6月3日に生まれて
ぬまちゃん
南雲さんに捧ぐ三題噺(不意打ち、あめ、笑う)
「うわはははは!」
──耳に大きく響く笑い声で目を覚ます。
目を開けても周りが見えるようになるのに少し時間がかかる。心なしか頭の芯もズキズキとする。おかしいなぁ、いつも寝起きは良い方なのに今日の私は自分じゃないみたいだ。
「おはよう、諸君。どうかねお目覚めは?」
へ? ここは何処。それに周りにいる知らない人達も誰?
足元はざらざらしてる人工芝みたいで、ぐるりと周りを見渡すと、どうやら大きな空間の中にいるらしい。広い空間をギラギラ照らす人工の光が寝起きの目に痛い。
あ、そうかここって東京ドームとか福岡ドームとかのドーム球場なんだ。そして私たちのいる場所は、普段はプロ野球選手達が活躍してるグラウンド部分なんだ。
でも普段と違うのは、観客席やグラウンドの出入り口にいる人達が観客や選手達じゃない。黒覆面をした警備員風の人達が……自動拳銃を構えてるぅ!
「ここにいる君たちは、昨日の夜のうちに我々が拉致してここに連れて来たのだよ。途中暴れてもらっては困るので、薬で眠らせていたので目覚めが悪い者もいるだろうが、な」
そう言われてみると、昨日の夜、予約してた誕生日用ケーキを近所の美味しいケーキ屋さんに買いに行ってからの記憶がない。あのケーキ、どうなったのだろう? せっかく今日の誕生日にと楽しみにしてたのに。
「ここにいる君たちは、性別、職業、年齢は全てバラバラだが、唯一の共通点があるのだよ。それは、誕生日が『6月3日』であることだ。コレは我が教団の神に対する生け贄としての唯一絶対なる条件だからな」
え? 今なんかとんでも無いことをシレっと言った、よね。
グラウンドにいる人達も当然そこは聞き逃さない。一斉にざわめきが大きくなり中には騒ぎ出す人達も出始める。
ターンッ!
と、ドーム内に響き渡るライフル銃による一発の銃声。その銃声と同時に、騒ぎの中で一番大声を上げていた中年の男性の頭がバラバラに吹き飛ぶ。
「きゃぁー!」
「うわぁぁ!」
「……!」
吹き飛んだ頭部のカケラを浴びた男性周辺の人達は、声を上げ血だらけになって呆然とそこに立ち尽くす。いきなりの展開に、私たちのざわめきも収まる。
「君たちは自分の立場がわかっていないようだね。生け贄候補をわざわざ何千人も集めたのだ、一人や二人居なくなっても我々は困らない。逆に選別の手間が省ける、と言うわけだ」
え? 何、選別って。
今度はひそひそと隣同士で会話が始まる。
「選別って。まさか、グラウンド外野側の『YES』と『NO』のカンバンじゃ無いよな……」
「まさか、どこかのテレビ局のクイズ番組じゃあるまいし」
言われて気がついた。私たちのいる内野の人工芝の場所から、外野側に向かってYESとNOと大きく書かれた看板が立っていて、その間に大きな白線が引かれてる。コレってクイズ番組で良くある二択式? と言うことか。
「すでに勘のいい者は気がついているらしいので、細かい説明は省く。コレからの質問に答えてくれれば良いのだ。それでは、候補者の選抜を始める」
何処からともなく聞こえて来る声は、有無をも言わさないように告げる。私たちはノロノロと外野に向かって歩き出す。
「第一問、我が教団の神は『あめ』が好きか? 制限時間は10秒だ。時間内に『YES』か『NO』のエリアに移動せよ。それ以外の場所にいた者は参加の意思なしとみなして射殺される──」
私たちは慌ててどちらかのエリアに移動する。質問に正解すると取り敢えず生き残れるのは確かだからみんな必死だ。でもどんなに考えても正解なんか判らない。もう、あなた達教団の神にでも祈るしか無い。
「時間だ……」
どちらのエリアにいる者も、これからどうなるのか分からない。お互いに固唾を飲んで自分たちに降りかかるであろう境遇を見守る。
「正解はYESだ。なぜなら、我が神に好き嫌いなどないからな!」
と、その瞬間に『NO』のエリアにいた人達の姿は一瞬に消えてしまった。
「ふはははは。正解を答えられない愚か者は、真っ先に生贄となって神の元へと送られるのだ」
え? 生け贄を選別してるって言ってたのに、不正解者が生け贄になるの? クイズの結果どうなるのか詳細が不明なまま、これからも地獄のクイズは続くのかしら──どうしよう。
そう思っていたら、正解者グループの中でも特に若そうな男子達が後ろの方で話し合ってる声が聞こえて来た。
「おい、どうもクイズが始まってから出入り口の黒覆面がいなくなってるぞ。アイツらも油断してるみたいだから、今なら不意打ちをかましてここから脱出出来るかもしれないぞ」
私は、彼らの話を小耳に挟んで密かに拳をグッと握る。っしゃ、まだ行ける。希望は捨てちゃ駄目だ、チャンスはあるんだ。と思っていたら……
「我らが神は全能だ。お前らの反逆プランは全て筒抜けで不意打ちなど不可能だ。お前達はまだ我らが神の素晴らしさを理解していないようだ。見せしめのために反逆者に天罰を与える!」
バリバリ、バリッ!
「うぎゃあああ!」
そんな声と共に、後ろにいた若者達にドームの天井からカミナリのようなイナズマが打ち付けられ、あっという間に彼らは黒焦げに。
どうしよう、このまま地獄のゲームは続くの? 折角の誕生日だったのに。ケーキもまだ食べてないのに──
* * *
「……、さつき、サツキ!」
* * *
「どうしたんだ! うなされてたぞ」
「え、あ、私寝てた?」
旦那が、悪夢にうなされていた私の体を揺さぶって起こしてくれたようだ。
あれは夢だったんだ。良かった。
私はふらふらとした足取りでベッドから起き上がり、落ち着くためにキッチンで冷たい水を飲む。
!
と誰かに見られてる気配を感じて、後ろを振り返る。でもそこには優しそうに微笑んでいる旦那が一人。
あれ? あんな人形あったっけか。
旦那の座ってるソファーの後ろの出窓には、趣味で集めた沢山の人形が並んでいるのだけれど、その中に悪魔パズスに似た人形がいつの間にか混じっていた。
そういえば、あの悪夢の中の声って、落ち着いて考えると旦那の声にソックリだよね……
(了)
6月3日に生まれて ぬまちゃん @numachan
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