【リライト】 風雅ありす 様『宇宙樹の生贄~アムルと不思議な竜〜』

【原作品タイトル】

『宇宙樹の生贄~アムルと不思議な竜〜』


【原作者】

 風雅ありす 様


【原文直リンク】

 https://kakuyomu.jp/works/16818622176238440603/episodes/16818622176269690552


【作品URL】

 https://kakuyomu.jp/works/16817330654352003830



【リライト者コメント】

『アムル』のキャラの中で、私、イサール姉さん(と心の中で呼んでいます)が、一番好きでして。


 特に、本編中の姉さんのセリフなんですが。

「私は、自分のことを大事にできないやつが大嫌いなの。どんな理由があろうと、ね。」

 ここで私、「もう、姉さん! 大好き!」と叫びたくなっちゃいまして。だけど、こんなこと言ってるのに、大切な人達への情も捨てきれない一面も、姉さんにはあって。そういう、アンバランスさも、とっても魅力的なんですよね。


 お恥ずかしい話なのですが、実は私、好きなキャラには勝手にテーマ曲を選んでしまうという妙なクセがありまして。イサール姉さんの舞も、芝草の選曲で踊ってもらった次第です。


 そんなわけで、今回もこりずに好き勝手書かせてもらっております。解釈違いになっておりましたら、本当に申し訳ございません。


 この場を借りて、風雅ありす 様へ、心からの感謝を。素敵な物語、そして、素敵な企画をありがとうございました。


 ==▼以下、リライト文。============



「さぁさぁ、みなさん聞いていって、見ていって♪ ウィンガム一の舞姫が踊りますよぉ~♬」


 灰色の空の下。さびれた広場で、アムルが大声をあげて、手を叩く。

 でも、反応はゼロ。

 足を止める人はおろか、アムルの声に耳をかしてくれる人はいないらしい。背中を丸め、そそくさと道を歩いていた数人が、迷惑そうな視線をよこすくらいだ。


 それでもアムルはめげない。


「さっ、イサール! ……ってあれ? イサール、どこいくの?」


 小首をかしげるアムルの背後で、コソコソと忍び歩きをするイサールの背中がギクッと跳ねる。スラリとした長身を必死に縮めて歩くさまは、いい大人のかくれんぼのようで、不格好だった。


「……いや、踊れるわけないでしょ!」

 イサールは丸めた背中ごしに、アムルを恨めしそうに振り返った。

「なんで、私がこんなところで踊るの? どういう発想、それ?!」


「イサールの舞を見れば、きっとみんな、イサールの話を聞いてくれるんじゃないかな。だって、ワトルが褒めてくれるくらい踊りが上手だったんでしょう? そうしたら、風樹のために祈ってって、お願いすればいいよ!」 

 名案でしょう、とアムルが笑顔で両腕を広げてみせる。

「だから、踊ってよ! イサール!」


 イサールは、肩を落として溜め息をついた。

「あのねぇ、それはもう二年も前の話なのよ。今さら私が何をしたって……」


「それとも、舞が上手っていうのは嘘なの? 下手くそだから、みんなに見られたくないの?」

 アムルは邪気の無い瞳でイサールに問いかける。

「イサールは、舞が嫌い?」


 ひくり。イサールの頬がひきつる。


「くっ……言ったわね」

 丸めていた背をすっと伸ばすと、イサールは立ち上がる。

 そのまま流れるような動作で、両手を天に掲げると、唐突に三拍子を刻み始めた。


 アムルはイサールを見上げて、きょとん、と小首をかしげる。


「ほら、手拍子くらいしなさいよ。言い出したのはあなたでしょ?」


 イサールに促されたアムルは、慌てて手を打ち始める。

 始めこそぎこちなかったアムルの手拍子は、イサールに導かれ、次第に軽く弾みだす。


「悪くない手拍子パルマだわ。アムル、あなたセンスあるわよ」

 イサールがさらりと称賛すると、アムルの瞳が輝いた。


 イサールは満足げに頷くと、身支度を始めた。

 やわらかい腰布を肩にかける。すらりとした腕を掲げ、銀の髪留めを二つ引き抜く。

 まるで、扇が広がるように、イサールの翡翠色の長髪がふわりと揺れた。


「そのまま手拍子、お願いね。アムル、あなたのために、踊ってあげる」

 イサールはすっと伸ばした背中越しに、ウインクした。

「でも、惚れちゃダメよ」


 アムルの顔がぱぁっと晴れた。手拍子にも一段と熱がこもっている。

 その手拍子につられたのか。自分の鼓動が強いリズムを打つのをイサールは感じた。


 短く深い呼吸をすると、イサールは手拍子の流れに飛び込む。

 力強い三拍子のステップがレンガの石畳を打った瞬間、空気が変わった。


 シャラン、と軽やかな音を纏い、輝く髪飾りが、空を切るたび。

 鋭いターンと一緒に、長髪が翡翠色の渦を作るたび。

 さびれた広場に魔法がかかっていく。そこはもう、舞姫のための舞台に変わっていた。


 一度動き出してみれば、体は覚えているものらしい。かつては逃げ出すくらいに嫌々踊っていたはずなのに。どうして、自分はまた、この町で、踊っているのか。

 答えは分からない。でも、アムルの瞳が輝くたびに、イサールの舞は熱を増していくのだ。


 ――我ながら、乗せられやすいってことかしらね――

 自嘲的な苦笑いも、アムルの手拍子に流されてしまうのだから、敵わない。

 ――あぁ。今だけは、この子のための舞姫になってもいいかもね。


 イサールのステップが。アムルの手拍子が。

 風の止んだ町の空気を揺らして、波紋を呼んだのかもしれない。


 いつの間にか、広場に人が集まり始めた。

 むっつりと歩いていた男が足を止め。

 うつむきながら歩いていた女が立ち止まり。

 おっかなびっくり子供たちが近づいてくる。


「おいで、おいで」と言わんばかりのアムルは、手拍子をしながら、観客に笑顔を振りまいた。イサールもいたずらっぽく流し目をしてみせる。


 広場に人垣ができたころには、手拍子をする人は、アムルだけではなくなった。


 宿屋の女将が、鼻歌交じりに木箱を叩いて、こじゃれたリズムを刻んでいる。

 ギターを持ってきて情熱的な旋律を奏でているのは、酒好きなパン屋の主人ではないか。


 視界の端々に映る、見覚えのある人々が、イサールの舞に、懐かしいメロディを重ねていく。


 ――お前は、ウィンガム一の舞姫だ――

 懐かしいメロディと一緒に、イサールの胸によみがえってきたのは、ワトルの言葉。

 アムルのための舞姫は、いつの間にか、みんなの舞姫になっていた。


 その時。空を覆う灰色の雲がふっ、と切れる。

 ウィンガムの街に降ってきた一筋の光が照らしたのは、翡翠色の長髪をなびかせる舞姫と、それを囲む観客。そして、人々を見守るように、そびえる風樹だった。

 アムルの脳裏で、あのタペストリーが重なる。

「うわぁ、イサール! とってもステキ!」

 

 広場が一体化し、その場いた全員の心が最絶頂に達するかと思われたその瞬間、野太い声が割って入った。


「おいっ、お前らか! 最近この街に居座っている余所者よそものは」


 楽の音が、ぴたりとやむ。


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