第15話 出立準備
さて、全員夕食を食べ終えたことだし、エスタコアトル伯爵領にはいつ出立するかシオミセイラに聞かなくては。
聖結界のこともあるし、すぐにでも行くべきだろう。
とは言ってもシオミセイラにオズワルド殿下の準備もある。
遅くても明後日になるのだろうか?
……ひとまずは聞くべきね。
「聖女様、エスタコアトル伯爵領にはいつ頃向かわれますか?」
「明日行こうかなって思っています。旅に必要なものは書状と一緒に届けた、みたいな事が書いてありますけど、それはどこにあるんですかね?」
「それに関してはすぐ下の階にあります。聖女様の荷物と、オズワルド殿下の荷物が置いてあります」
「じゃあ、その荷物さえあれば旅に出られますね! パンをたくさん食べるぞ〜!」
「聖女様、中身は確認しましょう。使い方がわからない物があれば私達で説明できますので」
初見ではわからないような物が入っているため、私達の説明はせめて必要でしょう。
野営をする事もあるのでその時になって手間取ってしまうと非常に困る。
そのためにもシオミセイラには荷物の中身を確認してもらわなくては。
「なるほど〜、確かによくわからないものとか入っていそうですもんね。中身、さっそく確認しましょう! マリーヴィア先輩と一緒に!」
「マリーヴィア様だけに全ての説明をさせるのもどうかと思いますので、ここからは僕達もついていこうかと思います。聖女様、よろしいでしょうか?」
「……まあ大丈夫。本当はマリーヴィア先輩と2人きりが良かったんだけどな〜」
全員が立ち上がっていることからライズ以外は下の階の転送陣がある場所に行くことになるでしょう。
下の階は転送陣とただの床ぐらいしかないから届いた荷物を広げるならそこで良さそうね。
私達は下の階へ向かうことになった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
7階の転送陣がある場所に着くと転送陣から少し離れた場所に小さな黒い鞄と肩かけ鞄があった。
どちらがシオミセイラの荷物かしら……?
「えっ、荷物ってこんな小さいんですか!?」
「聖女様、それは圧縮鞄と呼ばれるものですね。この中に多くの荷物が入っているはずですが、どちらが聖女様のものでしょうか?」
ここはヘイヴルに説明を任せよう。
私ばかりがシオミセイラに話しかけるべきではない。
今のところヘイヴル以外の聖女の騎士とシオミセイラは大して会話をしていないからなんとか交流の機会を持たせなければ。
「俺の鞄はこれだ。部屋に置いていた物がそのまま届けられている」
オズワルド殿下は黒い圧縮鞄を手に取った。
王族となると相当小さい物を持っているのね。
「それでは、聖女様はこの明るい茶色の物ですね」
「この中に荷物が……? それに圧縮ってどうやるんですか?」
「それに関しては鞄職人のみが理解しているので僕達にはわからないですね。どういう物かは手を鞄の中に入れてみればわかりますよ」
「へ〜。じゃあ、手を鞄に入れてみよ〜っと」
シオミセイラは肩掛け鞄を開け、その中に手を突っ込んだ。
「えっ、この鞄、深い!? 一体どうなって……!? ひっくり返したら全部出てきませんかね!?」
「それに関してはできません。どういうわけか普通の鞄と違う仕組みのようでひっくり返しても荷物を全部出す事が出来ない仕組みとなっております」
「えぇ〜……。ほ、ほんとだ。どうなってんの異世界技術……」
シオミセイラは鞄をひっくり返すもその中からは何も出てこない。
どういうわけか重力を無視しているのよね。
こればかりは私でも仕組みを理解していない。
相当高度な魔術で出来ているとは思うのだけれど……。
「じゃあ、あたしはとにかくこの鞄から色んなものを出すしかないんですね!」
「そうなりますね」
「全部出してやる〜!!」
どうしてかやる気になったシオミセイラは鞄から色々なものを引っこ抜く。
杖に寝袋に衣類に……、様々なものを鞄から出した。
「……まず、これって杖ですよね? これでまほ、……魔術でも使うんですか?」
「はい、そうなります。魔術の使い方については巡礼の旅を始めた際に実戦形式で教えますね」
「おぉ、ファンタジー……。これであたしも戦えるっ!」
聖女というものは基本的には後方支援になるのだけれど……。
説明をすると長くなるので今回は割愛だ。
巡礼の旅で魔物と戦う時が訪れるだろうからその時に説明だ。
戦いながら説明、というのもおかしな話ではあるけれど。
「ところで、みなさんって武器を持っているんですか? 見たところそうには見えませんけど……」
「僕達は小型化ができる武器を使っています」
「小型化……? なにそれ?」
「見ればわかります。僕がお見せしましょう」
シオミセイラは武器の小型化というものを理解できていない。
私も初見では驚いたけれど、便利さで考えると武器を小型化できるものを選んだ方が良いとされている。
大きい武器を持ち歩いているとぶつかった時、危ないもの。
「さて、僕の武器ですが、一般的な片手剣ですね。このようになっております」
「エッ、なんかよくわからないところから武器が出てきたんだけど!? 鞘付き!?」
「このように小型化できる武器というものがこの世界には存在します。聖女様のその杖は小型化はできませんが、杖を変えたいのでしたら武器工房で依頼をすれば小型化する武器が手に入ります」
「はえ〜……、それは凄い。……他の人達はどうなんですか?」
……よく理解できていないようね。
杖は特に危ない訳ではないから小型化可能な状態でなくても良いだろう。
「聖女の騎士はみんな小型化の武器を持っていますよ。なにかあった時、不意を突けますから」
「そんな物騒な発想で……? え、えーっとヨルペルサス、さんはどんな武器を使って……?」
「僕は聖女様と同じ杖です。ただ普通の杖とは違って魔物を殴っても壊れない特注品です!」
「魔物を、殴る? 魔術でなんとかするんじゃなくて……?」
「後方から戦うだけだと守るべき者も守れませんから!」
ヨルペルサスはどちらかというと魔術で戦う魔術士的な戦い方をせず、杖に魔力を纏わせて殴りに行くタイプだ。
戦い方も人それぞれなのよね。
「そういうもの……? ま、まあ、荷物はこのくらいしかないから後はジュンレーの旅で聞けば使い方はわかるよね! 今日はひとまず寝ようかな? 旅ってどれだけ歩くの?」
「そうですね……。ここからエスタコアトル領までは10日程歩けば着きます」
「……馬車ってないの?」
「バシャ、というものがどういうものかは知りませんが、楽に動ける乗り物は無いです。転移陣と呼ばれる移動手段はありますが、巡礼の旅は魔物掃討の役割も兼ねているため使えません」
「歩き……? 体力保つの……?」
現代人の体力では丸々10日も歩き続けるのは辛いでしょう。
とは言っても筋肉痛は治療魔術でなんとかできるので精神面さえなんとかなれば10日でエスタコアトル寮には着くでしょう。
「御体になにかあるようでしたら私の治療魔術でなんとかしますよ」
「マリーヴィア先輩の治療魔術で……。ところで治療魔術ってどんなものですか?」
「こういうものです」
私は杖も持たないまま、シオミセイラに治療魔術を使う。
……聖女の治療魔術ってどういうわけか光るのよね。
「筋肉痛が治った! 凄いですね! 治療魔術!」
「聖女様も使えるようになるかと思います。他にも何名か治療魔術が使える者がおりますので何かあったら相談するのもよろしいかと」
「あたしはマリーヴィア先輩からが良いんですけど……」
その言葉は聞き流すことにする。
……今のシオミセイラは同性である私としか積極的にコミュニケーションを取ろうとしない。
この状態はよろしくないため、なんとかするべきだろう。
……寝る前に策を練らなければ。
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