第4話「敏感ポイントと猫の行動学」

「ここ好きだよな」


「にゃあ〜♪」


猫の耳の後ろは特別な場所だ。ここには「耳下腺」があり、フェロモンを分泌する。猫同士が挨拶する時、お互いの耳の後ろを嗅ぐのはこのため。人間が触ると、まるで仲間に認められたような安心感を得るらしい。


でも突然、ミーちゃんが僕の膝から飛び降りて四つん這いになった。お尻を僕の方に向けて、しっぽをぴんと立てている。


「おお、お尻撫でて欲しいのか」


「にゃあ♪」


猫がお尻を向けて尻尾を立てるポーズ。これは子猫が母猫にお尻を舐めてもらう時の姿勢だ。排泄を促すためのグルーミングの名残。つまりこれも究極の信頼の証。

僕は迷わずミーちゃんのお尻をポンポンと軽く叩いた。


「にゃああああ〜♪」


ミーちゃんが感極まったような声を上げる。


「いい子だな〜」


ぽんぽんぽん、とリズムよく叩いてから、今度は尻尾の付け根をくりくりと撫でる。


「にゃあああああ〜♪」


ミーちゃんが腰をくねらせながら鳴く。完全に猫のそれ。


尻尾の付け根は猫の超敏感ポイント。ここには多くの神経が集中している。野生では他の猫に触られることのない場所だから、ここを撫でられると猫は混乱と快感を同時に感じるらしい。まさに猫だけの特権的な気持ちよさなんだ。


「うわああああ!」佐藤と美咲が同時に絶叫。


「田中、お前それ…」


「猫のお尻だ」


「いや、でも」


「猫です」ミーちゃんが振り返って断言。「私は猫なので、お尻を撫でられるのは普通のことです」


そして再び僕の方を向いて、


「にゃあ〜」


もっと撫でて、という意味のお願い。


「はいはい」


僕がもう一度お尻をぽんぽんすると、ミーちゃんは幸せそうに「にゃあ〜♪」と鳴いた。

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