第20話 真の聖女の戦刃は丸い

 ──早速来たわね。


「な、なな、何あれ!? 動物!? なんかたくさんいるんだけど!? カエルみたいな見た目してるのに足が6本もあるしなんか目は3つあるしそれが10体くらいいてキモ過ぎる!!」

「聖女様、アレが魔物ですよ。聖女様の世界では動物とも言えそうな物ですが、我々に害意を持っています。我々も戦うものですが、今回は聖女様は後ろに。マリーヴィア様、支援をお願いできますか?」

「わかりました。……聖女様、これがあなたの戦闘での役割の1つですよ」


 私は予め構えておいた杖で光の加護の魔術を全員に施す。

 これがあるのとないのでは魔物の倒しやすさは違うのだ。


「……これがマリーヴィアの光の加護」

「えっ? 何が起こったんです?」

「聖女様は私と一緒に後ろに下がりましょう。後は頼みました!」

「わかったよ! それじゃあ全員戦おう!」


 各自声を出し、果敢に魔物と戦いに行く。

 本当だったら私も戦いに行くものだけれど、今回は庇うべき非戦闘員がいるため一緒に留守番だ。

 背後を取られる事も十分ありえるもの。

 それでシオミセイラが殺されたらたまったものじゃないわ。


 この辺の魔物で死ぬはずはないけれど、精神的な傷を負われると困るもの。


「う、うへ〜、よくわかんない色の体液が出てる〜……、よく武器なんて使って戦う気になりますね〜。戦いを回避することはないんですか?」

「相当魔物が強くない限りはないです。魔物を倒す事も善行ですからね。駆除しなければ王国の中に入り無辜の民に傷を与えてしまいますから」


 基本的には王国や領の中心街に入るには仕切りの壁が高過ぎるため、王国や領の中心街に魔物が入ってくることはない。

 街の中に入りたい場合は各地に用意されている地下通路に入ることになる。

 あの場所は魔物のスライムがいること以外は問題のない場所だ。

 たまに魔物を取り込んで妙な自我を持つスライムがいるけれど、討伐依頼が出て駆除されるので問題はない。


「確かにそうかもしれませんけど、もう少し平和な解決方法ってないんですか〜? 武器とかを使うんじゃなくって〜」

「魔術、という方法がありますよ。魔術なら杖を媒介にはしますが、直接手を下すことなく、体液もかかることなく魔物を倒せますよ」

「うぅ、……やっぱり戦わないといけないんですか〜?」

「巡礼の旅をするのでしたらそうなります」


 ……シオミセイラに戦う意思はなさそうだ。

 この先の巡礼の旅のためには多少は好戦的であって欲しいものだけれど……。


 ──これ、背後からも魔物が来ているわね。


 前方は別種の群れがやってきたようでそれと戦っているようだ。

 ……さて、私が片付けないと。


「マリーヴィア先輩? どうしたんですか?」

「こちらに魔物が来ています。ヘイヴル達の方は他の魔物の群れと出くわしてしまったみたいでその処理に追われています。私がなんとかしますのでお待ちください」

「えっ、ちょっ…… あたしもついていきます!」


 ここはついてきてもらった方が守ればできそうだけれど、いえ、まずは準備をしましょう。


「……セイクリッド・キャノン! 魔力装填!」

「なんですか先輩!? なんかロボの兵器みたいなのが出てきましたよ!!?」


 ……セイクリッド・キャノンは白い巨大ロボットが使っているような細い銃型の武器のように見えるものだ。

 あくまで見えるだけ。

 実際は杖に外装を瞬時に付け加え、遠くの方に魔力を撃てるようにした物だ。

 外装に関しては土の魔力を使って作るもののため、装填した魔力を全部使い切ると壊れて元通りの杖になる。

 魔力装填もちょうど良さそうだから早速魔物に撃ってみましょうか。


「発射!」

「真面目にロボのビームだっ!? ファンタジーなのにSFってアリなんですか!?」


 発射された白い魔力光線が遠くの魔物を貫く。

 今回は貫通して2体に当てられたようだ。

 やっぱりこの辺りの魔物は弱いわね。


 さて、まだ何体か魔物の数がいるけれど……、彼らはそのうち合流するはずだから数を減らしましょう。









 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇









 こちらの魔物は少数だったため無事に倒し切った。

 とは言っても私の魔力は結構消耗してしまったのだけれど……。


「マリーヴィア! 大丈夫かい? 魔力の残りは?」

「まだありますので安心してください。体調不良を起こすようなら報告します」

「……魔力が少なくなると何が起こるんですか?」

「少なくなり過ぎると倒れます。それだけです」

「それって戦えなくなるってことじゃないですか!?」

「それは理解していますので消費する魔力量は加減しています」


 ──無茶をしなければどうということはない。


 それだけの話なのだけれど。


「……マリーヴィア先輩ってもしかして魔力が少ないんですか?」

「いや、少ないというわけではない。……光の魔力を攻撃魔術に組み込むとどういうわけか魔力の消耗がだいぶあるようでね。……マリーヴィア、どうして僕達を呼ばなかった?」

「私だけでもなんとかなると確信はあったので。この森の魔物に手こずる程私は弱くありません」

「遠距離攻撃の魔術は魔力消費量が多いのはわかっているだろう? キミは好戦的過ぎる。魔物の気配は僕達もわかっていたけれど、キミが手を下す程近い物ではなかっただろう?」

「ヘイヴル、今はこのドリルベノ森林を越えましょう。無駄話をしていたらまた魔物が来ますよ」


 ここでヘイヴルからの有り難いお説教を聞いている場合じゃない。

 今は前に進むべき、さもなくばこの森で野営だ。


「……そうだね。行こうか」


 ヘイヴルもわかっていたようで素直に聞いてくれた。


 ……シオミセイラを戦わせるのにはどうしたら良いかしら?


 この疑問を抱えながらこの森を歩くことになりそうね。

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