第2話 王宮図書室

 王宮図書室には膨大な蔵書がある。国立図書館のほうが数が多いからそちらで借りてくることもあるが、王宮図書室には一般に公開されていない本が多数納められているのだ。貴重な知識の宝庫だ。

 結界が張られているので、王族と許可されたものしか入れない。一応入り口に司書がいるが、もう老齢で大抵居眠りをしているし、起きてわたしに気づいても王女の入室をとがめることはない。

 入室されるものが制限されているため、この中で人に会うことは滅多になく、わたしにとってのオアシスだ。王女の一人きりの時間は貴重で、アルコーブにこもるようにして誰に邪魔されることなく、好きなだけ本を読む。天井まで達する本棚の圧迫感や、かすかにほこりっぽい、古い紙の匂いに鼻がむずむずする感覚さえ嬉しい。

 国立図書館みたいに管理されていないので、場所によっては雑多に本が積み上げられていたりもするが、それはそれで宝さがしみたいで楽しい。大昔の魔法使いの手記とか、側近が書いた聖人の奇跡の記録とかを見つけて、今は失われた魔法や、聖人が作り出した薬草について、わくわくしながら読んできた。

 王家で知識を独占している薬草の本もある。貴重な薬草の生える場所を一般に知らせたら採り尽くされてしまうし、いざ薬が必要となったときに薬草がないなんてことになってしまうからだ。誰にも知られずひっそりとはえている薬草がたくさんあるのだと考えると、宝の在りかを知っているような高揚感がある。わたしが読むようになってから、ときどき本を開いたあとがあるから、王室づきの薬師が見ては薬草を入手しに行っているのだろうなと思っている。

 ここの本は持ち出せないからここで読むしかない。少し前から読んでいる魔石についての本を取り出し、読み始めた。

 すぐに時間を忘れた。



 まだ読みたいけれど、昼食の時間に部屋にいないのがばれるのはまずい。朝食と昼食は自室で摂るようになって、生活の自由度が上がったが、時間通りに食事を摂らないと母に報告されてしまう。本に後ろ髪をひかれつつ自室に戻ったら、まだいないはずのフォドル子爵夫人がソファに座っていた。両手を膝の上で重ね、背筋を伸ばしてわたしを見た。

「カタリンさま、メイドに刺繍を代行させるのはよくありません」

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