【リライト】りつか 様『今日もウエザワさんはすごく可愛い』

【原作品タイトル】

 今日もウエザワさんはすごく可愛い


【原作者】

 りつか 様


【原文直リンク】

 https://kakuyomu.jp/works/16818622176308107197/episodes/16818622176311704852


【作品URL】

 https://kakuyomu.jp/works/16818093091294491560


【リライト者コメント】

 ひとめぼれ、だったと思います。

 特に、抜粋していない本編を読んですぐに、この物語が大好きになりました。

 ウエザワさんだけでなく、物語そのものが、すごく可愛いのですよね。まさに看板に偽り無し!


 本編で好きなシーンをどうしても入れたくなってしまって。

 作者様の言葉に甘えて、またまた好き勝手に書かせてもらっております。

 ……解釈違いになっていたら、本当に申し訳ございません。


 この場を借りて、りつか 様へ、心から感謝を。素敵な物語を、本当にありがとうございました。



 ==▼以下、リライト文。============



 コロッケなんて、どこで買っても同じだろ。

 たしか、二か月くらい前のことだ。学校帰りに、母さんにお使いを頼まれたオレは、そう思っていた。あの日、までは。


 ショッピングモールの一角に、ちまっと佇む全国チェーンの豚カツ屋。

 コロッケを買うなら、この店じゃなきゃ意味がない。今のオレはそう思う。


 ――いるかな?


 キツネ色の揚げ物が並ぶショーケースの向こう。香ばしい油においが漂う店の奥。

 ちょこまか動く、赤いエプロンを付けた同じ年くらいの女性のシルエットが見えた。


 ――やった、いた! ウエザワさんだ!


 心の中で小さくガッツポーズ。制服のブレザーのしわをのばして、自然と緩む自分の頬を素早く叩きながら、オレはゆっくりとショーケースに近づく。


 来店客――もとい、オレに気づいたのだろう。せわしなく動いていたシルエットが止まる。カウンターの上部から、彼女のまん丸い目がひょっこりと現れた。


「あ! いらっしゃいませ。ご来店ありがとうございます」

 澄んだ小鳥の声のような、よく通るウエザワさんの声。


 どうも、俺の体は、彼女の声を聞くと急に反応が鈍くなってしまうらしい。


「あ、あの、コロッケを……」


 カラカラの声でぼそりと言うオレに、ウエザワさんは四本の指を立てると、右手をひらりと振った。


「コロッケ四つ、ですよね?」

 はにかむような微笑みを浮かべ、小首を傾げる彼女の顔を見ると、オレの胸がきゅぅっと震えた。

 

 ヤバイ。声がもう、出ない。

 返事の代わりにコクコク頷くオレ。

 ――もうちょっと上手く喋れねぇのか――とか言うのは無しにしてくれ。そんなの、オレが一番思ってんだから。


「いつもありがとうございます」

 ウエザワさんは楽しそうに返事をすると、パックにコロッケを詰めだす。


 ちょこまかと動きながら、手際よく働くウエザワさんを眺めながら、オレはぼんやり思案する。


 ――この人、いつもコロッケばかりだな――って思われたら、どうしよう? 

 ――豚カツ屋なんだからたまには豚カツも買えばいいのに――とか、他の店員さんと話してたりしてたら?

 次のお使いの時には、母さんに提案してみようかな……?


「あの、ご確認をお願いします」

 澄んだ小鳥のような声で、オレは現実に戻る。


 香ばしい油のにおいを漂わせ、キラキラとキツネ色に輝く大きなコロッケが四つ。パックの中からはみ出しそうなくらいにぎっしり詰められていた。


 ウエザワさんは、めいっぱい腕を伸ばして、パックを少し斜めに持ち上げてくれている。もしかして、オレが見やすいように、だろうか?


 ヤバイ。ウエザワさんのやさしさが沁みて、声が出ない。

 調子の悪いおもちゃみたいに、無言のままコクコクと頷くオレ。


 彼女は小さくうなずいてショーケースの影に引っ込んだ。

 たぶん、レジを打っているのだろう。ショーケースの上部から、彼女の頭の三角巾だけが、ひょこひょこ動いているのが見える。


「二百二十円のお返しです」

 ショーケース越しにウエザワさんの手がこちらに伸びてきた。

 子供みたいな、小さくてやわらかそうな白い手の平の上に、ピカピカの硬貨が並んでいる。


 きた。この瞬間が、一番体が言うことを聞かないんだ。

 

 オレはガチガチの体でごくり、と唾をのむ。

 手汗、手汗がヤバイ。

 オレは手早くズボンで手のひらをぬぐい、彼女の手に向かって小さく震える手を伸ばす。


 手汗のせいか、震えのせいかは分からない。

 でも、オレの手がウエザワさんの手に触れた瞬間、派手な音とともに、硬貨が床に散らばった。


 やっちまった。どれだけバカなんだ。


「あっ」と出た声は、ウエザワさんと重なる。

 瞬時に顔が熱くなって、オレの体は固まってしまった。


「大丈夫ですか?」

 ちょこまかとカウンターから出てきてくれたウエザワさんは、オレがまごついている間に硬貨を拾い集める。


「ごめんなさいっ!」

 オレの手をとって、そっと硬貨を渡すウエザワさんの頬は、少し赤く見えた。


「またお越しくださいね!」

 ショーケースの前で、ペコリとお辞儀するウエザワさんは思ったよりずっと小柄だった。彼女の頭の位置は、オレの胸あたり。ショーケースの上に、彼女の顔がギリギリ見えるといったところだろうか。


 ……え。じゃあ、オレを接客してくれてた時は。ウエザワさん、つま先立ちしてたの?


 過去一番で、オレの胸がきゅーっと締め付けられた。ヤバイ。息もできない。


 やっぱり、コロッケを買うならこの店じゃなきゃ、意味がない。

 だから。

 店を後にしたオレは、口の中でつぶやいた。

「……また絶対に、お越しします」


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