第21話 ドリルべノ森林を越えて

 結局、ドリルベノ森林ではシオミセイラは戦うことなく、私は聖女の騎士が交代交代で張り付かれてまともに戦うことができない状態にされ、エィラー街道に辿り着いてしまった。


「シャバの空気だ〜、ってやつですね! ここには魔物、いませんよね!?」

「残念ながら存在します。とは言ってもドリルベノ森林よりも数は少ないですのでご安心ください」

「ご安心できませんよ!? ま、魔物多くない!?」

「安心してくだせぇ聖女様、俺たちが倒しますんで聖女様は守られててくださいよ。マリーヴィア様もな!」

「…………」


 いや、貴方達聖女の騎士はシオミセイラだけ守っていればよろしいでしょう。

 私は戦えるのだけれど……?

 杖じゃなくて双剣を解禁、するにはまだシオミセイラが戦闘に加わっていない以上は難しい。

 マイロスに教わった剣技があるから鈍らないうちに試したいところではあるのだけれど、まだね。


「まあまあ、マリーヴィア様。不機嫌にならないでくださいよ。次の町まで……、ヘイヴル、私達はどこに向かっているのですか?」


 確かに私達は道ではなく草が生えている方を進んでいる。

 これは恐らく最短距離でエスタコアトル伯爵領へ向かっているとは思うのだけれど……。


「このまま北東方向に進んでいるだけだね。みんな、今日は野営で良いかい?」

「や、野営って野宿ですか!? どうするんですか!?」

「聖女様、建物は僕が作るのでご安心を」

「た、建物を作るぅ!? なんですか、それ!?」

「それは見てからのお楽しみです。とにかく今は進みましょう」

「へイヴル、前方から魔物が数体います」


 雑談が途切れるけれど、魔物を見つけた。

 私がこっそり攻撃しても良いけれどそんな事をしたら怒られるので報告はする。


「マリーヴィア、戦いたいのはわかるけれどダメだからね。クロード、弓で倒しておいてくれるかい?」

「わかりました」


 ……私はまだやれるのだけれど?

 今生の見た目のせいか、妙に過保護なような気がする。

 ここまで戦えないことに苛立っているのなら私も戦いにいけば良いのだけれど、雑魚相手に出しゃばっても良くないのよね。

 やはり強敵の時に私の光の魔力での攻撃は活躍するのだ。

 ……強敵となると聖結界の際の場所の魔物、なのだけれど。


 あの場所は魔族が住まう場所に近いのか、強い魔物が湧いてくる。

 無理して戦う必要はないけれど、あの強さと渡り合いたいがために無理をして戦う戦闘能力を持った者が戦いに行き野垂れ死ぬ、なんてこともあるくらいには厄介な場所だ。


 闇の魔力を宿した魔物もいるので倒すべきではあるのだけれど、先に聖結界を強化してからだ。

 聖結界を強化すると闇の魔力を宿した魔物は弱体化するのでなんとしてでも先に聖結界の強化が優先される。

 弱体化することによって魔物を倒しやすくなる効果もあるしお得なのよね。


 なんてことを考えているうちにクロードによって魔物は駆除された。

 私の出る幕は一切ない。


「……マリーヴィア先輩、なんか機嫌悪そうですね?」

「マリーヴィア様は戦いたいだけなんです! ただ、あまり戦いに出られると僕達が戦いにくくなっちゃうんですよね……」

「ヨルペルサスさん、そうなの?」

「光の加護を授けてくださるのは現在マリーヴィア様だけなので……」

「ウッ……、あたしも光の加護ってやつを使えるようにならないといけないの?」

「はい」

「エッ、即答……」


 ……召喚された聖女だものね。

 早く戦力にはなってほしいところだけれど、どうかしら?


「……聖女様は魔術の訓練をされた事はありますか?」

「全く無い! 日本でそんな訓練してたら不審者も良いところだよ!」

「日本は魔物も出てこないような平和な場所だと伺っています。そのような思いをされるのは当然だと思いますが、魔術の訓練をされないと聖女様が怪我をされてしまいます」

「……やれって話でしょ? どうすればいいの?」

「まず、国王陛下から受け取った杖は持っていますね?」

「そりゃあもう使っているよ。……足の支えになるし」


 ……シオミセイラはもう疲れているのか、国王陛下から頂いた杖を時々地面に刺しながら歩いている。

 本来の用途ではないのだけれど……。


 でも良かった。このままヨルペルサスがシオミセイラに魔力の使い方を教えてくれそうね。

 このまま教員役をしてくれれば多少を通り越してだいぶ楽になりそう。


 ──真の聖女の光の加護の魔術はとても強力だから、私がいらなくなる日も近いでしょう。


「足の支えにすると杖が汚れますよ。聖女様、治療魔術をかけてもよろしいでしょうか?」

「それはください……。一刻も早く体を楽にしたいので」

「マリーヴィア様とは劣りますがこちらを……」

「お〜、歩いても足の裏が痛くな〜い。ありがとう、ヨルペルサスさん」

「それでは魔術の訓練を行いましょうか」

「えっ、早速!? あたし達遅れちゃうよ!? 町の近くになったらやれば良いんじゃないかな!? ねっ、ヘイヴルさん」

「……大変残念ながら、本日は野営です。なので訓練をしてください」


 ……予想はしていたけれど、今日は野営か。

 野営となると缶詰か乾いたアレが出てくるのよね……。

 まあ、食料については我慢しましょう。

 まずはシオミセイラの訓練ね。

 シオミセイラ以外はシオミセイラに訓練をしてほしそうだし、良い機会ね。


「そ、そんな〜」

「疲れるような訓練ではないから安心してくださいね」

「本当に疲れないんだよね!?」

「はい、疲れませんよ」

「本当の本当の本当に!?」

「本当の本当の本当です」

「う、ウー……、やるしかないか〜」


 シオミセイラはなんとか腹を括ってくれたようだ。

 これで光の加護の魔術を他者にかけられるようになれば御の字だけれど、どうかしら?

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