前章 起
よくある住宅街にある、よくある家。僕がその家から排出されると、よくある道を歩くことになる。
近くの小中学校へ向かう姿も多いが(僕だって2年前はその仲間だった)、次いで多い群れの中に入る。この群れは駅へ向かっていて、僕も高校へ行くためには駅を使うので、混ざらせてもらう。
地方教会の脇を通り、中学のグラウンドが見えたら曲がり、河川敷にかかった橋を通る。もうそろそろ、先輩と合流する場所だ。
「あ、おはようございますぅ」
丈の足りない学ランと安っぽい眼鏡。そこそこ背が高い上、素材は悪くないのだが。
先輩は母の友人の息子であり、僕も小さい頃には時折会っていた。高校が同じと分かって再会し、1年近く登園しているが、この人の謙虚さは相変わらずである。
何せ、癖の強い家庭環境をお持ちである。先輩の父親はひどい酒乱で、いつしか会社も辞めて酒に溺れ、母親に手をあげ始めたらしい。
それに気付いた僕の母が仲介したことで離婚は成立したようだが、今度は母親自身が精神崩壊。元々熱心な天使教徒ではあったが、分派と呼ぶには少々怪しげな関連教会に、色々と貢いでいるらしい。先輩の見た目からお察しである。
それでも健気に息子をやっている先輩には、若干やるせなさを感じる。しかし正直なところ敬服もしている。
「今日も元気そうですねぇ」
「相変わらずだね、先輩も」
「君も変わらずツンツンなんですからぁ」
こういう物言いだから、素直に伝えたことはないんだけど。
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僕の高校は偏差値は少し高く、大きな道路からは外れているがそれでも賑やかな場所に建っている。
学ランなんてどこも変わらないが、女子の制服は多少目立つようだ。声をかけられることもあると、昔馴染みは言っていた。その程度には有名な「宗教系の」高校である。
高校の話より、宗教の話をした方がいいだろうか。この国では当たり前だけど、そうじゃない人もいるかもしれない。
天使教は、ざっくり言うと「自らも天使の一員として神の再来を待ちましょう」という教えだ。正式名称もあるが、みんなもっぱらコレである。
各々でお祈りやら奉仕やらも行っているし、週末は地方教会で説教を聞く家庭も多い(僕の家庭は関心薄めだが)。
この高校は天使教が運営をしているので、毎朝のお祈りや奉仕は積極的だ。教師や校長は教徒だが、理事長は神父である。地方教会のソレと違い、神通力も持っている本家本元。
まぁ早い話、偏差値の割に評価が高い為、大学入試が若干楽になるという割りの良い高校なのであった。
ピカピカの外壁と洋風の厳つい門構え。支援をたくさん受けた美しい校舎に入り、先輩と別れる。向かうはクラス替えしたばかりの教室。
鞄から財布とケータイとラッパ(お祈りに使うものだ。ちなみに100均)だけ取り出し、机に引っかける。そのまま講堂へ向かうためだ。
朝のお祈りに参加しなければならない。
もう1年以上、この生活。
ふと、窓に目が向かう。
朝から一度も見ていなかった。
ほどほどに雲が浮かぶ、よくある晴天だった。
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──
廊下に出て生徒の群れに混ざり、階段を降りる。玄関を横切り渡り廊下を通り、講堂に入った。この学校で一番金が掛かっている建物だ。
生徒全員が確実に座れる数の長椅子が、寄木張りの床に行儀良く整列している。眩しすぎる朝日はステンドグラスを通り、吹き抜けの天井から僕たちの頭を温めてくる。眠気がぶり返してきそうだ。
中間あたりの席を選んで、腰を下ろす。前方は1年生、後方が3年生だ。教師陣は生徒たちを監視するように横一列に並んでいる。
やがて、1人の男が動き出した。重厚な白いローブを纏う、清潔感のある中年である。厳かにゆっくりと、中央の主祭壇へと進んでいく。
「皆さん、おはようございます」
彼が、神父だ。
柔和ともとれる笑顔を浮かべ、机上に置いてある分厚い聖書に手をかざす。ひとりでにペラペラと開くそれに、前方から感嘆の声が漏れていた。神通力というよりマジックだろ、とひっそりごちてみる。
「それでは本日も、朝の祈りを始めましょう」
神よ、朝の恵みを頂けることに感謝します。
神よ、あなたの導きに感謝します。
神よ、あなたと相まみえることを願います。
天使たちと共に
天使たちと共に
空々しい文章だ。
だが内申点に響くので、口元はモゴモゴと動かしておく。ラッパを胸元に添えるだけで、信心深そうに見える気がしている。
視線をあちこちに散らすと、色んな人間がいた。頭を深々と下げながら目を閉じる生徒、額にラッパを擦り付けながら拝む生徒。教師たちも各々の様式で祈りを捧げている。
【to be continued…】
転生したから悪魔を召喚して復讐する話 @ggg0710
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