第5話 DM越しの距離と、リアルで会う約束

DMの通知が来るたびに、心がふわっと浮き上がる。


「推しの誕生日ガチャ、惨敗した😇」

「今日の電車、寝癖ひどくなかった?(笑)」


そんなやりとりが、ほぼ毎晩続いていた。

彼女と話すのが、完全に日常の一部になっていた。


昼休みにふとスマホを開いて、メッセージを確認する。

それだけでちょっと元気になれる感じ。


会話のテンポが合うのもそうだけど、彼女は時々びっくりするくらい素直だった。


「最近ちょっと疲れてるけど、DMくると元気出る」

そんなことを、さらっと言ってくれる。


――ある晩、勇気を出して聞いてみた。


「今度、どっか一緒に行きません?」


既読がついて、しばらく返信が来ない。

ああ、やっちゃったかも、って思ってスマホを閉じた。


10分後、通知が鳴った。


「いいよー!映画とか、ゆるいやつがいいな」


嬉しさと同時に、なんか変な汗が出てきた。

まさか本当にOKもらえるとは思ってなかった。


そして迎えた当日。


待ち合わせの駅前に、彼女はラフなパーカー姿で現れた。

髪はポニーテール。ちょっとメイクも控えめ。


「やっほー、来ちゃった。電車じゃないの、なんか新鮮」


映画館へ向かいながらの会話は、いつものDMよりちょっとぎこちなかったけど、

ポップコーンを2人でつついて笑い合う頃には、自然に戻っていた。


「てかさ、こんな普通にデートするの、めっちゃ久々なんだけど」


「それ、俺もです」


言いながら、不意に“これってもうデートなのか”と意識してしまう。


帰り際、彼女がスマホを取り出して俺に見せてきた。


「これ、今日のデート風景(笑)」


Xに投稿する気はなさそうだったけど、2人で撮った写真がそこにあった。


なんだろう。

本当に、少しずつ現実が“物語”に近づいているような気がした。


別れ際、改札前で彼女が言った。


「また遊ぼうね。…うん、次はもっとゆっくり」


その“また”が、思った以上に嬉しかった。

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