ、ヘイヴル。これで後は光の加護の魔術の使い方と聖結界の魔石へ魔力を移すやり方を覚えれば一人前の聖女ですね」
「……彼女が一人前になったら何かする気だね?」
「それは見てからのお楽しみですよ」
「そうだな! マリーヴィア様も色々準備してんだよ」
「えぇ、私達もお手伝いしましたから!」
「……キミ達が? ……なんだかろくでもなさそうだけど、マリーヴィア、無茶だけはしないでくれよ」
「えぇ、問題ないです」
あれは無茶ではない。
私という生き物ができる最大限の事を行う為の重要な武器だ。
私というものを腐らせないためにもそれはとても必要な物。
誰にも止めさせない。
「……マリーヴィア、あの聖女に光の加護の魔術を覚えさせるつもりなのか? お前の加護だけでも十分だったと俺は思う」
「オズワルド殿下は真の聖女の光の加護をご存じないだけです。ヘイヴル、リカ様の光の加護の魔術を受けた感覚は覚えていますか?」
「……そうだね。全然違うよ」
「俺も受けたことあるけどよ! 全然違うぞ!」
「私も受けましたが、全く異なります。……マリーヴィア様はそれを気にしているのですか?」
「伝統は正しい形に戻さなくてはなりません。そのためには……」
シオミセイラの方を盗み見る。
「彼女の力を最大限発揮させる必要があります。力だけでもリカ様と同等にせねばなりません」
「……マリーヴィア、キミはどうするんだい?」
「私はすでに覚悟を決めていますよ。貴方がたも覚悟を固める必要があります」
マリーヴィア=フォン=アストヴァルテは不要な存在となる事、そのマリーヴィア=フォン=アストヴァルテが聖女の騎士達及び聖女とは別の道を歩む事。
この2つは覚悟してもらわねばならない。
そのためにもまずはシオミセイラがしっかりと聖女としての務めを果たしてもらわねばならない。
……今のところ歩いてばかりによる疲労を訴えていたり、魔物との戦いに対して非好戦的であったりとこの世界に対する不満はそこまで出ていない。
……ホームシックを患わないか心配ね。
元の日本に帰ることだけはどうしてもできないのだ。
自分でその手段を探すのならできるのかもしれないけれど、気づかれようものなら確実に妨害されるのがこの世界というもの。
聖女として召喚されたからには寿命で死ぬまでこの世界のためにその命を使ってもらうことになる。
基本的には巡礼の旅と称してこの世界のあちらこちらをみたり、聖結界に問題がなければ聖女の塔に籠もったりして良いからある程度の自由度はあるけれど、元の日本に帰ることだけはどうしてもできない。
帰ろうとするものならこの世界は聖女の自由を奪いに来る。
どう奪うかは私は知らないけれど、……自由を奪うのに使える方法は色々ある事ぐらいは知っているもの。
異世界から来た聖女の無知に漬け込めば悪趣味なことが色々とできるでしょう。
リカ様はそのようなことがされていないとは思うけれど……、どうかしらね。
「あ〜、疲れた〜。休憩しよう!」
「聖女様、地面に座るのは良くないですよ!」
「でも疲れてるんだから仕方ないじゃん! このまま寝ちゃお!」
「ここも魔物出ますからね!? ヘイヴルさん! 早いですけど豆腐建築お願いします!」
「豆腐建築、って何……?」
この世界の俗語、というより3代前のゲーム好きの聖女のマリ様がその当時の聖女の騎士によって建築された拠点に付けたあだ名が巡り巡って使われているのよね……。
「見ればわかるよ。それじゃあ作るね。それっ!」
瞬く間に穴が空いた真四角の巨大石造豆腐ができる。
「クソデカ豆腐……、えっ、これ作ってどうするんですか!?」
「今日はここで野営をします」
「えっ!? 泊まるの!?」
「まあまあ、聖女様。まずは体についた土を取り除きましょうか」
ヨルペルサスが水の魔力でシオミセイラの体を清める。
……ヨルペルサスはすっかりシオミセイラとのコミュニケーションを取れるようになったわね。
これなら他の聖女の騎士達とも交流できそうかしら?
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