第14話 出立前の晩餐
「マ、……聖女様。国王陛下より書状です」
今までの習慣か、ライズが私に国王陛下からの書状を渡しかけたところをシオミセイラに渡す。
「……? ありがとう、ございます? マリーヴィア先輩、これってなんですか?」
「恐らく、聖女認定の儀での王命に関わるものかと思います。聖女様、開封しても?」
「大丈夫ですよ! というか書状とか渡されてもこの世界の文字が、読め……? えっ、あの、マリーヴィア先輩、ウォルゼウスって人、もしかしてこの国の? なんでカタカナで……?」
「国王陛下のお名前ですね。ひらがなとカタカナは聖女様が来られた国の文字ですので我々の国でも学園に入れば学ぶことができる文字となっております」
「えっ、ひらがなとカタカナ、あるんですか!? 異世界なのに!?」
「初代聖女様が直々に王家に授けた文字です。漢字という文字もありますがあまりにも数が多いため、一部の文字しか伝わっていないです」
ひらがなやカタカナは学園の卒業生やイレギュラー聖女である私も使えている。
主な用途としては、相当な重要書類に対して暗号にすることではあるけれど……。
漢字ともなるとシオミセイラは例外として王族か聖女の騎士か私ぐらいしか読めないだろう。
日本出身のリカ様も当たり前にひらがなとカタカナと漢字を使えていたし、私も日本からの転生者であることは隠しながらひらがなとカタカナと漢字を使っている。
とは言ってもリカ様から段階を踏んで教わったので私が漢字やひらがな、カタカナを使っても周りからは違和感を抱かれていない。
とは言っても暗号用インクを使って真面目に日本人が書くようなメモを書いてしまうと聖女の騎士は全く読めないため、伝えたいメモがある場合、小学1年生に伝えることを意識して書くか、単語ごとに区切ったひらがなカタカナ交じりで書く必要がある。
伝えたくない内容なら何も意識する必要はないのだけれど。
「魔法があること以外はほぼ日本じゃん。ここ……。米ばっかり食べてるし……」
「あっ、魔法という言い方ではなく魔術と言った言い方の方が正しいです。聖女様からすると魔法と魔術は同じような物かとお考えかと思いますが、人が使う魔力を使った何かしらの現象は魔術と定義されてますので……」
シオミセイラに釘を刺しておく。
この世界では魔法と魔術の違いに敏感な人が多いから。
厄介な人間に絡まれないためにもそのことは言っておこう。
「それ、ムウって人に言われました……。やっぱり違うんですか?」
「えぇ、違います。その違いに目くじらを立てるような人も多いので……。一般的には魔法は奇跡、魔術は普遍と言われています」
「なんだか難しそうですね~……。まあ、今はこの書状……、お手紙を読んでみましょうか!」
シオミセイラは国王陛下からの書状を乱雑に開ける。
そうね、ペーパーナイフなんて物を使う習慣は普通ないものね……。
「……え~と、エスタコアトル、伯爵領の? モリスの町に行け? ……どこですか? マリーヴィア先輩、わかりますか?」
「エスタコアトル伯爵領はパン作りが盛んな町ですね」
「パン!! 行きます行きます!!! やっとパンが! 食べられる!!」
シオミセイラは余程パンが食べたかったのか叫んでいる。
近くには炊き立てのお米があるというのにそんなものは眼中にないかのよう。
私とシオミセイラ以外の皆は食事の準備のためか座っている。
そうね、シオミセイラに食事開始の号令をお願いしなくては。
聖女の規則もあって揃って食べないとごはんが冷めてしまうもの。
「聖女様、まずは目の前のお食事を食べませんか? 皆、待っています」
「えっ、みんな勝手に食べないの? マリーヴィア先輩、何か決まり事でもあるんですか?」
「前聖女のリカ様が定めた規則で食事は全員が揃って食べるものだと決まっています。ですので、皆、聖女様の号令を待っているのですよ」
「なんで小学生みたいなお約束が……、う、うーん、この世界、電子レンジはなさそうだからもう食べるか~。マリーヴィア先輩はどこに座るんですか? あたし、マリーヴィア先輩の隣の席が……、2人分の席、空いていませんね? どうしたら……?」
シオミセイラが私と隣の席に座りたがっているようだけれど、ここは聖女の塔の主としてふさわしい場所に座ってもらいましょう。
「聖女様はこちらの席にお座りください」
「えっ、お誕生日席じゃないですか!? どうしてですか!?」
「今の聖女様はこの塔の主です。主君としてこちらの席に座っていただきます」
「え~……。まあ、今のあたしにはミニーヴィア先輩がいるから良いか~」
ミニーヴィア先輩……、もしかしてさっき作ったあのフィギュアだろうか?
……フィギュアの名前には突っ込まず、私は空いている席、ヘイヴルの隣の席に座ることにした。
「じゃあ、みんな席に着いたので食べてくださ~い。いただきま~す」
こちら側がいただきますを言う間もなく、シオミセイラはごはんを食べ始めた。
……育てられた家ではそんな風に食べることが許されていたのかしら?
ひとまず、食事の挨拶を個人で行い、私は今日の夕食を食べることに専念することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます