第5話「完璧な信頼関係と明日への約束」

# 第5話 信頼の証明と新たな気づき


「完全になついてるな」


佐藤が感心したような声で言った。僕の膝の上で満足そうに目を細めているミーちゃんを見ながら。


「そりゃそうだ。俺は猫の扱いのプロだからな」


僕は少し得意げに答えた。この二週間で、ミーちゃんの好みや癖を完璧に把握できるようになった。どこを撫でれば喜ぶか、どんな声で鳴いているときは何を求めているか、全部分かる。


美咲がぐったりと頭を抱えた。


「ねえ、ミーちゃん」


「なあに?」


ミーちゃんが美咲の方を向く。その顔は完全にリラックスしていて、警戒心のかけらもない。


「あなた、本当に何も感じないの?男の人にそんなにべたべた触られて」


美咲の質問に、ミーちゃんは首をかしげた。


「感じますよ。すごく気持ちいいです」


「そうじゃなくて…その…」


美咲が言葉を濁す。彼女の頬が少し赤くなっているのが見えた。


「だって私、猫ですから」


ミーちゃんの答えは相変わらずシンプルだった。


ここで猫の感情について最後の豆知識。猫は人間ほど複雑な羞恥心を持たない。彼らにとって重要なのは「安全」「快適」「信頼」の三つ。ミーちゃんが僕を信頼しているのは、僕が猫としての彼女を理解し、尊重しているからだ。


そして僕も、ミーちゃんのそんな純粋さが好きだった。計算や駆け引きのない、ストレートな信頼関係。これこそが人間と猫の理想的な関係なんだと思う。


ミーちゃんは当然のように答えて、再び僕の膝に戻ってきた。


「にゃあ〜」


今度は少し甘えるような鳴き声。何かして欲しいときの声だ。


「今度は何だ?」


ミーちゃんが僕の手を取って、自分のお腹に持っていく。


「ああ、お腹撫でて欲しいのか」


「にゃあ♪」


肯定の短い鳴き声。僕がミーちゃんのお腹をくるくると撫でると、彼女は「にゃああ〜♪」と恍惚とした声を上げた。


お腹を見せるのは猫にとって究極の信頼の証。野生では絶対に見せることのない急所を、こんなにも無防備に晒してくれる。それだけ僕を信頼してくれているということだ。


「この子、田中くんを完全に信頼してるのね」美咲がため息。


「猫として、な」


僕は答えながら、ミーちゃんの柔らかいお腹を優しく撫で続けた。彼女の体温が手のひらに伝わってくる。


「にゃあ〜♪」


ミーちゃんが幸せそうに鳴く。その表情を見ていると、僕も自然と笑顔になってしまう。


僕も満足だった。猫の扱いがこんなに上手いなんて、自分でも驚きだ。もしかしたら僕には隠れた才能があるのかもしれない。


人間と猫の関係は約9000年前から続いている。最初は実用的な関係だったが、今では家族同然。ミーちゃんと僕の関係も、きっとそんな長い歴史の延長線上にあるんだ。


そう思うと、なんだか感慨深くなった。僕とミーちゃんは、人類と猫族の長い共生の歴史を体現しているのかもしれない。


「明日も来るんだろ?」


「にゃあ♪」


いつもの嬉しそうな鳴き声。


「よし、明日はもっといっぱい撫でてやるからな」


「にゃああ〜♪」


ミーちゃんが嬉しそうに鳴いた。その時、彼女が僕の手をぎゅっと握ったような気がした。


猫っていいな、と思った。


そして猫耳美少女も、いいなと思った。


その瞬間、僕の中で何かが変わったような気がした。ミーちゃんは確かに猫だ。でも同時に、とても可愛い女の子でもある。


その事実を、僕はようやく素直に認められるようになったのかもしれない。


「にゃあ〜」


ミーちゃんが僕を見上げて、またゆっくりと瞬きをした。猫のキス。


僕も思わず、同じようにゆっくりと瞬きを返した。


「あら」美咲が小さく声を上げる。「田中くん、今…」


「え?」


「なんでもない」美咲が微笑む。「なんか、いい感じね」


僕にはその意味がよく分からなかったが、ミーちゃんが幸せそうにしているのを見て、それで十分だと思った。


明日も、彼女の笑顔が見たい。


猫として、そして——


いや、やっぱり今は考えないでおこう。今は、この温かい時間を大切にしたいから。

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