第6話 彼女の秘密
あの日の映画デートから、俺たちは何度か一緒に出かけるようになった。
だけど今日のこれは、ちょっと特別だ。
「ねぇ、今日は“デート”ってことでいいよね?」
彼女がそう言ったのは、待ち合わせのときだった。
少し照れくさそうに笑いながらも、その目はまっすぐで、
俺は自然と「うん」と頷いていた。
目的地は、水族館。
平日の午後だからか、空いていて静かだった。
「クラゲって、ずっと見てられるんだよね〜」
彼女はぼんやりと水槽の前に立ち、スマホも見ずに言った。
その横顔が思いのほか真剣で、なんか少しドキッとした。
「癒しが足りないんだよ、日々」
「…じゃあ俺が癒しになろうか?」
冗談のつもりで言ったけど、彼女はちょっとだけ目を見開いて、
すぐにぷっと笑った。
「言ったな?ほんとに癒してもらうからね」
水族館のあと、近くのカフェでお茶をして、夕方にはゲームセンターへ。
彼女はクレーンゲームでぬいぐるみを狙い続け、結局俺が取る羽目になった。
「これ、今日の記念にね。彼氏の頑張り賞」
「…いや、彼氏って」
「違うの?(笑)」
冗談めかして言うその言葉に、俺の心臓はちょっと跳ねた。
でも否定する理由も、気持ちも、もうどこにもなかった。
その日の帰り道、電車の中で彼女が言った。
「ねぇ、ちょっと話していい?」
「うん、何?」
少し間をおいて、彼女はぽつりと話し始めた。
「私さ、バツイチなんだ。結婚してたことあるの」
電車の走行音だけが響く中、俺は黙って彼女の話を聞いた。
「しかも、子供もいる。女の子、5歳。元旦那とはもう…無理だった。ちょっと暴力的な人で」
「……そっか」
「びっくりしたでしょ。…でも隠すつもりなかったの。言うならちゃんとした日がいいなって思ってて」
「うん、話してくれてありがとう」
そう言いながら、彼女の手をそっと握った。
驚きがなかったわけじゃない。
でも彼女を好きだって気持ちに、変わりはなかった。
むしろ、もっと大切にしたいと思った。
「…ほんとに、いいの?」
「うん。むしろ、会ってみたい」
「えっ?」
「娘さんに。できれば、仲良くなりたいなって」
彼女は少しだけ目を潤ませて、うん、と小さく頷いた。
物語は、俺だけのものじゃなくなっていく。
彼女と、そしてこれから出会う“小さな誰か”と――。
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