第12話 積み重なった埃を払って
9階の聖女の塔の空き部屋は残り5部屋だ。
数代前の聖女の騎士の人数は10数人以上もいたという話がある。
そうなってしまうと下層の部屋を使ってもらうことになるが、今回はそのような心配は不要だ。
王命とはいえ、オズワルド殿下とこの塔の主となったシオミセイラの願いで塔に残ることになった私、この2人の住人が増えたくらいでこの9階の部屋にはまだ余裕がある。
とはいえ空き部屋の選定……。
何も考えないで選んで良いものよね。
どの空き部屋も少し埃っぽいもの。
この際だから全空き部屋を掃除しても良いのだけれど……。
それは越権行為ね。
あくまでこの塔の主はシオミセイラだもの。
実質前聖女であるような私がやるべきことではないわね。
「それで、マリーヴィア様はどの部屋にするんですか? 掃除、僕も手伝いますよ!」
「……そうですね。階段と反対側の部屋にしようかと思います。確か空き部屋になっているはずです」
「それじゃあ行きましょうか」
「おう、掃除なら俺も手伝うぞ!」
「……どうせ暇だ。俺も手伝う」
「マリーヴィア様、私も手伝いますよ」
「……あなた達、今の主はセイラ様ですよね?」
上の階にいるヘイヴル以外の聖女の騎士達が私の手伝いを買って出た。
……そんなに人数がいても部屋に入り切らないのだけれど。
「特にセイラ様からの御命令はないですし、暇なので……」
ヨルペルサスの言葉にそうだそうだとでも言うようにマイロス達は頷く。
……オズワルド殿下は壁に寄りかかっていてこちらを見ていないけれど、部屋は決めないのかしら?
私が促すことでもないわね。
「……わかりました。空き部屋の方に向かいましょう」
私は聖女の騎士達を引き連れて私自身が住む空き部屋に向かうことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
空き部屋の扉を開けてみると相当量の埃が舞った。
「すっごい埃ですね……。マリーヴィア様、僕達が片付けます」
「お前ら乗り込め! 掃除だ掃除だ!」
「待ってください、私1人でも掃除はできますよ!?」
私の静止の声も聞かず、聖女の騎士達は自身の魔力を使って私の部屋の掃除を始めた。
私の魔力でも掃除はできるのに……。
がっくりと私は肩を落とした。
「マリーヴィア。隣、使って良いか?」
「オズワルド殿下……。殿下のお好きなようになさってください」
……ここでオズワルド殿下か。
求婚をぶった切った身としては正直気まずいのよね……。
「そうか。掃除をしてくる」
「はい」
この国の第一王子たるオズワルド殿下の私室となる部屋の片付けを手伝うわけにもいかないので私は暇を持て余す。
私の部屋はものすごい音がしているし、どうなってしまっているのかしら?
──ベッドは無事よね?
私、寝れるわよね?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
まだ私の部屋の掃除が終わらない。
魔力があれば簡単に済むと思うのだけれど、どういうわけか響く雄叫びが部屋の中を覗くのを躊躇させる。
……この部屋に以前住んでいた人が置いていってしまったものでもあるのかしら?
「マリーヴィア、どうしてここに佇んでいるんだい?」
「ヘイヴル……。この部屋の掃除をマイロス達がしているので何も手が出せない状況となっていまして……。ヘイヴルこそ、どうしたのですか? 聖女様は……」
「聖女様は昼寝中だよ。こんなに大きいベッドはない、なんて言って楽しんでいるうちにそのまま寝てしまったみたいでね」
「……まあ、そのようなことが」
確かにあのベッドはデカい。
あのベッドは私4人が大の字になっても面積が余るくらい特徴的なベッドではある。
だからといって昼寝までするものなのかしら?
「さて、僕もこの階に部屋を持とうかな。どういうわけか、キミの隣の部屋をオズワルド殿下が持っているようだし」
「では、護衛部屋は誰が入るのですか? 聖女様に何かがあったら……」
「あの騒がしさならすぐ気づけるよ。それに召喚された聖女は守護があって丈夫だからね」
「それでよろしいのでしょうか? 精神に傷を負うような事があれば……」
「あんなに図太いんだ。大丈夫だろう」
「…………」
なんというか、シオミセイラに対する扱いが雑ではないだろうか?
私の時はもう少し丁寧だったような……。
あれは私が1歳にも満たない幼子だったからというのもあるから?
……釈然としないわね。
「それじゃあ、隣、貰うよ」
「ヘイヴル、埃がすごいです。気をつけてください」
「わかっているよ。だいぶ放置しているからね」
へイヴルは私の部屋の左隣の空き部屋の扉を開けた。
やっぱり埃が舞っている。
「おっと、凄いな。これは念入りにやらないとね。マリーヴィア、暇なら手伝うかい?」
「私で良ければ、是非」
やることもないのでへイヴルの新しい部屋の掃除を手伝うことにする。
……埃、凄いわね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ヘイヴルの部屋の掃除が終わった。
ヘイヴルも私も四属性、火土水風の魔力が使えるので問題なく部屋は綺麗にできた。
それにしても……。
「殺風景ですね、この部屋」
「それはマリーヴィアが住んでいたあの部屋にも言えることだよね?」
「まあ、そうですが……。特に置く物を増やすことに意義を感じなかったのでそうしていただけです」
「そうだ。今度キミの部屋に置く物を僕が見繕うから僕の部屋に置く物も見繕ってよ。それならこの部屋から醸し出される寂しさも拭えるだろう?」
「部屋に置く物を見繕う、ですか……」
贈り物を選ぶセンスに自信がない。
何を送ればいいのかしら?
……この世界の部屋の普通というものがわからない。
タンスやキャビネットのような収納するものがないからそういう物を贈れば良いのかしら?
置物だから大丈夫よね?
「マリーヴィア様〜、お部屋の片付け終わりました〜! あれ? ヘイヴル、どうしてこの部屋を掃除したんですか? ヘイヴルの部屋、上ですよね?」
「僕もこの階に部屋を持とうと思ってね。暇そうなマリーヴィアと一緒に片付けたんだ」
「……そうですね! では、マリーヴィア様、部屋の準備ができたので行きましょう!」
「……俺達、頑張った」
「……掃除、ですよね?」
あそこまでドカドカと物音を立てながら彼らは一体何をしていたのだろうか?
若干の恐怖心を抱きながら私は自分の部屋に行くことにした。
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