第18話 シャケの魔物
シャケシャケシャケシャケシャケシャケシャケシャケ……、とにかく私の頭はそれで一杯だ。
マイロスはともかくこれは普段もだんまりなエドガーも狙っているもの。
エドガーには先手を取られてしまっている以上、私は……。
……ん?
「その缶、膨らんでいませんか?」
「……そうだ。俺も開けられないでいる」
嫌な予感がする。
密閉されているはずの缶が膨らむなんてことは地球だったらシュールストレミングでしかありえない。
今にも中から何かが飛び出す勢いでテーブルの上に乗っている缶は膨らんでいる。
これって……。
「中身が生きている不良品ですね……。下の階で開封して倒しましょうか」
「マリーヴィア様、俺に考えが」
「……また踊り食いですか? 生きたまま体を捌き、治療魔術で体を流し、また食べるというあの残虐な方法の……」
「そうだ。それなら俺達は満足して食べられる。マリーヴィア様もマイロスも、そして俺も食べたい。ならやる方法はこれだ」
「……ごはんが冷める前にやりましょう。エドガー、桶を」
「……御意」
「マリーヴィア様にエドガー! 俺も入れてくれよ!」
「えぇ、行きましょう。私達のシャケのために」
早速シャケの魔物を食べるため、私とエドガーとマイロスは下の階へと降りた。
「……缶のシャケ、しばらくは食べられなくなりますからね。また買いに行かなくては……」
「モンモンソロ領のケシャーシの町の名産ですよね? 最近行った場所ですし、たまたま街で見かけるくらいじゃないと買えないですね……」
「そんなにシャケ缶が大事なんだ……。マリーヴィア先輩の大好物、覚えないと……」
「…………」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さて、どれくらい収穫するのかしら?
残虐な方法とは言ったけれど、踊り食いの方が普通の缶のシャケよりも手に入るシャケが多い。
なおかつこのシャケの魔物はサーモンの刺身とよく味が似ている。
……この収穫、負けられないわね。
杖の小型化を解除し、治療魔術の準備をする。
とにかくこの収穫では弱めの治療魔術を出すことが大事だ。
全てを治療してしまってはまた捌き直しとなってしまうため、繊細な魔力コントロールが大切となる。
全てはシャケを食べるため、長旅に出る前の食欲は満たしておくべきもの。
「よし、エドガー! 開けるぞ!」
土の魔力で作った石造の台でマイロスは缶のシャケを開けようとしている。
「マイロス、早く開けろ!」
「おりゃっ!」
「……ふんっ」
まず、中にいるシャケの魔物は真っ直ぐ飛び出してくるから缶を開けた後、すぐにシャケの魔物に何かを刺す必要がある。
エドガーは自身が持っている中で一番長い短剣をシャケの魔物に遠慮なく突き刺した。
ニンジン色の体液は噴水のように噴き出している。
さて、もうすぐね。
「捌くぞ。マリーヴィア様、準備を」
「問題ないです!」
「でしたら、ふんっ!」
「はいっ!」
「ふんっ!」
「はいっ!」
餅つきのように私達はシャケの魔物を捌いては治し捌いては治しを繰り返していく。
それはやがて………………。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おい、シャケの身が山盛りだぞ! もう良いんじゃないか!?」
「それじゃあマイロス、仕上げをお願いします」
「そらよ!」
マイロスが凍結の魔術をシャケの魔物にかける。
「……ったく、生きてねぇとこいつ食えねぇからな。それにしても大量だな!」
「大漁ですね!」
「こいつを急いで上に持っていくぞ! マリーヴィア様、身体強化の魔術を!」
「それっ!」
身体強化の魔術を念の為強めにかける。
これは本来他人にかけるべきものではないけれど、全身にかけるのならそこまで問題はない。
「待てエドガー! 俺が一番最初に食べるに決まっているだろ!」
「……さて、追いますか」
私も自分自身に身体強化の魔術をかけて階段を駆け上がることにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
階段を駆け上がった先では私とエドガーとマイロス以外は席に着いていた。
かなり時間をかけてしまったかしら?
「なっ、なんですか!? このサーモンの量は……、えっ、これ全員で食べますよね? マリーヴィア先輩だけが食べる、とかじゃあないですよね?」
「これは全員で分けるものになります。とは言っても食べたくなければ食べないで問題ないですよ。私達が責任を持って食べますので」
「そうだ! 俺達が責任持って食べるからな! おい、エドガー! 勝手に箸を持つな!」
「取り分けるだけだ」
「取り分け用の箸じゃないだろ! ライズ! 風の魔力で分けてくれ! 俺とエドガーとマリーヴィア様の分は山盛りでな!」
「承知した」
このままだとどうやってもマイロスとエドガーが揉めるだけなのはわかりきっていることなので、マイロスがライズを呼んだ。
これなら公平になるわよね。
……私の分のシャケを多めに盛ってくれると助かるのだけれど。
風の魔力でシャケの魔物の身が舞い上がり、それぞれの空き皿に乗せられる。
……よし、私の分は一番多そうね。
「それでは席につきましょうか。お待たせして申し訳ございませんでした」
「えっと、マリーヴィア先輩、これって……」
「シャケです。本来でしたら味付きのほぐし身でしたが、中にシャケの魔物が孵化していたので今回は刺身です。醤油と合うので良ければ食べてください」
「お刺身……、魔物の? 食べても大丈夫なんですか?」
「食わないならもらうぞ!」
「いや食べますよ! おなかが壊れるなんてことはないんですよね!?」
「私達はないですよ?」
……魔力が弱ければ腹痛に襲われることは黙っておこう。
魔物の肉は魔力の弱い人には毒なのだ。
でも、シオミセイラは大丈夫だ。
日本から召喚された聖女は色々と丈夫になっているもの。
「じゃあ、大丈夫そうですね。じゃあ、みなさん席に着きましたし食べましょうか! いただきま〜す!」
速攻で醤油味の水を作りシャケの身にぶっかける。
やっぱりサーモン味のするものには醤油。
脂も乗っているし、シンプルに行こう。
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