第17話 石畳大の字の真の聖女

「…………まあ、こうなりますよね」

「そうだね、マリーヴィア。聖女様を起こしに行くかい?」

「……そうせざるを得ませんね」


マイロス、そしてシオミセイラが5の刻の鐘が鳴っても起きてこない。

爆睡確定だ。

まず起こすべきはシオミセイラだろう。

昨日昼寝をしてしまったことから嫌な予感はしていたけれど、起床の気配を見せないのは……、この習慣を知らない可能性もあるわね。

……行きましょうか。


私はヘイヴルと共に聖女の部屋に向かうことにした。









 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇









「聖女様、起きていますか? …………開けますよ!」


思いっきり大きなノックをしてもシオミセイラが起きなかったため部屋の扉を開ける。


………………なんで?

寝相、悪すぎないかしら?


「ど、どうして床で寝ているのでしょうか? ベッドは大きいはずですよね?」

「……マリーヴィア。世界にはそういう人もいるんだよ」


確かに今日の朝も何か物音が落ちるような音がして目が覚めたけれど……。

ベッドから落ちた上にそのまま床で爆睡なんてあり得るのかしら?


シオミセイラが床の上で大の字になって寝ている。

大きなベッドのカーペットさえ乗り越えて、石の床の範囲で爆睡できているのは奇跡よね?


「さて、聖女様を起こそうか。マリーヴィア、どうする?」

「どうするもなにも、まずはベッドの上に運びませんか?」

「いや、このまま起こそう。ベッドの上に運んだらまた寝てしまうよ」

「えーっと……。聖女様!! 起きて!!! ください!!!」


……シオミセイラは何の返事もしない。

もっと大きい声か、体を揺らせば起きるのかしら?


「……これは凄く寝入っているね。どうしようか?」

「せめてカーペットまで体をずらしてあげてから起こしたいですね……。身体強化の魔術を使いましょう」 


ヘイヴルはシオミセイラを起こすつもりがなさそうなので私が前に出ようとするとへイヴルも前に出た。

……ヘイヴルが起こすの?


「それなら僕が運ぶさ。マリーヴィア、キミが身体強化の魔術を使う必要はないよ。キミが筋肉隆々になったら困るからね」

「…………マリーヴィアせんぱいが、……きんにく? 嫌です!」


大声を出しても起きなかったシオミセイラが起きた。

一体何を想像したのかしら?


「……起きましたね」

「なるほど、こういう起こし方をした方が良いみたいだ」

「うぅ……、マリーヴィア先輩が私を起こす声をもう少し聞きたかったのに、なんてものを……。ヘイヴルさんは許しません!! 絶対に!!」

「マリーヴィア様は連れてこない方がよろしかったようですね」

「いいえ、連れてきてください! これからも! ずっと!!」


……朝から騒がしいわね。

こんなに騒がしくなるのなら来ない方が良かったのかしら?


「というか、ヘイヴルさん! あなたマリーヴィア先輩の何ですか!? 随分マリーヴィア先輩に馴れ馴れしい態度を取っていましたよね!? 幼馴染か何かですか!!? もし、恋人だというのならぜっっったいにあたしは許しませんからね!!!」

「僕は単なるマリーヴィア様の聖女の騎士。……貴方が来るまでは、ね」


ヘイヴルのその言い方にはどこか棘のような物を感じる。

……大丈夫かしら?


「なら大丈夫です! 恋人ではないんですよね!?」

「……残念ながら」


残念ながら……?

ヘイヴルの冗談にしてはなんというか妙だ。

藪蛇を突いてもよろしくはないので聞かないでおきましょう。


「よ〜〜し!! 問題なし!! マリーヴィア先輩はこの先も恋人なんて作らないでくださいね! 世の中ろくでもない人が多いですから!」

「え、えぇ……」


シオミセイラは石畳の上に大の字で寝ていたというのにやけに元気だ。

……若いのか聖女としての生命力の強さなのか、両方かもしれないわね。


「そうだよマリーヴィア、恋人にしたい人ができた時は必ず僕の前に連れてくるんだよ。しっかり見定めるからね」

「……私にはそのつもりはないので大丈夫です」


……妙な流れができている気がする。

とりあえず朝ごはんということで流れを断ち切ろう。


「それよりも朝食の時間ですので聖女様も行きましょう」

「朝食!? まだ外暗いですよ!?」

「今は5の刻、聖女様の国での言い方なら朝の5時です」

「なんだか、おばあちゃんみたいな生活ですね……。まあ、起きちゃいましたし、食べに行きましょうか」

「その前にまだ起きていない方がいるのでその方を起こそうかと思います」


問題はマイロスだ。

他の聖女の騎士が起こしているのなら良いのだけれど、彼は中々起きない。

シオミセイラやオズワルド殿下がいる中であの起こし方をするのは耳によろしくないので別の方法だ。

……地道に起こすしかないのかしら?


「私より寝起きが悪い人がいるんですね〜。昨日は物凄い物音が下からしたので昼寝から起きられてミニーヴィア先輩が手に入ったので良かったです!」


……物凄い物音、恐らく起きてきた時間的に考えると聖女の騎士の像を壊していた時の音かしら?

シオミセイラも方法を考えて起こさないと起きなさそうね……。

今日はたまたま幸運だったのかしら?









 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇









9階に降りるとマイロスが汗をかきながら私達を待っていた。

どうしたのかしら?


「大変だ! マリーヴィア様! 今日の朝メシ、アレが出る!」

「……朝ごはんにアレとなると、アレですか!?」

「……? マリーヴィア先輩、アレってなんですか?」

「マイロス、アレとは缶のシャケで合っていますよね?」

「あぁ、俺は言ったからな~!!」

「待ちなさいマイロス! 私も行きます!!」


シャケ缶ごはんなんて最高な物を私が食べ逃すわけないでしょう。

私は身体強化の魔術を自分にかけて思いっきり階段から飛び降りた。









 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇









「……シャケ缶ってマリーヴィア先輩の大好物なの?」

「滅多に手に入らないものでして……。それでは僕達も行きましょうか」

「はぁい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る