第13話 歪んだ塑像の部屋

「こ、これは……」


 部屋がとんでもないことになっている。

 先ほど見た時にはこのような色彩ではなく、もう少し、灰色だったような……?


 どういうわけかどぎつい色ばかりが使われている。

 天井は真っ赤な色、左の壁は真っ黄色、右の壁は真っ青、前の壁は紫色、そして床は鮮やかな緑色だ。


 ──目に痛すぎる。


 などと正直に言ってしまうと準備をしてくれた彼らに申し訳ないので何も言わないでおこう。

 ……白くて変な大きい物も置かれているけれど。


「いや〜、聖女様の部屋は殺風景だったからなぁ! だから賑やかな部屋にしておいたぜ!」

「もしかして賑やか過ぎますかね?」

「いえ、これで大丈夫です。模様替え、ありがとうございました」

「マリーヴィア、我慢していないかい?」

「ヘイヴル、私は大丈夫ですから」


 ヘイヴルから見てもこの部屋は変だという認識をしているようだ。

 いつも余裕そうな声がどこか硬い。


「ところでこの妙な置物はなんだい?」

「それは俺達の像だな。……ヘイヴル、お前も作るか?」

「……これは物置に置くべきだね」

「そうかぁ? 結構よくできていると思うけどなぁ?」

「だから言ったじゃないですかぁ! 大きすぎます、って!」


 よくわからない白い石像は聖女の騎士達を模した像とのことだけれど、だいぶ部屋を圧迫している。

 どういうわけか4つもある上に、それぞれの大きさが聖女の騎士本人の身長とほとんど同じような。

 ただ、この部屋にタンスか何かを置こうとするのなら間違いなくこの石像達が邪魔で置けない。

 そのくらい部屋を圧迫している。


「……だが、ありのままの俺達を現した方が表現の幅が広がる。そのことに納得したのはクロード、お前だろう」

「確かにそうですけど~!」

「撤去だね」

「ヘイヴルさん! 撤去なんて酷いですよ!」

「まず、この像、しっかり自分と似せることはできたのかな?」

「それは……」


 確かにこの像達、大きさは本人そのもの等身大だけれど、似ているかどうかは……。

 日本に出ていたフィギュアや石膏像なんかと比べるとその出来はあまりにも荒い。

 また、衣服を着用している状態の自身を模したのか、人型とも言えないナニカができあがっている。


 ──率直に言うと、下手。


 決して言ってはならない感想が浮かび上がってしまった。

 私も自分の等身大の像を作ったらあんな風な出来になってしまうのかしら?


 下手、と思ってしまった以上は自分でも取り組んでみよう。

 その像の出来がヘイヴルを除く聖女の騎士達が作ったものと変わりなければ後で彼らに謝罪だ。


 ──彼らに謝罪する、ということはこれらの像が下手だということを告白してしまうようなものでは?


 それは、そうね……。

 でも、自分自身の像とやらは作ってみたさな何気なくある。

 とは言っても日本によくあるようなフィギュアの劣化品になってしまいそうだけれど、挑戦が大事よね。


 ……それにしても皆黙り込んでしまった。

 もしかして今回できた像は自分と似せられることができなかったということかしら?


「じゃあ、撤去で良いだろう? この部屋はマリーヴィアが休むところだ。このように圧迫感を与える物は置くべきではないね」

「せっかく苦労して作ったんだがなぁ……。そうだ! せめて1つは残そうや!」

「では私の……」

「いや俺だ」

「ぼ、僕のはどうですか!?」

「ここは聖女の筆頭騎士である僕の像があるべきなんじゃないかな?」


 ……このような悪い流れをいつも止めているヘイヴルが乗ってしまった。

 この良くない流れを止めさせるには気が重いけど断る必要がありそうね。

 そもそもヘイヴルは私と一緒に部屋の掃除をしていたのだから像を作っていないのだけれど……。


「像は無くて結構です。私の部屋は私で管理しますので片付けをお願いできますか?」

「ほら、マリーヴィアもこう言っているよ。像は片付けようか」

「……次こそは良い出来の物を作って見せます!」

「かァ~、実質やり直しかァ~。良い出来だったんだがな~? マリーヴィア、何が悪かったんだ?」

「数、ですね」


 実際は大きさも良くない要素ではあるけれど、それは言わないでおこう。


「お前達、いつもこうだったのか?」

「……オズワルド殿下」


 オズワルド殿下がこちらの様子を窺っている。

 その表情にはどこか呆れのようなものがあった。

 確かにこの部屋はとても賑やかに、いえ、うるさく作業をしていた上に現に聖女の騎士の像の扱いでああだこうだと話をしている。


 ──扉も開けたままで……。


 それはオズワルド殿下も様子を窺いに来るわね。


「オズワルド殿下、どうなさいましたか? 我々が騒がしかったのなら謝罪いたします」


 ヘイヴルが私の前に出て、オズワルド殿下に詫びを入れようとする。

 あの騒音でオズワルド殿下は掃除に集中できたのかしら?


「いや、それは良い。それよりもお前達はいつもこうなのか?」

「こう、というのはどういうことでしょうか?」

「いや、良い。少し気になっただけだ。部屋に戻る」

「……そうですか」


 オズワルド殿下は自分の部屋の方に戻った。

 一体、なんだったのかしら?


「そ、そういえばオズワルド殿下もここで暮らすことになっていましたね。私達、凄い物音を立てていませんでしたか? もしかして殿下の気に障ってしまったのかも……」

「クロード、この聖女の塔では聖女様、今はセイラ様が主だ。あの方の気に障らなければ好き勝手やって良いんだよ。現に聖女様は昼寝をしているから僕たちは好きにしていいわけだ」

「そういうものなのでしょうか?」

「今はこの像を片づけることを優先にしよう。オズワルド殿下が気になるのなら静かにね。マリーヴィアは部屋の外に出てくれるかい?」

「わかりました」


 彼らの魔力で生み出した石像は彼らが願えば塵一つ残さず消え失せるが、なにかがあるといけないのでヘイヴルに言われるがまま部屋の外に出ることにした。









 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇









 それにしても、あの像のような物は私でも作れるのかしら?

 手乗りサイズくらいなら挑戦してみても良いのかもしれない。

 土の魔力を使って作ってみましょう。

 私自身のスケールフィギュアを作ってもなんだか気まずいのでデフォルメされたようなものを作ってみましょうか。


 確かあの手のフィギュアは……。









 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇










「できてしまったわね……。それらしきものが」


 色は付いていない、彩色前の原型の私のデフォルメフィギュアができあがってしまった。

 それにしても現代の制服とほぼ変わらないものを着ているからこれが私かと言われると塗られるまではわからないだろう。

 ……それにしてもこれ、どうしようかしら?


「マリーヴィア、それはなんだ?」

「オズワルド殿下……」


 また、オズワルド殿下が出てきた。

 手持無沙汰なのかしら?


「彼らが作っていたものを簡単に真似てできたもの、ですね。小さい像のような物です」

「これは、お前か?」

「はい。特にモチーフになるようなものが思い浮かばなかったのでとりあえず私を模してみました。……置き場所もないのでこれから壊そうかと」

「……それなら」

「マリーヴィア、それなら僕にくれないかい?」

「ヘイヴル? 片付けはもう終わったのですか?」


 ヘイヴルが私の部屋から出てきた。

 もうあの像の片付けが終わったのかしら?


「待ってください! マリーヴィア様の像、見せてください!」

「マリーヴィアも像を作ったのか! 俺にも見せろ!」

「私にも見せてくださ~い!」

「……俺も気になる」


 ……聖女の騎士全員が集結してしまった。

 片付けは終わったようね。


「こちらになりますが……」

「えっ、凄いです! こんなに小さいのに人みたいになっていて可愛らしいです! 僕も欲しいです!」

「こんなに小さいなら部屋にも置きやすいな! 俺も欲しいぞ!」

「私も欲しいです!」

「……なら俺も」

「あの、1体しかなくてですね……」


 困ったことになってしまった。

 まさか適当に作ったフィギュアを皆が求めてしまうとは。

 どうしたら良いのかしら?


「あ~! ここにいた! マリーヴィア先輩~~~~!!!」

「……聖女様、お目覚めになられたのですね」

「うん! ベッドに潜ったら爆睡しちゃってびっくりしちゃった! あれ? これって、マリーヴィア先輩のフィギュアですか!!!? 欲しいです!!!!」

「聖女様も、ですか。……そうですね、このような適当なものでよければ」

「よっし! マリーヴィア先輩のめちゃかわフィギュアゲット! 助かる~!」


 ここはシオミセイラに渡しておきましょう。

 こんなものを人に渡してもどうしようもないと思うけれど、需要がある以上は渡しましょうか。

 シオミセイラは妙に喜んでいるけれど……。


「18の刻の鐘の音……、夕食の時間ですね」

「えっ、もう夕食食べるんですか!?」

「こちらではこのようになっていますが、時間に希望はございますか?」

「……まあ早く食べられるだけ良いか~。え~と、8階だよね? 行こっか!」


 シオミセイラは私のフィギュアを持ったまま8階に向かう。

 ……行きましょうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る